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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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猫の王様とエルフの女王様とナニワの令嬢

救出された獣人の王とエルフの女王。二人が放った「正気」の証明は、クーデター軍の大義名分を一瞬で霧散させた。


その御旗の下に集った猫獣人の私兵集団と、ヨトゥンヘイムの軍勢。その圧倒的な実力を前に、軍部の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。私はそんな戦況を、貨物船の上で受ける報告として聞いていた。


「かの軍神フロストが仲間に加わるなら、鎮圧は一週間で終わる。商人として会話の席に着きたいなら、それまでに王族の面倒を見ておきたまえ。───良いかサーシャ、時間は無駄にするんじゃないぞ」


 アリステア兄さんの言葉が脳裏をよぎる。先んじて王族の懐に入り、信頼という名の「先行投資」を済ませておけ、というわけらしい。相変わらず、言葉の裏を読まんと話にならん面倒な人や。


 兄さんが王族の隠れ家として提供したのは、港に停泊する漆黒と金メッキの巨大貨物船───『グルヴェイグ号』。


 ノヴァーリス・ホールディングスの船も巨大だと思っていたが、これは次元が違う。波止場を威圧するように鎮座する姿は、船というより「海に浮く工場」そのもの。


 私はミヤハ率いるメイド部隊二十名、そして兄さんの下で記号化された使用人十名を指揮し、艦内に留まる王たちの世話を任されることになった。



「ミズガルズ王国のビャーカル令嬢よ。此度の働き、実に迅速であった。儂からも礼を言わせてもらおう!」


 もふもふとした鮮やかな紫色の体毛。その奥で爛々と輝く金色の瞳。獣人の国(ヴァナヘイム)の王、キャスパリーグ。


見た目は立派なデブ猫───やなくて、高貴な獅子の風格を持つ猫獣人や。彼は私の手に、分厚く柔らかな肉球を押し当て、力強く握手を求めてきた。


「お久しぶりでございます、キャスパリーグ様。相変わらずのご壮健、何よりでございますわ」


 一礼し、さりげなく手についた紫色の抜け毛を払い落とす。視線を隣へ移せば、そこには座っているのか浮いているのか判然としない、幻想的な女性の姿があった。


 エルフの女王、ニマーヌ様。背中には虹色の蝶を思わせる薄膜の羽根が広がり、南国の強い日差しの下でも一切の濁りを感じさせない、陶器のような白い肌は正しく王女の証だ。

 彼女はその肌を氷枕に沈めたまま、顔をこちらへ向け、ゆったりと瞬きをした。


「世辞はよいわ。はぁ……ここは涼しゅうて、誠に心地がよいのう。サーシャ、お主はいつもこのような場所に身を置いておるのかえ?」


 文通相手である彼女とは、日頃から冷気の必要性について熱く語り合ってきた仲。再会の挨拶も、女子会のような華やかさより「実利」への感嘆が勝る。


「ええ。獣人の国もいずれ、氷で溢れるようになります。そのために私はここまで足を運びましたのよ」


「……妾らを助けに参ったのではありんせんのか?」


「もちろん、それもございます。手紙を受け取ったタイミングが、ちょうどヴァナヘイムが水平線に見えた頃でしたの。……運命を感じますわね」


 私の商売人スマイルに、キャスパリーグ王がベロベロと毛繕いをしながら割り込んできた。


「すごい偶然もあったものだな。おかげで儂らも命拾いをした。して……ここは令嬢の船か? キンピカで随分と大きいが」


「いえ。この船は兄のアリステアが所有するものですわ。私の船は氷を運ぶため、より『現場主義』な設計をしておりますゆえ」


「サーシャ。王の前だからとて、そう肩肘張らんでもよろしいのよ」


ニマーヌ様が氷枕から身を起こし、優しく微笑む。


「いつも通りの、お主らしい言葉で話してくりゃしゃんせ。王も、それでよろしゅうございますか?」


「構わん。儂も生まれはそんなによろしにゃーでな。おたぎゃー、ラフにいこうに」


 快活に笑うキャスパリーグ王。血統ではなく民の投票によって選ばれたという、世界でも稀有な「民意の王」。その懐の広さは、確かに一国の主としての器を感じさせた。


「……畏まりました。せやったら、何かあればウチのメイドに言うてください。王宮より不便でしょうけど、なるべく快適に過ごせるよう配慮しますんで」


「それだったらビャーカル令嬢。一緒にこの貨物船を探検しようじゃないか」


「探検……ですか?」


(いきなり何を言いだすんや、このデカ猫は。命を狙われてる自覚は皆無か?)


「仕事を頼もうにも、何があるのか知らなんだら注文もできんだろう」


 王の提案は、好奇心というより、支配者としての「検分」に近いように思えた。私は二人に深々と頭を下げ、急ぎガイドの準備を承った。


(ガイドも何も……私がこの船知らんのに、どうやって歩いたらええんや。下手に歩き回ったら迷子になるでこれ……)




区切りが良いので、今回は少し短めです。

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