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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 編

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70/100

褐色エルフ少年が新たな仲間に?───ヴィーダル登場

ジリジリと足の裏を焼く砂浜。むせ返るような緑の匂いがこの大地の全てのように思えた。  

村長の許可を得た私たちは、さっそく波打ち際に「ノヴァーリス商会・南国臨時出張所」を設営した。簡易的なテントの下、北国の聖湖から切り出された氷が、場違いなほどの冷気を放つ。


「大盛況だね、サーシャ」


「せやな。ようやっと順調に『冷たい』ってどういうもんか、この島の人にも伝わってき始めたわ。みんな初めのうちはビビってたけど、案外すぐに慣れたな」


 最初の交換レートは、フラッペ一つにつきフルーツ五つ、あるいは魚三尾。それが一刻もしないうちに、七つ、八つと跳ね上がっていっとった。需要が供給を上回る「入れ食い」状態。これこそが商売の醍醐味やな。


 受け取った魚は、すぐさま貨物船の大型保冷櫃へ。これからまだ長旅になるかも知れへんからな。補給はしっかりせんとアカン。

かつての航海は、今の私達みたいにこまめな補給を繰り返す沿岸移動が常道やった。せやけど、これから先、この冷凍技術さえあれば、鮮度を保ったままの長距離航海が可能になる。

“海を制する者が世界を制する”───それは父の言葉や。

私はそれに大きな一歩として保冷櫃を手に入れた。あとは大量の船を手に入れれば、世界に王手がかかる。そのためには大量の木材が必要やのに……まさかこんなところで足止めを食うとはな。


「……補給が終わったら、陸路から獣人の国(ヴァナヘイム)へ使者を出されへんか、村長に相談してみるわ」


「攻撃されたらどうする? 次は本気で船を沈めに来るかもしれないぞ」

 

フロストの目は、すでに戦士のそれに変わっていた。もし次があるなら、私の制止も聞かずにヴァナヘイムを滅ぼしにかかるやろう。そうなれば私の野望───南の木材を手に入れ、ヨトゥンヘイムの氷を世界に運ぶ計画も水の泡や。


この「歩く暴力装置」をいかに手懐け、隣で大人しくさせておくか。それが私の、経営者としての最優先事項といっても過言ではなかった。


「ええかフロスト。ちょっと小突かれたくらいで怒ったらアカンで?」


「ハハッ。冗談が上手いな。殴られたら殴り返す。草の根分けても、一切合切塵芥も残さず鏖殺(おうさつ)するのが我が家の家風だよ」


 爽やかな笑顔で、えげつない「皆殺し宣言」を吐く我が婚約者。

氷点下の世界で身を寄せ合って生きるヨトゥンヘイムの民にとって、仲間の傷は自分の死に直結する。その絆は、温暖な地の人間には理解できんほど重く、苛烈やった。


「……とにかく、隣で大人しくしとき。なんやったら、ビールでも飲んで待ってて」


「ビールか! よし、ビールの時間だ! みんな、ビールの時間だぞ!」


 合図一つで、フロストと私兵団の面々が船へと消えていく。嵐の前の静けさのような平和。僅かな安息に私は安堵した。



その晩、私は村長から待望の吉報を受け取った。


「(使者を出してくださるんですか?)」


私は驚きの余り聞き返してしまう。


「(さよう。お嬢さんの持ってきたものは、悪しきものではない。森の精霊も喜んでおる)」


 焚火に照らされた村長が、フラッペを一口。直後、皺の刻まれた顔がクシャリと歪んだ。全身の毛穴が引き締まり、口を尖らせてこめかみを押さえる。出たな、知覚過敏からの「アイスクリーム頭痛(魔女の呪い)」や。


「(人間の国には、このような食べ物がたくさんあるのか)」


「(マリーン・ヴェイルという街には、それこそ山ほどございますわ)」


 村長はあぐらをかいたまま、しばらく口を閉ざした。

やがて振り返り、暗い熱帯雨林の奥へ向かって手招きをする。星明かりと焚火の境界から、一人の人影が音もなく現れた。


「(この子を使節団として、お前に預けよう。人質だと思ってくれていい。世界を見せてやってくれ)」


 エメラルドグリーンの髪をなびかせた少年が、恭しく頭を垂れる。

「私の名前は、ヴィーダル。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか、姉様」


ハキハキとした、流暢な人間の言葉。……姉様? 私の名前はサーシャや、と訂正しても、少年は「いえ、姉様と呼ばせてください」と譲らない。


「あなたの商売の手腕、感服いたしました。あの偏屈な村の連中を、言葉巧みに虜にするとは思いもよりませんでした。ぜひ、私を弟子にしていただきたい」


 見下ろせば、星空を映してキラキラと輝く瞳が私の目に映る。憧れ純度百パーセントといった感じ。これは、説得でどうにかなる目やなさそうやった。


「……はぁ、しゃあないな。なら、荷物運びからやってもらおうか」


「喜んでお供させていただきます!」


 片膝をつき、仰々しく控える褐色エルフの少年。憧れの眼差しが消えるまで、せいぜい面倒を見たろうか。ちょうど、この蒸し暑い森を歩くためのガイドが欲しかったところやからな。



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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