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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド後編

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パンと麦酒の狂騒曲

フェス終了まで残り三日が迫ったその日。デッドヒートが繰り広げられてるマリーン・ヴェイルの港に、場違いなほどキラキラした黄金の馬車が大量の護衛馬車と共に横付けされた。


「ミズガルズ王国第一王子、ジョン殿下であるぞ、控えろ!」


 日陰のテラス席で冷えたシャーベットを突いていた私は、思わず目を細めた。

 現れたのは、真っ白な軍服に過剰なまでの金飾をジャラつかせた第一王子ジョン。そして、その隣で「平和の象徴」みたいな顔をして微笑むアリシア姫や。


「なんやあいつら……ずいぶん遅い到着やな」


 彼らはまず、自分たちの拠点であるはずの三階建てビル『黒金閣』へと意気揚々と向かっていった。……が。


「……な、なんだこれは。もぬけの殻ではないか!!」


 ジョンの絶叫が砂浜に響く。

 そらそうや。管理人のビッグ・ブラックは私の損害賠償請求にビビって逃亡済み。今あそこにあるのは、溶け残ったわずかな氷と、使い道のない高級食材の残骸だけや。


(ハハッ、ざまぁ見ろ。あんたの飼い犬、一銭も稼がんと尻尾巻いて逃げよったで)


 私は扇子で口元を隠してほくそ笑む。

 ……せやけど、アホの王子はタダでは起きへんかった。

 掲示板に貼り出された現在のランキング───「一位:ノヴァーリス商会」「二位:スプリング・ブルワリー」という文字を見た瞬間、奴の目がどす黒く濁りよった。

「ノヴァーリス商会……サーシャのギルドか……! フフフッ……貴様にだけは、絶対に優勝トロフィーを渡さん」


 ジョン王子は、震える指で二位の『スプリング・ブルワリー』を指差した。

 そして、傍らに控えていた役人に何事か耳打ちし……次の瞬間、とんでもない「禁じ手」を使いよった。


「マリーン・ヴェイルの民よ! 聞くが良い!!」


 ジョンの声が、砂浜を支配する。

 

「度重なる嵐を耐え抜いた諸君に、王家より最高の褒美を遣わそう! 本日よりフェス終了まで、この『スプリング・ブルワリー』の麦酒(ビール)は、すべて私が買い上げた! 好きなだけ飲むが良い! 支払いはすべて、国庫から清算する!!」


 一瞬の静寂。

 ……そして、地鳴りのような歓声が爆発した。


「「「ジョン王子万歳!!」」」


「「「聖君降臨だ! 酒がタダだぞぉぉ!!」」」


 砂浜中の人間が、ゾンビのようにルカの店へと雪崩れ込んでいく。

 タダ酒の魔力に当てられた民衆にとって、さっきまでの「衛生問題」も「王子の無能」も、すべてが泡の中に消えてなくなったようやった。


「な、……な……」


 ルカが泡を吹きそうな顔で、押し寄せる群衆を捌き始める。

 一方で、私の目の前の売上掲示板。

 ルカの店の数字が、見たこともないスピードで跳ね上がり───。

 ───ガコンッ。

 私のノヴァーリス商会を抜き去り、一位の座へと躍り出よった。


「……アホや。アホの極みやな、あのアホンダラ」


 私は椅子に深く背中を預け、天を仰いだ。

 歴史に名高い『パンとサーカス』。民を黙らせるために、食い物と娯楽をバラ撒く最古の愚策。それをこのマリーン・ヴェイルで、あろうことか『パンと麦酒(ビール)』として再現しよった。


「ギルマス……いいんですか? このままじゃ、二位ですよ」


 ソール君が顔を青くして駆け寄ってくるが、私はあえて不敵に笑ってみせた。


「いや……まぁ……困るけどなぁ」


「……歯切れ悪いですねぇ? 嬉しくないような、嬉しいような、みたいな感じですか?」


「スプリング・ブルワリーとは、ジョッキを冷やす氷もうちらが卸す仲やしな。ライバル店といっても売上やって、二割をうちに納める契約を結んどる。つまり……。あのジョン王子がブチ撒けている金の二割は、全部うちらの懐に『氷代』としてスライドしてくるんやで?」


私の複雑な心境を察してくれたのか、ソール君は合点がいったように口をあんぐりさせた。


「あっ……!!」


「あのアホ。自分の嫌がらせが、そのまま私への『ご祝儀』になっとることに気づいてへんねん。───わかるか、この微妙に喜べん状況。王子の馬鹿は今に始まった事やないから、そこは驚かへん。それでウチが凄い儲けてるのがなんか気に食わんだけでな」

 

私は苦笑いする。


 あいつ、私への嫌がらせを頑張れば頑張るほど、結果的に私の懐を温めとる。いっそ憐れや。トビーより道化の才能がある。


 それでいて、きっちり無能なりに私をムカつかせるんやから、ホンマあいつは周囲に人災を撒き散らす天才やと思う。


 どれだけ利益が舞い込もうと、あのアホ王子がドヤ顔でルカにトロフィーを授与する光景なんて、死んでも見たくない。


 ……せやけど相手は、王家の金で「需要を無限化」したスプリング・ブルワリーや。

 真っ当に数を競えば、一秒間に百杯売っても追いつかへん。


「……よりにもよって残り三日か。最後のデッドヒートに顔出すとか。相変わらずジョンしてるな」


文字通り命懸けで働けば働くほど、金が入ってくるようになったスプリング・ブルワリーと、戦わなくてはならなくなった以上、私たちに残されたのは商品の価値を最大限高めるか、客を高速回転させるしかない。


そうしなければ、青天井に売り上げを叩きだすスプリング・ブルワリーには勝てん。

私は悩んだ末に最後の秘策を切ることにした。






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ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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