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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド後編

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優勝できない本当の理由───ナニワの令嬢は砂浜で氷の女神になりました

 ビッグ・ブラックはスプリングフェスから撤退した三日後。

 スプリングフェス10日目。

 鼻を突く腐敗臭が消えた砂浜で、私はなぜか商人たちから氷の女神として崇められとった。


「ノヴァーリス商会のギルドマスター、バイカル子爵令嬢! 我々もぜひあなたの傘下に加えて戴きたい!」


 必死な笑顔で擦り寄ってくるオーナーたち。

 ……いや、女神様なんてガラやないで。私はただ、腐りかけの在庫を「資産」に変える手伝いをして、ついでに将来の独占契約をむしり取ってるだけの、強欲な商人やからな。


「いや……それがやな」


 私の氷を売ることに反対はせえへん。

 ……ちょっとこっちの在庫状況に問題があるだけで、売りたい気持ちは満々や。

 せやけど少し新しい契約は待ってもらうことにした。


 そんなオーナーたちと入れ替わりでソール君はやってきた。


「保冷櫃の生産が追い付いてない……ですか?」


 ソール君が無念そうに呟いた。

 彼が用意した保冷櫃はあくまで、金庫のような小規模なもの。

 大規模に商品を冷やす業務用冷蔵庫やない。


 どれだけ需要に対して価格を高騰させても、上がり続ける天井知らずの需要に、コチラも数を増やして抵抗しようとしたけど、間に合ってへんのが現状やった。


「む、無念です……」


 行列整理のリーダーと、金物屋への発注管理。

 二足の草鞋わらじで走り回るソール君は、自慢の美脚もガクガクで、トレードマークの笑顔も死にかけの天使みたいになっとった。


「自分も色々やり始めて、やっとギルマスの凄さの一端に気づけた気がします……」


 ソール君はまだ保冷櫃売りを始めたばかりやというのに、もう音を上げてるようやった。これからギルドも大きくなったら、仕事と従業員も増える。

 負担と責任は更に大きくなるというのに。


「どんどんソール君も従業員雇って、人材育成せんとな。全部一人でやってたら身が持たんで。役割分担や」


「もちろんそのつもりですけど。そう良い人材は簡単に見つからないものですよ」


 大きな溜息を吐きながら、彼は箱に詰まったナンバープレートの順番を並び換えて整頓していく。


 私は何も出来へんから人を頼る癖がついてるけど、なまじソール君は人並み以上になんでもそつなくこなせるせいで、無茶が出来るんやろう。贅沢な悩みや。


「なんや、ちょっと悩み事が大人っぽくなってきたな」


「こんな大人の階段なら勘弁願いたいものですよ。───そんなことよりも、ギルマス」


「……ん? なんや」


「先ほどから何を悩んでいらっしゃるんです? 見たところ、氷の分配先で困っておられるようですが」


 ひょこっとパラソルの下にやってくるソール君。日陰にいるのはええけど、サボりを許した覚えはない。


「自分の仕事に戻り。私は私でやることがあるから」


「ここまで話し相手をさせておいて、その扱いはどうかと思います」


 好奇心の獣が顔を覗かせて、キラキラと目を光らせとる。

 これをあしらうのはちょっと根気がいりそうや。

 仕方なく諦めて私は書類を見せてやることにした。これも人材育成の一環や。


「うわっ……提携先どんだけ増えたんですかこれっ。浜辺にいるほぼ全ての店と提携したんですか? しかもそのせいで氷の消費量がとんでもないことに……」


 ソール君は見事に現在私が置かれている新たな問題を説明してくれた。

 現在、私が抱えている問題。それは、あまりに業者間取引(B to B)が成功しすぎてしまったことや。

 氷を売れば売るほど、提携店は潤い、私の(ふところ)には莫大なマージンが入ってくる。

 純利益だけなら、今すぐフェスを中止して高笑いできるレベルや。


 ───せやけど。スプリングフェスの審査基準は、あくまで「店舗での一般客((B to C)の売上」。

 他の店に氷を卸せば、うちらの貴重な「商品」が、ライバルたちの売上を助ける武器に化ける。

 卸せば卸すほど、ノヴァーリス商会のランキング順位は落ちていくようなロジックのドツボに嵌っとった。


「……このフェスが純利益勝負やったら、ぶっちぎりで優勝確定なんやけどな」


 それに今さら「氷の供給止めまーす、自分とこの優勝が優先なんで!」なんて言うてみ? それこそ手のひらを返した商人たちが松明持って押し寄せて、うちらの店は炭どころか灰すら残らん地獄になる。


「その時は僕も参加しますね!」


 ソール君はにこやかにそういった。契約には彼とトビーが作った新しいギルドも一枚噛んどる。そのため損が出れば、誰がせずとも、自分が真っ先にお礼参りをすると、ソール君に言われているような気がした。


 元手がないからウルスラに借金して保冷櫃を作ってるみたいやし、今の事業が失敗したら、ソール君はしばらくうちの従業員として不動の地位を築くことになるやろう。

 そうならんためにも、私はこの契約を続ける必要があった。


「前にギルマスのお兄さんに優勝できないって言われたんですよね。これが原因じゃないですか?」


 ソールの言葉に、私の心臓が嫌な跳ね方をした。


「まさか……」


「需要があって、助けを求める声があれば、ギルマスは絶対にそれを捨てられない。お兄さんは、貴女が『冷酷なだけの合理主義者』じゃないことを見抜いて、このどん詰まりを予言してたんじゃないでしょうか」


「……深読みしすぎや。あのアホの兄さんは、ただ私をからかって楽しんどるだけやで」


 私は強がって笑い飛ばした。せやけど、背中には嫌な汗が流れとる。


「たぶんお兄さんは分かってたんですよ。氷の需要が高いことも、ギルマスがそれを上手く利用して利益を上げることも。……だから、あえて『優勝はできない』と突き放して───」


「ストップ、ソール君。それ以上は言霊になる」


「へぇ……ギルマスって神様とか言霊とか、そういうのを信じるタイプなんですか? 意外と信心深いんですね」


「当たり前や。商人はゲン担ぎしてなんぼやろ。無謀な挑戦をする時ほど、目に見えん安心材料は一つでも多いほうがええんや」


「僕は遠慮しておきます。……そういう不確かなものに頼る気にはなれないので」


「……フン、可愛げのない。反抗期か?」


「僕が敬虔な信徒に見えますか? 僕は僕を可愛いと言ってくれる人だけを信じます」


 えっへん、と華奢な胸を張るソール君。

 この子、自分のギルドを抱えるようになってから、妙に態度が偉そうになってへんか?


 ちょっと前まで「ギルマス〜☆」って懐いてた可愛いソール君はどこ行ったんや。

 弟の自立を目の当たりにした姉のような……あるいは、手塩にかけた資産が独り歩きを始めた時のような、何とも言えん寂しさが胸をよぎった。



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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