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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド後編

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起死回生の一手は保冷櫃?───スプリングフェス後半戦に新たな発明が生まれる。

 「名付けて保冷櫃(ほれいびつ)です」


デン、とソール君から手渡されたその箱の感想はとりあえずめちゃ重いということ。


「ん……分かった、とりあえずちょっとコレ置かして……」


重すぎ~、と運ぶのに使われたであろう荷台の上に私は持ってこられた木箱を乗せる。

私の毛皮を使ったオリジナルクーラーボックスとは見た目からして違う。

けどそれが類似品だと言うことは一目でわかった。


表面は滑らかに磨かれた黒い木材。四隅は鈍く光る真鍮で補強され、側面に彫られた『NOVALIS』の文字が、プレートで貼り付けられてる。

なんかそれっぽいブランド商品みたいやけど、問題は中身や。


「見せてもらうで」


 重厚な金属のレバーを引き上げると、『プスッ……』と、空気が抜けるような音がした。密閉されとる証拠や。


「これは……?」


中には雪だるまが入ってる。

それもほぼ形を崩さず、さっき入れたみたいな綺麗な丸を保ってた。

上段に氷の塊を入れ、その冷気が下に降りることで下段の食品を冷やす仕組みらしい。

「昨日入れておいた雪だるまですよ。完璧な形を保っているでしょう。トビーさんが販売現場の声を教えてくれて、それを僕がまとめてチョウベーさんに頼んでみたんです。サーシャ様が以前作った簡単なクーラーボックスを参考にして作ってみました」


「昨日入れたやと?」


「どうです? 面白くないですか」


ソール君は自分の作った玩具を見せに来た、ぐらいの感覚なんかも知れんけど。

面白い所の話ではない。


「あんたらこの国の歴史を変えたかも知れへんぞ」


私の言葉を理解できないと言った様子で二人は、『とりあえず褒められてるっぽい』ぐらいの笑みを浮かべた。実際にそれどころの騒ぎではないんやけど。


彼らが作ったのはクーラーボックスというか、冷蔵庫のプロトタイプや。

いつか誰かが作ると思ってたけどもう来たか。

それもまさか自分達のスタッフからその功績を上げる人間が出るとは……。


ソールとトビーか。こいつら名義で特許取っておいたら、二人とも一生食べるのに困らんぞ。


「二人とも、今すぐに特許を取りに行け」


「いえでも外は嵐で……こっちに来るのもやっとだったんですよ?」


なんて言うとるけど、そんなもんリスクとリターンが見合ってない。

ローリスク超超超ハイリターンや。

おまえ今から人生変わるのに雨の日だからって理由で出ないとか本気か? ってレベル。


「ええから行け! 絶対にこの商品は歴史を変える。私は知ってる! 危ないかも知れんけど、道に気を付けて商業ギルドに運ぶんや」


「わ、分かりました……」


「ウチからも応援出すから、慎重に手続きしてきて。その商品でアンタら……二人とも大金持ちになれるで」


「マンマミーア?」


トビーが間の抜けた声で訊いてきた。マンマミーアちゃうわボケ。

その赤鼻もぎ取るぞクソピエロ。

ピエロなんか辞めてすぐに冷蔵庫作るギルドのギルマスになれ、お前らは。

ソーマ&トビーとかで、会社名作って冷蔵庫を量産するんや。


「他に開発には誰が関わってる?」


「チョウベーさんとそのお弟子さんたちが僕達の企画をまとめてくれました」


ソール君の言葉に私はクラっとする。あのお爺さんは神なんか? 


「やっぱあの黒光りおじいちゃんか……! 凄すぎるやろ毎回」


あの鉄の牙(ニブル)には化物しかおらんのか。

もう今すぐに全員雇いたい、というかあの場所を私のものにしたいけど……無理なものは仕方がない。今はこの商品の特許を取るのが先や。


「私は鉄の牙(ニブル)に向かって量産できへんか聞いてくる。アンタ達は特許を出願しにいく。分かった?」


「分かりました!」「コンプリ」



嵐の中馬車を走らせた私は、金物屋ニブルに顔を出した。

馬車からちょっとしかでてないのに体の半分は濡れてる、みたいな状況や。


「チョウベーさんいる⁉」


「今日は休みだぞーって、嬢ちゃん⁉ なん、どうしたんだいオメェ……そんなずぶ濡れになって……とりあえず上がんな。───おい、誰かタオル持ってきてやってくれ!」


「うちのソール君とトビーの要望を聞いてくれてまずは感謝申し上げる! その上で、あれを量産できへんか訊きに来た!」


店内をびしょびしょになったヒールで奥へ進む。

ソレに待ったをかけたチョウベーさんは、私に店内で立ち止まるように静止させた。


「それよりも先にそのビシャビシャな髪を乾かすのが先だ。どれだけ目を輝かせたって、話はそれからだぞ。おつきのメイドさんだってビシャビシャじゃねえか」


チョウベーさんにそう言われて、私は仕方なく受け取ったタオルでミヤハに頭を拭いてもらう。ミヤハは私以上にずぶ濡れになっとった。


「ほんっと……思いつきで行動すると碌なことありませんよ。サーシャ様」


静かにブチギレているミヤハは放っておいて、私は手早く髪を乾かすと早速交渉の席に座った。熱々のお茶を出され、それで口の中を潤すとすぐに本題を切り出す。


「あの保冷櫃(ほれいびつ)のことやけど。あれって、一点もの見たいな感じなんやろうか。規格化して、大量生産できへんか?」


「規格化っていうと、かき氷機の時とは違って大量生産が目的か?……どれぐらいいるんだ」


「この国全ての家庭にあの箱を置く」


私がそう言うと、チョウベーさんのお弟子さんたちはクスクス笑った。

さすがに大袈裟なことを言っていると思われたんやろうか。

けどチョウベーさんだけは真剣な眼差しで私を見ているのが分かった。


「じゃあ、一千万個はいるな」


チョウベーさんは大きな数字を言ったつもりやったんかもしれんけど、私にしてみれば全く足りへん。


「我が国には大体千五百万から千六百万世帯がいるとされとる。私はその全ての家庭にこの保冷櫃(ほれいびつ)を届けたいと考えてます」


工房が静まり返った。これまでもたくさんの品物を打って来た鍛冶師たちがその数に呆然としているのが分かった。


「千五百万世帯……? 嬢ちゃん、なんでそんな数知ってるんだ」


「私は元々、この国の『一番高い場所』に座るはずやった女や。それぐらいの数知らんでどうする。訳あって今はこの落ちぶれた身やけど、それまでに身に着けたデータは全部頭の中にある」


「……ほう。……だがその見立て、甘いと言わざるを得ない」


確かに最初の数年、普及率は良くて五割程度やろう。しかしゆくゆくは、必ず冷蔵庫は世界の覇権を握る。それが今は誰も知らんくても、私だけは知っている。

それを理解できないという気持ちも十分に分かった。

なにせ私の話には根拠がない。

突拍子もない発明で世界を取る、そんなことを言っている頭がちょっと変な子や。


───しかしチョウベーさんは。


「だが……夢を語れるやつにしか、夢は叶えられねえ」


私は伏せがちだった顔を上げた。チョウベーさんの黒光りする頭が、頭上に光るランタンの温かな光を反射してピカピカしていた。


「───! それじゃあ!」


「ああ。直ぐに規格化に舵を切る。とりあえずは試験販売だな。家庭に向けての販売と言っても、最初はビビッて誰も手を出さねえだろ。買い手を見つけて商品を作る。こりゃ商売の鉄則だ」


「確かに……! でもそれなら、うちの提携してる店は買ってくれるかも知れません」


「かも知れねえじゃ駄目だ。嬢ちゃん、本気で勝ちに行くなら先に客を見つけてこい。話はそれからだ。───心配ねえよ、物は良いんだ。営業だって楽だろうぜ」


チョウベーさんの確信めいた笑みが、私の中に太い軸を一本用意してくれた。

これが私にとっては大きな道標になる。


「分かった! すぐに売り込みに言ってくるわ! チョウベーさんも規格化の件、ちょっと考えといてな!」


「馬鹿タレ。それはオメエさんがちゃんと仕事取ってきてからだ。こちとら只働きはごめんなんでな! あとメイドさんに謝っといた方がいいぞ。ずっとこっち睨んでるからな!」


「大丈夫や! あとでまとめて謝るから! それじゃあおおきに!」 


服も乾かぬまま私は再び馬車の中に駆け込んだ。御者にすぐに邸に戻るように伝えて、安全運転で飛ばしてもらう。

また手紙を書く。せやけど今度は謝罪の手紙やない。新たな希望に繋がる手紙や。














高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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