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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド後編

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三日目はお休みするようです。───変わりに他の出店に氷を卸します

 スプリングフェス三日目の朝。

 私がミヤハを引き連れて海の家へ向かうと、そこには「この世の終わり」を凝縮したような光景が広がっとった。


「……ひっ、ひぃぃぃぃ! もう許してくれ! 機械なんていらん! 命だけは……命だけはぁぁ!!」


 鼻水と涙で顔をグチャグチャにした男たちが、四つん這いで砂浜を這いずり、朝日の中へと逃げていく。


 その後ろ姿には、色とりどりの紙吹雪と、一度付いたら取れへん強力な接着剤、そしてなぜかゴム製で「アウー」と情けない声で鳴く(チキン)がベタベタと貼り付いとった。


「トビー。……あんた、昨日の夜に何をしたんや」


 私が店の入り口で呆然と立ち尽くすと、暗がりの金庫室から、ひょっこりと白塗りの顔が覗いた。


「レディース・アンド・ジェントルマン! ギルマス、おっはようございます。今日も燦然と輝く朝日のように麗しいご尊顔でございますな!」


 立ち上がったのは、販売係のリーダーを務めるピエロのトビー。

 前に一回店を燃やされたのが許せんかったらしい彼は、夜に沢山の仕掛けをして毎晩こうして番をしているようやった。


「徹夜したんか?」


「……ええはい、昨日の夜は最高にエキサイティングな『ゲーム』でしたよ。丑三つ時、侵入者はトラップを踏み自爆。舞い散る紙吹雪、そして噴き出す火柱! 最高にファンタスティックな一夜でございました!」


 トビーは両手を広げて感慨にふけってるようやった。

 うん……まあいつ寝てるかは分からんけど、この元気なら問題ないやろう。


「そう言えばですね、ギルマス。すこし、お耳に入れておきたいお話がございます」


 トビーは白く塗られた顔に笑顔を浮かべながら、ステッキをくるくると回す。


「どないしたんや?」


「一日目のような『全力販売』は、難しくなってしまいました」


「もしかして」


「はぁい。ご想像通り。一人倒れてしまいました。今朝彼女の親と思われる方がわざわざ浜辺に来て、お話してくださいましたよ。熱を出して寝込んでいると」


 トビーの言葉は軽かったけど、受け取る私にとってはとてつもなく重かった。


「……みんなには無理させすぎたな」


ギリッ、と自分の見通しの甘さを呪う。

 そして同時に昨日リコポリスから聞いた兄アリステアの予言を思い出しとった。


 『サーシャ、君は今回のスプリングフェスには優勝できない』。


 ……なるほどな。兄さんが言いたかったんは、こういうことか。機械(かき氷機)はいくらでも回せる。けど、それを動かす『人間』は替えがきかん資産や。


 株主としてのやる気を煽るだけ煽って、メンテナンスもなしに十時間ぶっ通しで働かせ続けるなんて……確かに私が悪かった。スタッフが体調崩すのも当たり前やったわ。


「ワタクシお見舞いに行ってきてもいいでしょうか? その、お店を空けてしまうのですが」


「当たり前やろ。プランCを発動させるわ」


 ババン、と私は新たな進化をトビーに提示した。


「ワァオ……プラン、シィー? プランAはノーマル、プランBはアトラクション、するとプランCは?」


「提携先を増やして、他の店舗を相手に氷を売る。お客様やなくて、ターゲットをスプリングフェスにでてる店舗に変えるんや!」


「セ・ジェニアル‼ モナーミー! さすがギルマスです。商売仲間を頼ると言うことですね! それならスタッフを大いに休ませることができるでしょー!」


「よっしゃ、そうと決まればちょっと商談かましてくるわ! トビーは朝市でお見舞いに行く果物買っといてくれる? 予算は金貨一枚の中で済ませといて!」


「ダコール! 任せてくれたまえよ! それだけあったら、部屋を果物で一杯にできるだろうさ!」


 ◇


 と、部下にカッコつけてみたはいいものの。

 氷に困っている店をそう都合よく知っているわけでもなかったため、ここは大人しく知り合いを頼ることとなった。


「……商品が腐るのに困っていそうなお店、ですか」


 私は、隣で開店準備をしていたルカを呼び止めた。


「せやせや、ルカの兄ちゃん。あんた地元のツテで知ってへんか」


「それなら結構ありますよ、海鮮串の『波止場ギルド』とか、新鮮フルーツの盛り合わせが楽しめる『青果ギルド』とか……。昨日なんて、午後には生臭い匂いが漂ってて、みんな泣きながら廃棄してましたよ」


 この暑さですからねぇ……、なんていうルカ。

 私にとっては全員鴨がネギ背負ってる状態みたいやった。


「……なるほどなるほど……ケケケッ。決まりやな。ルカ案内してくれん? 

 そのドナドナ、全部売り上げにしたるわ」



 ◇


 砂浜中央、地元優先に設けられた商店街ゾーンには、必死に食い扶持を稼ごうとする地元の商人たちがひしめき合っとった。どいつもこいつもあんまり景気のいい顔はしとらん。


「ほぉーん……日陰に水張って魚は管理しとんのか。温度は……朝やからまだちゃんと冷たいな」


「お嬢ちゃん何やってんだい⁉」


 波止場ギルドのおっちゃんは突然の来訪者に驚いたのか、私から水の張った木桶を奪い取って、心配そうに魚を見た。


「おっちゃん。水がずっと冷たかったらええとか思わん?」


「何言って……って、お前さん……確か初日に売り上げの新記録作ったとかいう、ノヴァーリス商会の……」


「せや、アレクサンドル・バイカル様やで。ルカから話聞いてな、魚を昼頃には捨ててしまうらしいやんか」


「そうだ。魚は鮮度が命だからな」


「その鮮度、うちの氷で伸ばせるかもしれへんで」


「なに?」


「そっちにある水桶貸して」


 私は、簡易的なクーラーボックスに入れて来た「ミーミルアイスの端材」を、水桶に景気よく放り込んだ。


 ――バキッ、と。

 常温の水が、一瞬で氷水に変わる。

 ミーミル湖の深層水で作ったうちの氷は、並の氷より不純物が少ない。

 せやからすぐに冷えるし、中々溶けもせえへん。


「手、入れてみてや」


 おっちゃんはじゃぶんと腕を入れ───、


「なるほど……こいつならいけるかもしれねえ」


 そう確信めいた顔を私に向けた。

 商品がええと、売り込みも楽で助かるわ。


「これが『ノヴァーリスの氷』が持つ力や。今回はサービスやからお金は取らん。けどまた欲しくなったら教えてや。同じスプリングフェスで戦う商人やからな、お安く卸しまっせ」


「約束しよう。これで魚が腐らなかったら、アンタのとこで氷を買わせてもらう」


「毎度。おおきに」


 一軒、また一軒。

 ルカの案内で回るたびに、鮮度に苦しむ出店にミーミルアイスが行き渡っていく。今日利益を出すのは難しいかもしれん。けど、それは私がスタッフを働かせすぎた罰や。


「不思議な人だ。ノヴァーリス商会が他の出店に氷を売ったとしても、スプリングフェスの売り上げ利益にはカウントされないのに」


 ルカの言う通り、出店から出店に売る分は、運営からの評価対象にはならん。

 あくまでもお客様相手に売り上げを出したもんが、スプリングフェスの優勝者を名乗れる。せやから私がやってるのは敵に塩を送る行為にみえたんやろう。


「せやな。……けど、初日にちょっと働きすぎたからな。みんな頑張りすぎる子たちやから、ブレーキは経営陣でかけていかんと、このままやったら負傷者が続出してまうわ」


 煽るだけ煽っといてなんやけど、まさか狂戦士みたいに働き過ぎてぶっ壊れるのは、ちょっと見過ごせへん。三日目はブレーキの日にしよう。


 ……何ならフロストでも誘って浜辺で遊ぼうかしら。


「今日も夜に氷運んでくれてたみたいやし……寝てるかな?」


 私は一度、別荘に帰ることにした。






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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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