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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
序章:氷売りの令嬢

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外伝:王子の挑戦。――生牡蠣を12個食べた俺は、もはや無敵の王子だ

───王宮にて。


サーシャがヨトゥンヘイム領で奮闘する中、王子もまた王宮にて悪の限りを尽くしていた……かに思えたが。


「次だ! 次の皿を持ってこい!」


運ばれてくるのは新鮮な生牡蠣。炭火で焼いてレモンを掛けたら、次から次へと王子は殻の中で汁と絡まった濃厚な海のミルク(なまがき)を飲むように喰らっていた。


その傍らにはサーシャから牡蠣女と誹謗中傷を受けた侯爵令嬢のアリシア。

可愛らしい表情で赤とピンクのポンポンを持って、王子が牡蠣に立ち向かうのを応援していた。


「頑張れ 頑張れ 殿下! 負けるな負けるな 殿下!」


ミズガルズ王国次期後継者として、初めての仕事が新しい婚約者となったアリシアの汚名返上。

つまり生牡蠣を食べても大丈夫な男だということを喧伝するためのパフォーマンスとして立ち上がることだった!


「三皿目間食だ!」


ナプキンで口を拭う殿下の目には新たな覚悟と、王子としての自覚が芽生えつつあった。


「もう俺は以前の俺じゃない。全て俺が決めるし、外交も全部俺がやる。俺が決めて、俺が為す。俺の国だ!」


牡蠣を食べていたフォークを机にコトッ、とおいて王子は新たな婚約者に宣言する。


強い男になること。そして主体的に婚約者の言うことを守るだけではない、真に自覚ある王子としての責務を果たすべく彼は立ち上がった。


「ハァ……ハァ……流石に食べ過ぎたか」


「殿下……そちらで十二個目です。そろそろ辞めておいた方がいいんじゃないでしょうか」


「俺に意見する気か⁉」


「滅相もございません。私は殿下のなさることが全て正しいと思います」


「……だよな! アリシア、俺を名前で呼んでくれ」


「もちろんですわ殿下」


「アリシア……?」


アリシアの目が一瞬泳ぐ、そして少しの逡巡の後に、絞り出すように「……ォン殿下」と先ほどの応援の声とはまるで正反対の消えるような声で呟いた。


「そうだ、ジョンだ! もう一度呼んでくれ!」


「はい! ジョン様!」


アリシアは今度こそ元気いっぱいに、忘れかけていた王子の名前を口に出し、王子に抱きしめられるために体を寄せた。


王子はアリシアを抱きしめ、この世の春を謳歌しながらも、頭の中では忌まわしきあの女の影がケタケタと笑っている声が響いていた。


「……あの忌まわしいサーシャの言ったことなんて、これで嘘ということだ。俺は牡蠣になんて当たらない。泣きついたりなんかしない!」


王子はアリシアを抱きしめる力が無意識に強まる。

彼はサーシャをぎゃふんと言わせるための強力な味方も招集済みだった。


「ビック・ブラックはいるか!」


パンパンと手を叩くと、シュバッ、とどこからともなく東洋の忍者に似た衣服を着こなす、口元を隠した怪しげな商人が現れた。


「殿下お呼びですか」


「お前が婚約破棄を提案してくれたおかげで、俺は自信をもってサーシャを追放することができた。それについては感謝している」


「滅相もございません。婚約破棄代行の仕事までコチラで出来ればよかったのですが、どうしてもそこは殿下にやってもらう必要がございましたので」


「かまわぬ。あれで俺も箔がついたというもの。お主も見ていただろう? あの貴族の信じられないというような目。私の力ある決断をみな待っていたのだ」


拳を握り、細い二の腕に力こぶを作る王子。


最近王子はサーシャの二の腕に負けていた、という過去の自分のコンプレックスを解消するため、毎日剣を素振りしていた。


それを見せつけたかったのかも知れないが、ビック・ブラックは何も言わない。


「その節はありがとうございました……」


「なぁに大したことではない。それよりいつものアレ、分かっているだろうな」


「分かっております。わかっておりますとも。殿下のお好きな山吹色のクッキーでございますな」


ビック・ブラックは紫色の包みを王子の近衛に渡し、近衛が中身を確認すると、顔を綻ばせて王子に中身を見せた。


すると王子やアリシアも顔を綻ばせた。

王子は包みを受け取ると、それを重そうに持ち上げる。


「フハハッ……なるほど重いなぁ!」


「ハハハッ、いえいえ、さ、どうぞ。ご改めくださいませ」


「俺はなぁ……山吹色のクッキーが大好きなんだァ、フハハハハハッ……牡蠣にも飽きてきたのでな、さっそくいただくとしようか」


金貨の束を両手に持ちながら下卑た笑みを浮かべるジョン王子。

この金さえあれば、自分の派閥に外様の貴族を取り込むなど容易いこと。

そうとなればまた一歩、真に自分の国へと近づけることができるというものだった。


「ところで殿下、どうやら最近アレクサンドル・バイカルが北部にてフロスト・フォン・ヨトゥンヘイムの庇護下に入ったとの噂が流れてきておりますが、どうなさいますか」


「全てを奪ってやったのだ。せいぜい農民を焚きつける程度のことしかできまい。……しかし用心に越したことはない。セキュリティの方は万全であろうな」


「もちろんでございます。御身にもしものことがあらぬよう、武器に罠、傭兵を潤沢に取り揃えておりまする」


「おぉぉお!さすがでかしたぞ、ビック・ブラック! セッティングには俺も協力するからな。地図とか見ながら一緒に防衛網を敷こうぞ! フハハハハハッ」


「い……いえいえいえ!そこは殿下にはいつもご贔屓にしてもらっておりますから。わたくし共にお任せくださいませ」


「ナァに⁉ ……そうか、じゃあ頑張れ」


「はぁい───ほっ。……ところで殿下、例の件も一つよろしくお願いいたします」


こしょこしょこしょ、とビック・ブラックは殿下に自分たちが有利になるような悪法の制定を殿下に耳打ちする。


「フハハハハハッ、わかっている、わかっている。俺に任せておけ!」


「フハハハハハッ!」「アハハハハッ!」


高らかな笑い声がホールに響く中――。

ゴロゴロゴロ……。

重苦しい音色が、どこからともなく響きわたる。


王子は怪訝な顔をして窓の外を見るが、空には眩しい未来を象徴するかのような太陽が輝いていた。

雷が落ちるような気配は微塵もない。


ギュルルルル……ゴロゴロ。


「……ジョン様? 」


アリシアはそっと訊いた後に、笑顔でその場から逃げ去った。


高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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