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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド後編

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地獄のスプリングフェス開始――売れすぎて三トンの氷が『消滅』しました

「───氷の七割が無くなったやってぇぇぇ!!⁇」


 熱気帯びるスプリングフェス初日。

 地獄のような猛暑と人々の熱気によって生まれた人の波は、私たちノヴァーリス商会の店舗に押し寄せとった。


 時刻は午後三時を過ぎようかという頃合い。

 陽射しは強くなる一方。

 長蛇の列は果てしなく続き、その最後尾は見る影もない。


 ピンチはチャンスと言うけれども、チャンスが多すぎてピンチになるのは私も初めてのことや。


「あ、ありえんスピードでお金が増えていく……!」


 今の私に必要なのは迷いや客への憐れみやない。必要なのは人情やなくて、押し寄せる波を捌き切るための効率化だけや。


 そこにどんな不平不満が出ようと知った事やない。もはやこの事態は、私たちが抱えきれる許容量を遥かに超えてしまっとる。


「急げ! もっとスタッフを増やして、料金を吊り上げるんや!」


 需要の高まりに乗じての料金変更、それを営業中にやってしまうなんて暴挙、聞いたことすらなかったけど。今の私たちにはそれぐらいしか、増え続ける客に対しての抵抗手段はなかった。


 自然、釣り上げられ続けていくかき氷の値段。

 

 最初は銀貨三枚(千五百円)で売られていたはずのかき氷は、すぐに倍の値段に膨れ上がり、さらに倍、とその金額は膨れ上がっていき、最後には一杯銀貨二十枚(一万円)にまでその料金は膨れ上がっとった。


 そんだけあったら、この街なら高級なランチとか食べられる金額や。


 前世の感覚やったら頭おかしいと思う値段設定やけど。

 かき氷屋がウチしかなくて、他では冷たいものが食べられない、という本来起こりえない状況が生み出した需要の爆発やった。


 結果起きたのは、命と等価と言わんばかりに、整理券を握りしめたまま炎天下に並ぶ、声なき亡者たちの姿やった。


「ココが煉獄か……⁉ 最後の審判なんか⁉」


 他の店には目もくれず、亡者たちは今後どれだけ高騰するか分からんかき氷を求めて、長蛇の列を作った。


 こうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな群衆心理が働いた結果。


 ノヴァーリス商会のかき氷は、あっちゅー間に大衆によって消費され尽くしてしまった。


「ブルーベリー、レモン、在庫枯渇! 次、急げ!」

「きゅうり完売! 野菜ライン終了です!」

「整理券強奪発生! ソールさんがお客様にぶっ飛ばされました!!」


 各地から聞こえてくるスタッフたちの悲鳴。

 その後ろでは猛スピードで運ばれてくる氷と、現金輸送車(リアカー)の群れが互いに道を譲れと発狂している。


 運搬係はロックが参加しなければならないほど、氷の消費量は加速し、一方で銀貨の袋は一瞬で膨れ上がり、運び出さなければすぐに店が機能不全に陥るほどに、大量に入り込んどった。


 息をつく暇もない連戦に疲弊するスタッフたち。しかしそれだけノヴァーリス商会に富は蓄えられる。

その株券を持っている彼らは、目を爛々に光らせながら疲れ知らずのまま働き続けた。


 こうしてスタッフ21人フル稼働で、丸一日十時間。

 地獄のようなスプリングフェス一日目が終了する。


「氷が……なくなった……やと」


 私はロックからの報告を呆然と椅子に座って訊く。

 周りには満身創痍で椅子に座り、夜風に当たるスタッフたちの姿があった。


「コーホー……(マザーアイスも全部運びだしたっす)」


 ロックも疲れたんか、砂浜にヘタリ込んで鉄仮面から息を漏らしとる。それでも仮面を脱がへんのはもう、狂気としか言いようがないな。


「サーシャお疲れ様」


 椅子の上で溶けてる私を見下ろす、大きくて涼し気な影。


「フロスト……! アンタどこに行ってたんや」


「おや、サーシャは俺まで運搬係にする気だったかな?」


「それはない! ……けど、安心材料てきな? いたら安心、みたいな」


 図星を突かれて私は言い淀む。もしもの時はフロスト私兵団の力も借りようなんて、全然考えてないんやから……ね? 本当に。


「一応こんなこともあるだろうと思ってね。ミーミル湖で作っている氷の量を少し増やしておいたよ。今は石炭列車を丸ごと氷用にして、運び出してる最中さ」


「あ、あんたそんなことしたら……!」


 専用の車両を使わんと、中に入れた氷が溶けだして大きな損失になってしまう。


「まぁ、かなり無理やり運んでいるから、多めに溶けてしまうだろうね。でも仕方ない。今夜中に三トンまた運んで置くから、サーシャ達は休んでていいよ」


 フロストはそう言って、新しく持って来た氷を小分けにして包んだ麻袋を、私の頭に乗っけた。

 赤字覚悟で私を助けてくれたってこと……? なんでそこまでしてくれるんや……。


「コーホー……!」


 ヨロヨロッと立ち上がったロックを始めとする運搬係たち。

 自分たちまだやれます! って顔つき。せやけどフロストは首を横にふって、彼らを椅子に座らせた。


「ロック君も休んでいていいよ。後は俺たちがやっておくから。明日また頑張ってくれ」


 遠くではすでにフロスト私兵団が次々と、列車から溶け始めている氷を運び込んでいるのが見えた。

 夜中の内に全てやってしまおうという考えらしい。


「コーホー……!」


 ロックたちは自分達の不甲斐なさに項垂れながらも、フロストの行為に甘えて帰還していった。


 運搬係は今日一日、炎天下の中ひたすら氷を運ぶ往復をしとったから、実は結構ギリギリだったんやろう。


「フロスト……あんたを頼らんために、色んな人を雇ったりしたのに。結局また助けられてしまって……ごめんなさい」


 市場の需要を精確に把握できてなかった。経営者である私の落ち度や。それに私はみんなを巻き込んでしまった。そんな自分が今はとても……不甲斐ない。


「サーシャ」


「なに?」


 フロストに呼ばれて私は顔を上げた。そこには、複雑な表情で笑みを浮かべる彼の顔があった。でもどこか懐かしい、温かみのある笑顔だ。


「俺は、頼ってくれた方がずっと嬉しい。サーシャが無理する姿を見るよりも、そうなる前に手伝わせてくれないだろうか。自分で頑張りたいって気持ちも……十分に分かるんだけどな」


 彼はそういって、私が座ってる椅子の高さまでしゃがんで、わざわざ目線なんて合わせてくる。これじゃあまるで先生と子供みたいや。


「あんた公爵やし……そんな身分の人、働かせられへんやろ、普通」


 そういうと彼は、『今さら何言っちゃってんの、この女』みたいなジト目で私をみてくる。

 いや、そもそも大前提として貴族は働かない生き物なのです。私が異端なだけやから。

 ウルスラやって金貸しやってるのは、働かへんでも金が入ってくるからやし。


 貴族ってのは、領地から手に入れた税収で暮らして、働くやつなんてみんな可哀想、くらいに思ってるのが正常なんや。


 私が働いてるのは、公爵に認めさせる必要があるのと本来あるはずの領地収入が今はないから、金がなくてやってることやし。


 私だって無限に金があったら働かへんわ!


 ……たぶん。


 ……想像できへんけど。


 とにかく公爵が働くなんて本来あってはならんのや。戦場に行くのは貴族の誉みたいなところあるから、別として。貨物列車運転して氷運ばせるとか、本来やらせたらアカン高貴な人なんや。


「じゃあ、俺がやっているのは遊びだと思ってくれ」


「それはアカン。仕事には金銭が発生する。金銭は責任の所在をはっきりさせるためにあるんや。遊びでやらせたら、そこがうやむやになる」


 私がピシャリというと、フロストは口をとがらせて「バカ真面目」なんて言いよった。


「人間社会が成り立つためには当たり前の仕組みや。何を今さらな事言うてんねん」


「婚約者だから助ける。それで文句ないだろ」


「意味不明やろ」


 それはマジで理解不能や。なんの因果関係もないし。

 お前が私を助ける理由にはなってない。


「俺は勝手にやって、勝手に助ける。それが嫌なら嫌と言いなさい」


「なんやそれ。……別に嫌とかやないけど……あんたそれでええんか」


公爵様を雑に使ってるというか、こう……敬えてないというか。


「ええんです。ほら、分かったからさっさと別荘に帰って晩餐にしよう。たくさん動いたから、お腹だって減ってるだろ?」


そうやって彼は私の手を取って立たせてくる。いつもと違って、ちょっと強引なのは何なんや。


「別に問題ないわ。動き過ぎて、逆に腹とか減ってへんし」


 そんな私の言葉に反して、きゅ~と恥ずかし気な音が無遠慮に私の腹から聞こえてくる。

 最悪である。意識した途端これや。


「……ほら、いくぞ。スタッフのみんなも今日はよく頑張った。明日にはサーシャが何か対策を立てているだろうから、今日は各自休みに徹してくれ。解散!」


 フロストの号令で勝手に散っていくスタッフたち。これ、私のギルドやのに。


「勝手に解散させんな」


「みんな疲れているのに、ずっと居残りさせたら可哀想だろう。どうせ、残業代だって出すつもりはないんだろうし」


 むっ、確かにそんなつもりはなかったけど。こっちだって言われたら出したわ。


「……もう次は絶対に私が解散って言うまで、解散なしやからな」


「……ハハッ。……さぁ、護衛をつけて上げるから、さっさと帰った帰った」


 フロストは私の背後に立っていたミヤハに合図を送って、私を無理やり馬車に連行していく。そんなことせんでも、一人で帰れるのに。


「あんたまだ帰らへんの?」


「俺が部下に命令したんだ。全員の仕事が終わるまで俺は残ってるよ」


 俺はまだまだ元気だし、なんていうフロスト。

 氷を無理やり運ぶために列車を動かしたとか言うてたけど、どれだけ各所に迷惑をかけたかは想像に難くない。

 せやのに飄々と、『何でもない』『疲れてない』みたいに言われるのは、なんかカッコつけられてるみたいでムカついた。

 

「……あんたつくづく、公爵らしくないな」


「そうかな。でも、これこそが公爵だって、みんなから思われた方がよくないか?」


 そうやって笑うフロストに見送られて私は別荘に連行された。

 モヤモヤすることは沢山あるけど、私個人のことは言ってられへん。

 今はとにかく、帰ったら早いところ食事を済ませて、この問題を解決する糸口を探さへんとな。


 ……まさか売れすぎて困る、なんて誰にも予想できへんって。




この書き方……馴染むな。

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