最強かき氷機爆誕───お昼に向けてみんなで作戦会議
リヤカーが砂を噛む重々しい音と共に、そいつは現れた。
朝日に照らされて鈍く銀色に光る、無骨な鋼の塊。
チョウベーさんとお弟子さん達の合作、それが傑作なのはわかる。
鏡のように磨き上げられた金属面。
指一本触れるのがためらわれるほど滑らかや。
更に刃と氷のかみ合わせをタイトにして精度を上げてある。
手回し用のハンドルもオリジナル。
不要な事故を防ぐためのセーフティにも指を掛け易く設計されとる。
持ち手も滑り止めグルーブのついたロングタイプや。
底面のスリットは使用時の氷が小さくなった際に、指や異物が刃に触れるのを防ぐよう調整されている。
それだけやない。氷が空回りせんように、スリットや突起が氷をしっかり保持して、安定した削りを実現している。
「これほどのかき氷機を……五日間で?」
「おかげで久しぶりに時間に追われる面白い仕事ができたぜ。嬢ちゃん」
チョウベーさんは焼けた海の家の、唯一溶け残った石造りの調理台に、ズシンとかき氷機を設置した。
前回壊れたプロトタイプの面影なんてどこにもない。太いボルトで固定された鋳鉄のフレームは、キッチン用品というより業務用かき氷機というに相応しい。
「さっそく見せてもらおうやないか、新しいアイスジロールの性能とやらを」
「ガハハハッ、まあまて、嬢ちゃん。色々話をさせてくれや。前は氷の『硬度』に負けたのが悔しくてな。総出で、鍛冶師ギルドの秘蔵の鋼を叩き込んでやったんだ。名付けて『アイスジロール・氷点下零式』、今日はそのお披露目と商品説明だ」
お弟子さん達もチョウベーさんの後ろに列になって、後ろで腕を組んどる。
一応、お金払って作ってもらってはいるけど、明らかに金額に見合わん熱量でここに足を運ばれてるような気がして、ちょっと気圧される。
見ただけで、そのかき氷機が文明の最先端を走る技術の集合体なのはすぐにわかった。
けど、そんなかき氷機にガチになってもらっていい人達なんやろうか。心なしか企画に参加してくれてる弟子さんの数も増えてる気がするし……。
「氷点下零式て……。素直にver.1.0.1とかにしといたらええのに」
「嬢ちゃん、変わったのは見てくれだけじゃねえ。こいつの真価は『氷を選ばない』ことにある」
「なんと……⁉」
やはりそうか、と思いながらドキドキしながらチョウベーさんの手に持たれた試験用の氷に視線を注ぐ。
そしてチョウベーさんは、どこからか拾ってきたような不揃いな氷の欠片を放り込んだ。
前回のかき氷機じゃあ、決まった形の氷やないと上手く削れへん。端材の氷は飲み物冷やしたり、砕いて食べたりするしか使い道がなかったんやけど。
「マーサちゃん、やってみせてくれ」
「おや私でよろしいのですか。チョウベー殿」
「もちろん。本番でもアンタがハンドルを握るんだろ?」
「承知いたしました。ではお言葉に甘えて」
厨房リーダーのマーサが、慣れた手つきで重厚なハンドルを握る。
キィィィィィン……! という、精密機械特有の澄んだ回転音が渚に響き渡った。
「……っほほう!これは軽い。十分に手ごたえはございます。しかし、大きな力に後押しされているような感覚もございます。まるでそう、大きな生き物に手を上から一緒に回転を手伝ってもらっているかのような、安心感と安定感の調和!」
マーサの驚きと共に、排出口から「何か」が溢れ出した。
それは、今までの「削り節」のような氷やなかった。
まるで、降り積もったばかりのパウダースノーが、薄い絹の帯となって紡ぎ出されているような───。
「てか速っ! なにこれ、一食削るのに十秒かかってへんやん!」
速い。圧倒的に速い。これなら砕いた氷をお出しするよりも、回転率は五倍……いや十倍は変わってくるやろう。
しかも不揃いな端材の氷が、一粒のロスもなく、全部ふわふわの『商品』に化けていくやないか!
「チョウベーさん、やっぱええ仕事するわ!……後は耐久性のテストだけやな!」
「その通りだ。……俺たちも散々ぶん回してテストしてみたが、まだ壊れていない。が、今後もそうとは限らねえからな。誰かほかにもやってみたい人はいるかい」
「俺がやってみようか」
フロストはニコニコ笑いながら、指をポキポキ鳴らす。
誰でも良いとは言ったけど、それはあくまで人間の範囲であって公爵は人には含まれへんねん。
掌とか大きすぎて、マーサの手と比べたら倍以上あるし。
あんたの手は武器とか手綱を引くためにあるのであって、かき氷機握るためには設計されてへんやろ。
「ちょっと待って! フロストはあかん! 壊れる! その筋肉は調理器具のキャパ超えてるんや!」
「大丈夫だよサーシャ。俺だって力加減くらい……」
フロストが興味津々でハンドルを握る。
一応、リンゴ以外にもミニメロンとか小ぶりなスイカを片手で潰せる男やけど、大丈夫やろうか。
「おぉー! 楽しいなこれ。手に食いつくみたいだ!」
フロストが本気でハンドルを回した瞬間――ガガガガッ! と砂浜が震えるような轟音が響いた。
普通の機械なら、一瞬でギアが砕けて破片が飛び散るはずや。
せやけど。
「それにビクともしないぞ。この歯車の噛み合わせ、中々に頑丈だ!」
「ギュルルルルル!」と、機械はフロストの豪腕を真っ向から受け止め、異次元の速度で回転し始めた。そして一瞬でボウルが真っ白な「氷の山」で埋め尽くされ、中の氷は空っぽになった。
「壊れてへん……。フロストの馬力に耐え切った……!?」
「当たり前よ。そいつの軸受には、秘伝の合金を使ってんだ。こいつならアンタ達を『優勝』まできっと連れてってくれるだろうぜ」
チョウベーさんの言葉に、私の中にあった最後の不安が消えた。
絹のような氷を一口、口に含む。
冷たい、という感覚より先に、「消えた」。
舌に乗せた瞬間に熱を奪い、霧のように喉へと溶けていく。
……これや。
これなら、隣がどんな美味い麦酒を出そうが、客の喉は最後にうちを求めるわ。
「……よっしゃ。リハーサル開始や!」
顔を上げれば、日は高く昇り、海岸線には強烈な日差しが降り注いでいる。
ふと見れば、私たちの「焼けた海の家」の半分が、真っ暗な影に沈んどった。
「……ん?」
見上げれば、隣にそびえ立つ豪華な三階建ての出店。
それが太陽を背にして、私たちの店に完璧な、あまりに完璧な『日陰』を提供してくれとった。
「…………おやギルマス、意外にこの『影』有効活用できるのでは?」
ソール君は暑かったんか、一足早くその日陰に入って、涼みながら訊いてくる。
それを見て次々と、スタッフやチョウベーさんたちもみんな日向から、出店の影に避難した。
「涼しいなぁ……」
私はまだちょっと炭の匂いがする日陰に座り込んで、かき氷を食べる。日向にちょっと足先をだしたら、日陰でも暖かさの調整は簡単にできた。
青い海を見ることができて、飽きたら名画も見れる。
しかも日中は日陰でかき氷が食べられるというオマケ付き。
ウチって意外といいコンセプトのお店になってるんやないやろうか。
影の長さによって、座れる位置も変えなあかんと思うけど。
それは、太陽の動きに合わせてテラス席のパラソルとかテーブルを移動して、日陰にしとけばええだけやしな。
「逆にこんだけ大きいと、隣のお店は商品を腐らずに保存するんとか大変やろうなぁ……三店舗分の大きさで建設してるぐらいやし、お金はあるんやろうけど」
それはともかくそろそろリハーサルを開始せんとな。少しずつお昼になるにつれて、前日ってことで関係者とかが店の商品を食べに来てるみたいやし。
パパっと掃除して、スプリングフェスの関係者一同の度肝を抜いたろうか。
「よっしゃ、掃除に取り掛かるで!」
「ギルマスは椅子に座っててくださいね」
ソール君の情け容赦のない一言に、誰も反論すらしない。
みんな私のことを邪魔者扱いする気か?
「私だってちょっとぐらい手伝わせ……」
「サーシャ、みんなの邪魔をするのは良くない。日陰に行って別のことをしよう」
フロストにさえ笑顔で止められた。
「ケッ……」
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