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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾


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4/7

初めての家事分担。私は内政、アンタは戦争や!

波乱の初日から色々あって、数週間が経った。

国内情勢は色々動いてるかもしれんけど、私は与えられた書斎で書類の山に埋もれてる。


「悲惨や~あまりにも悲惨~」


数字をなぞるだけなら猿でもできる。

けど、その裏に潜む「現場の悲鳴」を聞き取れる奴は、そうはおらん。


特に顕著なのは食料面。


これはもう裏とか関係なしに、そこかしこから悲鳴が聞こえてくる。

特に領民とフロスト卿の関係はすこぶる悪かった。


なぜか? 理由は簡単。


「食料の徴収をやめろ!」

「餓死者を救えー!」

「子供達に食事を!」

「贅沢を許すなー!」


邸の中にも耳を澄ませば聞こえてくる領民達の訴え。

城下町は領内の様々な街から集結したデモ隊で溢れ返っとった。

デモ隊と言っても、旗振るだけのデモとはワケがちゃう。


こっちは殺る気満々の武装集団。


……百姓一揆どころか、フルプレートアーマーで殴り込みにくる勢いや。


食うもんはなくても殺しの道具は全員が装着しとる。


それぐらいこの領地には戦争に必要な武具が溢れ返っとった。


いやいや……おかしいやろ。


あんなん一式売ったら、普通は村一つの半年分の食糧に化けるんやぞ?

なんで誰も換金せえへんねん……とか一瞬思ったけど。


ようは売る先もなければ、買う金を持ってる奴もおらんのか。

食うもんはなくても、戦争に必要な鉄クズだけは山ほどある。

この領地、小麦粉より鉄の方が安価で手に入るらしい。


……いや、やっぱどんなディストピアやねん。


───それでも睨みあいで済んどるのは、偏にヨトゥンヘイム公爵という巨大な武力が前提にあるからやろう。


城内では警備兵たちの巡回が厳しく行われて、いつでも戦争が始められるように、中庭では毎日訓練が行われとる。


そんな場所にのこのこデモしに行くんは自殺行為や。

城下町の人々もそれは分かっとるようやった。


「何を見ているんだ?」


背後から響く、地鳴りみたいなバリトンボイス。思わず肩が「ビクッ!」と跳ねた。

心臓に悪いわ。不意打ちで193センチが背後に立つのはホラーやぞ。


「民衆は食料の過度な徴収に苦しんでるみたいやで?」


「ああ。知っている」


こんな話をして何の意味がある、とフロストの顔には書いとった。さらに言えば、私に責められるの面倒臭く思っとる顔や。


まあ、傍から見れば民衆から食料を奪う悪逆非道の公爵さまやからな。せやけど、私も全くの無知でここにいるわけやない。


「……戦いに備えてやろ?」


そう訊いてやったらフロストのやつ、その瞼を見開いて驚きよった。


「ああ。最近、北部の活動が活発だからな。直にまた戦いが起きる」


資料を見ればそれも分かる。北部蛮族の動きが怪しいし、あと半年の内に一回は戦争が起こるやろう。


「ほな、ちゃんと蓄えとかんと。戦える分は確保してるんやろ?」


「あ、ああ……てっきりサーシャは俺のやり方を嫌うと思ってたけど」


フロスト卿は責められないと分かったのか、椅子に座った私と目線を合わせるように腰を屈める。

……しゃがんでる癖に、一メートルあるのは多分コイツがおかしい。


「兵站が途切れることは死を意味することぐらい私も分かっとる。これでも物流王の娘やからな。それに……一番苦しいんは、その決断しとるアンタやろ」


食料を徴収せんかったら、民衆は飢えずに済む。


けどそれが原因で軍が食料不足になれば、軍の士気は下がり、敗北に繋がる。


敗北すれば、その後は簡単。


公爵領は文字通り全てを失う。


略奪によって、食料と資源は奪われ、領民は奴隷として北部に連れていかれる。


彼は領地にすむ領民全ての命を預かる身として、たとえ嫌われたとしても苦渋の決断を繰り返してきたんやろう。やから決して贅沢などをしているわけではない。


「サーシャ……」


ご機嫌な公爵の太い指で肩を揉まれる。……痛い。サービスやなくてこれ拷問やろ。「嬉しいのは分かったから、強く揉むのは勘弁な。壊れるで、私の肩」


「おおっと……すまない」


だいたい深刻な食糧不足が分かっとるから、私はここに到着して早々に仕事しとったんや。

急な取引やから結構ぼられたけど、幾つかの国と一時的な交易をすることが決まって動き始めとる。港まで運んで来て貰えるから、あとはこっちが迎えに行くだけや。


「私は私の方法で民衆を生かす。アンタはアンタのやり方で民を守り」


窓から机に戻って丁度、領主に見せる書類を彼に手渡す。


「確認のサインちょうだい」


「コレは?」


「南西にある港湾都市にツテがあるから、そこで新鮮なお肉と野菜を手に入れんねん」


「ほう……へぇ……食料か。方法は?」


真剣な表情で書類から目を離さないフロスト卿。普段うるさい大型犬みたいな奴やけど、仕事に対する向き合い方は誰よりも冷徹に感じる。


「鉱石採掘用の列車あるやろ? あれ、使わせて貰いたいんやけど」


「国のインフラに関わる問題だからな。空きがあるかどうか……」


顎に手を当てて彼はいつの列車が良いか悩んでいるようやった。

鉄道は公爵領の生命線ともいえる場所。外部からやってきた私が簡単に触れてええ場所やない。


「鉱石運んだ後は空車になるやろ? そこに寄り道して野菜とか詰めて帰ってきて貰えたらって思ってる」


帰り荷(バックハウル)ちゅー、輸送コストの節約に使われるやり方や。

今回で言うとヨトゥンヘイム領は、よく戦費調達のために鉱石資源を中央に売りに行くから、その帰り道に列車に空きができるのを利用して、向こうで食料を乗せて帰って来て貰おうって話。


「うまく現地でやってくれるだろうか?」


「そん時は私も行くから安心して」


この領地の凄いところは、他の領地では難しい食料の長期保存に、モノごっつ向いてるってとこなんや。

天然の巨大冷蔵庫があるからな。キャベツの酢漬け(ザワークラウト)なんか1年は保存が利く。

キャベツばっかり食うワケにはいかんけど、そういう備蓄がここでは豊富にできるって話や。


「はっ? ……いいや、それはダメだぞ」


驚いた顔をして、フロスト卿は私の外出許可を却下しよった。


「なんで?」


「いや、今は危ないじゃないか。どう考えても」


フロスト卿は私が領地の外で捕まえられるのを心配しているようやった。


「アンタの方が戦場行くんやから危険やろ」


「いや、そう言う問題ではなくてだな。……頼む。遠出するの止めてくれ。変わりの者を用意できないのか? シュガーライクはどうだ?」


何としてでも、彼は私を外に出すことを許したくないようやった。

理由は分かるけどそこまでのことか?


「いや、頼もしいけど。あの人、働き過ぎで倒れるで?」


シュガーライクは今も、デモ隊の鎮圧から近隣領地との交渉に奔走しとる。

ホンマは一人でやる仕事量やないんやけど、彼が人を信じないのと、仕事振り分けるのが下手なせいで、彼の下には優秀な部下が少ないようやった。


そのせいで過労死寸前まで働かされとるっちゅー、負の連鎖が起きとった。

私も手伝おうか聞いたけど、『事情を深く知らんやつに今任せられる仕事はない』って、追い出されたからな。


せやから私はこうして一人で書斎にこもってるわけやし。

私の任務はフロスト卿の領地を飢えさせないというのもあるけど、一番はシュガーライクを過労死させないってことやろうな。


そんなシュガーライクを追い込んでる当の本人は、惚れ惚れするような笑顔で、「死んでないから大丈夫だ」とかサムズアップしとるし。


「悪魔かアンタは」


「ハハッ、よく言われる。でもアイツの戦場はココだからな。俺はあいつを信じてる。シュガーライクなら大丈夫だ」


「こりゃ家臣はたまったもんじゃないで」


優秀な人材を育てるのは交易路を作るよりも難しい。ココでシュガーライクが潰されるのだけは、この領地の未来のためにも何とかせんとアカン。


フロスト卿に死なれるのはマズいけど、シュガーライクに死なれるのはもっとマズい。私は全身全霊をかけて、あの陰険眼鏡を労わる必要があった。


「そう言えばなんだが、……よくそんなツテがあったな? 友人なのか?」


フロスト卿は輸入先が気になったのか、椅子に座った私の背後から書類を奪い取って、難しい顔をしながら見る。取引先の相手を友人というのはかなり違う。


先方も婚約破棄された私にまだ価値があると思って取引してるわけやしな。価値ナシと判断されれば、自然と縁は消えてなくなる。その程度の関係やった。


「仕事仲間や。……これでも少し前まではファーストレディやってたからな。各国の王族やらギルマスなんかと仲ええねん。ほんで今回の件やろ? 憐れみ半分で、融資して貰えることになってな。食料はその前金みたいなもん」


外交なんかも王子が他国の王と話してる時、私も向こうの王女と話を当然する。

私は王子と違って翻訳がいらんから、政治以外の話とかも結構しとった。おかげで、今回みたいに助けて貰えたっちゅーわけやな。


「前金か……気前がいいな! そうだサーシャ、俺も何か手伝おうか?」


内政丸投げマンが何を言うてはるのか。

自分のところの優秀な右腕を「壊れない玩具」みたいに扱っとる奴に、書類触らせるわけにいかん。


「アンタは目の前の敵を全員ぶっ倒すんや。それが一番領地のためになる」


そう、外敵の排除や。どれだけ内政が上手くいっても軍が弱かったら、侵略されて詰む。フロスト卿がどうやってもこの領地の要石であることは間違いなかった。


「ソイツは分かりやすくていいな。そう言うのは得意だ! 心強いなサーシャ!」


そう言って、フロスト卿が私の肩をバシッと叩く。


痛い。脱臼するかと思ったわ。

こいつ絶対ちっちゃい頃にアリとか千切って遊んでたガキやろ。

力加減というものをまるで知らん。


せやけど、日頃の訓練を見ていたらそれも納得せざるをえんかった。

身長が193㎝もある全身鎧の大男が、怪獣みたいな黒馬に乗って自分と同じぐらいの大剣を振り回しとるんやからな。まともな兵士ならたまったもんやないやろう。


だから私も内政に集中できる。無敗の軍と言われた北軍を腹ペコで負けさせたら、それこそバイカル家長女の名折れや。


「アンタが少しでも、領民から食料を取らんようにしたるから。アンタは前だけ見てればええの。わかった?」


「ああ。了解だ」


台風が過ぎ去るように、フロスト卿は部屋を出て行った。

嵐が去ってやっと静かになった書斎で、私は深くため息をつく。

さて。アイツが外で暴れとる間に、私はこの「赤字の要塞」を「氷の金山」に変える準備をせなあかんな。








リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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