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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド編

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魔改造のジロール。――ナニワの令嬢、チーズ削り器に口溶けを託します

 スプリングフェス開幕まで、あと五日。

 本番さながらのオペレーションを叩き込む「総力リハーサル」までは、わずか三日。

 早朝の砂浜ではあちこちでテントの骨組みが組まれ、潮風に乗ってペンキの匂いと、焦燥感を煽るような槌音が響いとった。


「ええ音させとるやんけ」


 空が青白む時間から、隣の敷地で作業している頑張り屋さんの顔を覗きに行く。


「……あれ? アンタ、昨日の『バッカス』におった弟子の……」


 自分の背丈ほどもあるビールの樽と格闘しとる茶髪の青年に声をかけると、彼はビクッと肩を跳ねさせ、勢いよく振り返った。


「わっ! ……店長が言ってた『試練』って、このことか。――先日は失礼しました、バッカスのルカです!」


 滝のような汗を腕で拭いながら、ぺこぺこと頭を下げたルカ。


(……今回のスプリングフェスの大本命様やんけ。前年度優勝者の愛弟子が隣とは、私もツイてへんな)


「『本格麦芽ビール専門店』やっけ? 気合入っとるな」


「はい! 師匠に『ノヴァーリス商会にだけは負けるな』って送り出されたんで。……でも、まさか本当に隣同士になるなんて……」


 ルカは困ったように笑いながら、設置したばかりの大きな看板を指差した。


 そこには力強い筆致で『スプリング・ブルワリー』と銘打たれ、溢れんばかりのビールジョッキが描かれとる。


「……ほう。麦芽の香りと氷の冷たさ、どっちが客の喉を支配するか。勝負っちゅーわけやな?」


「勝負になるといいですけどね。大差をつけられないといいですが」


「……いうやんけ。大した自信やな」


「いや、僕のビールが全く売れない可能性の方が高いので」


「いや大した自信の無さやなぁ! 頑張れよ、ライバル店!」


 敵に塩を送れるほど余裕があるわけやない。氷という商材がこの街にどこまで浸透するか、まだ博打の段階やからな。


 それに、不安の種はまだ他にもあった。



 ガツン! バキッ! ドゴォッ!!


「なんですこの音……?」


 ルカは不思議そうに海の家から聞こえてくる謎の破砕音に首をかしげる。


 私はちょっと頬が赤くなるのを感じながら、「気にせんといて」と言って、彼から離れた。


 もちろん向かうのは海の家の厨房。


「……ちょっと、なになに?」


 朝やからまだ人も少ないけど、人が増えてきてもまだ音を鳴らしてたら流石に恥ずかしい。一体何かと思って覗いたら、厨房で小さなハンマーを振りかぶって、薄い布袋に氷を入れて砕いてるマーサ達やった。


「oh……」


 私が厨房に入ってきたことに気づいたのか、氷を粉砕する手を止めて、マーサは氷で冷たくなった手を手拭きで拭きとってこちらに向き直った。



「おや、おはようございます。バイカル様。今日もお美しく在らせられますね」


「おはよう……。マーサ、メニュー開発は順調そうやな」


 氷を粉砕する手を止めたマーサに、私は引き攣った笑みを返す。


 厨房組は、朝から商品開発のために氷を破壊してはシロップを掛けて食べると言うことを繰り返しとるようやった。


「アンタ達もおったんか」


 厨房前のカウンター席には他にも、試食係として(ロック)たち運搬係の姿もあった。


「フシュー……フシュー……」


 二メートルを超える鉄仮面の(ロック)が、仮面の隙間から白い冷気を吐いて震えとる。もうずいぶんと氷を口にしたらしい。


「アンタら大丈夫かいな⁉ マーサ、私にも一つ試作品協力させて!」


「おや、それは助かります。ではこちらの、レモン果汁を使った特製かき氷をご賞味くだされ」


 そうして手渡された綺麗なガラス製のデザート皿。

 そこに盛りつけられた『かき氷』を見て、私は絶句した。


「偽アイス〇ックスやがな」


 氷の粒は不揃いで、レモン果汁に浸ってるだけの偽物のかき氷。

 口に入れたらそのチープさに思わず笑いそうになる。


 氷は高級品、それにソース単体の味やって全く引けを取らん。

 ただ致命的に調理がゴミなせいで、触感が絶望的に安っぽかった。


 カップの中に入れたら案外普通に売れそうやけど、それを『かき氷』と表記して出すのは、ちょっと覚悟がいる。


 だいたい隣のルカが丁寧に醸造したビールを出してるのに、うちがこんな雑なもん出したら、恥さらしもええとこや。こうなったら……もう三日しかないけど、作るか? かき氷機。


(ロック)さん、ちょっと黒板貸して」


「コーホー……」


 私はロックから黒板をひったくり、前世の記憶を頼りに「かき氷機」のポンチ絵を描き始めた。


「こう、中心に軸があってな? ハンドルを回すと氷が回転して、下に固定された刃が表面をシュルシュルと薄く削いでいく感じや。……伝わるか、これ?」


 近くにおったロックたちに説明してみたけど、当然首を傾げられた。


 そらそうやろうな。


 描いてる途中で私も思ったけど、かき氷が中でどんな風にスライスされてんのか、そもそも私が知らんもん。


 知らん道具を誰かに伝えるなんてそんな無理な話はない。


「かき氷機……無理そうやなぁー……」


 そんな弱音を聞きつけたのか、厨房から足音が近づいてくる。


「バイカル様、コチラの絵はなんです?」


 私が絵を描いているのが気になったのか、マーサは厨房から覗き込むように私の前に立っとった。


「な、なに? ビックリしたぁ……」


「ですから、このキテレツなカラクリについてお教え下さい」


「かき氷機や」


「ほう、かき氷機? ですか。それは字ズラから察するに、かき氷を作る道具でしょうか」


 ロックたちにした説明をもう一度マーサにもしてみた。

 これで伝わるなんて全く思ってないけど、なんかふわっとしたイメージだけでも伝わらんかな。




「それはもしや……粉チーズのようなイメージでしょうか?」


「それそれそれそれ!」


 それを聞いた瞬間私は立ち上がって拍手した。


 確かにかき氷は粉チーズに似てるわ。

 くちどけを滑らかにするって意味でも近しいものがある。


 やっぱりレストラン経験者を雇って正解やったな。本人は小銭稼ぎのつもりできたとか言ってたけど、彼女の経験は大きな武器や。有効活用させてもらいましょう。


「そうそう! 氷を粉チーズみたいにふわふわにさせる道具を作りたいねん」


 私が一人ではしゃいでいると、マーサは「ほうほう」と頷いてから、「それなら」と、(しわ)の入った指をぴんと伸ばした。


「そのようなご要望でしたら、マリーン・ヴェイルに古くからある道具が使えそうですが、いかがいたしましょうか」


 マーサの言葉は私にとって、天啓にも等しかった。


「なっ……そんな都合よくあるもんなんか⁉」


 マーサは頷いて厨房に引っ込むと、奥からてのひらサイズの円盤に垂直な軸と、回転する刃がついた不思議な鋼の道具を持って戻ってきた。


 確かにそれはたまに晩餐会とかで見るチーズを削る道具で、花みたいなチーズがクルクルってできるヤツやった。


「あぁこれ! よくチーズ削る時にみる道具や! 名前知らんけど!」


 興奮気味に私は馴染みのある謎の道具を指した。

 マーサはそれに苦笑しながら、それが何なのか私に説明してくれる。


「こちらは『テット・ド・モワンヌ』という硬いチーズを、花びらのような薄さに削り出す『ジロール』と呼ばれる道具でございます。この軸の先端部分をチーズ中央に差し込み、ハンドルを回転させることで、ご存知の通り、チーズを花びらのように削り出すことができます。口当たりも滑らかになり、華やかさもございます。かき氷には確かに向いている道具かもしれませんね」


 にこやかに笑うマーサに、私はさっそくジロールという道具で、氷が削れるか試してもらうことにした。


「マーサ、やってみてくれんか?」


「はい、すでに準備完了でございます」


 マーサは私に言われた通りに、氷にジロールの軸の先端部分を突き刺した。

 すると……。

 ───バキン───、

 と音を立てて氷は中心から四方に亀裂を走って割れてしまった。


 当然といえば当然の問題やった。


 ジロールの軸はチーズの中心に突き刺すものであって、氷のような硬いものを突きさす道具やないからな。仕方がない。


「んんー。思いつきにしてはいいアイデアやと思ったんやけどなー……」


「知り合いに腕の立つ鍛冶師がいるので、相談してみましょうか。私のジロールも彼が作ったものですから」


 マーサは氷からジロールを外しながら、そんな提案をしてくれた。


「ほんまかいな。それは願ってもないけど。ええんか?」


「ええ。先方が忙しくなければですが。問題ないでしょう。ホッホッホッホッ」


 よっしゃ、それならマーサの知り合いにさっそく会いに行こう!




 ◇



 マリーン・ヴェイルの裏路地。潮風に混じって、鉄を焼く匂いと槌の音が響く一角。

 鍛冶師ギルド直営の金物屋『鉄の牙(ニブル)』の暖簾を潜ると、そこは武器と調理器具がカオスに同居する、鉄と鋼の聖域やった。


「いらっしゃい! ンぉ⁉ マーサじゃないか。お前さん、引退したんじゃなかったのかい? というかそちらのベッピンさんはどうした?」


 熊のような大男が顔を出した。

 この全身火傷の跡だらけで、黒くピカピカ光る頭の職人さんが、マーサお婆ちゃんの知り合いみたいやった。


「ご無沙汰しております。チョウベー殿。こちらは現在私が勤めています、ノヴァーリス商会のギルドマスターで在らせられます。アレクサンドル・バイカル子爵令嬢様でございます」


「よろしゅうな! チョウベーさん!」


「こりゃ元気のいい嬢ちゃんだな! ハハハッ気に入ったぜ。色々見て行ってくんな!包丁から大剣まで。うちは幅広く取り扱ってるからな!」


 確かにチョウベーさんが言うように、広い店内には、刃物から機械仕掛けのカラクリ人形みたいなものまで、カテゴリー別に幅広い商品が陳列されてあった。


「実はですね、チョウベー殿。本日は折り入ってお願いしたきことがあり、参上いたしました。どうぞ、これをお納めください」


 マーサは私のデザインを描いた黒板を、カウンターに立っているチョウベーさんに渡してくれる。それが新しい道具の注文書だと言うことがわかって、彼はスキンヘッドを撫でた。


「ん、どれどれ……ほほう、チーズよりもっと硬い『氷』を削る道具ねぇ。面白いこと考えつくもんだ。パーツも少ないし、ちゃちゃっと作ってやろうか?」


「ええんですか!」


「おうよ。ちょっと外でお茶でもしててくれ。一時間半もありゃ、試作品を作ってやろう」


 そんな馬鹿な……というには私は何も知らんけど。それでも仕事が早いことはわかった。

 何はともあれ助かるわ。

 というかチョウベーさんは何者なんや。ただの金物屋の店主なんか?







高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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