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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド編

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アイスクリームが難しいなら、かき氷を作ればいいじゃない

 翌朝、改修工事が一段落した「海の家」の前。

 マリーン・ヴェイルの乾いた海風が吹き抜ける砂浜にて。


「せいれーつ!」 


 ピピッという笛の音とともに、そこには昨日の面接を生き残った二十一名の「精鋭」たちが呼ばれて、整列しとった。


「自分で集めといてこれ言うのもあれやけど……なんや、この濃いメンツは。サーカス団でも結成できそうなメンツやな」


 私はパラソルの下、ビーチチェアに座って扇子をパタパタさせながら、砂浜に立つ精鋭たちの面構えを眺める。


 フロストとミヤハという、二重トラップを掻い潜ってきた曲者(くせもの)揃いや。面構えからして違うのは分かってたけど……。


 それはもう、係をまとめるリーダーからして違った。


 運送係のリーダーを務めるのは、身長二メートルはあろうかという正体不明の巨漢の男───通称『(ロック)』。フロストが「腕相撲でいい勝負が出来たから」という脳筋な理由で即決した奴や。顔は鉄のマスクに隠れてて分からん。


 厨房係のリーダーには、元・一流レストランで下働きをしていたという、目つきの鋭い老婆『マーサ』。腰は曲がってるけど、驚くほどに素早い。


 そして販売係のリーダーには、顔面白塗りのピエロメイクの青年、元・ピエロの『トビー』。

 復讐相手にデスゲームを主催するための資金調達で応募してくれた。手際がよくて度胸もある、何よりピエロは子供相手にウケがええと思って雇った。


 そして列整理・清掃係のリーダーには、面接で機転を利かせて様々なアイデアを出してくれた才人、男の娘『ソール・マーニ』が担当することとなった。今日も日焼け覚悟のハーフパンツからスラリと伸びた美脚と、あどけない表情が太陽のように輝いとる!


「……なるほどまともな方がいませんね」


 ミヤハはボソッと私にだけ聞こえるような声で毒づいた。


(……まるで他人事みたいに言うとるけど、こうなった責任の五割は、アンタら二人にありますからね?)


 まあ、その内の一人(フロスト)は邸におるけど。


「ほらほら、サーシャ様。みなさん整列していますよ。代表から一つご挨拶を」


 ジリジリと焼かれる新兵諸君からしてみれば、すぐに海の家に避難したいところやろう。

 そっちは屋根あるし。


「……分かっとるわ。……ええかみんな、よう聞いて。アンタらに求めるんは『命令への服従』やない。『現場での最適解の追求』や」


 私は扇子を閉じてビーチチェアから立ち上がると、新兵諸君を鋭く見据えた。


「私たちは全員がリーダーや。マニュアルにない事態が起きた時、誰かの指示を待つ時間は『機会損失』やと思え。失敗の責任は私が取る。アンタらには、スタッフっちゅー肩書きに縛られん動きを期待するで」


 スタッフたちの視線が私に集まる。困惑、疑念、挑発……。せやけど、それでええ。真剣に私の言葉を受け止めたからこそ、彼らは不安になっとるんや。


 その常識をぶち壊して、最高の環境を整えるんが私の仕事。まずはこのスプリングフェスで、私流の教育を施したるつもりやからな!


「今から見せるんは、ウチがどういう品を作ってるかというデモンストレーションや。目で見て、舌で感じてみ。アンタらはこれを売るんや!」


 パチン、と指を鳴らしてミヤハにデモンストレーションの開始を宣言する。


「かしこまりました。……それではみなさん、ご覧ください。世界で未だ一人しかいない、アイスクリーム職人の仕事風景です」


 ミヤハはそんなジョークを口にしながら、作業台の前に立った。

 今日から始まる教育実習。その第一歩は、我が商会の主力商品『ミーミル・アイスクリーム』の製造工程から始まる。


 ───そしてそれが後の彼女の悲劇になるとは、ミヤハはまだ知る由もなかった。





 ◇






 ミヤハの手が、精密機械のようなリズムで銀のボウルを回し始めた。

 氷と岩塩の化学反応によって、ボウルの周囲に真っ白な霧が立ち込める。


「おぉ」


 その不可思議な調理工程に、スタッフ全員の眼が釘付けになる。

 炎は使ったことがあっても氷は使ったことがなかったんやろう。彼らにしてみれば全く未知の体験に違いない。


「氷に塩を混ぜることで、急速に熱を下げます。……冷たくなると言うことです」


 銀のボウルに、温めたバニラビーンズ入りの牛乳、新鮮な生クリーム、卵黄、そして砂糖が投入される。


 ミヤハの手が、精密機械のようなリズムで攪拌(かくはん)を開始した。

 シャリシャリ、と氷が擦れる涼しげな音。

 ボウルの周囲からは白い蒸気が立ち昇る中で、良い匂いが外の浜まで立ち込めていく。


「すごい……」


 応募者たちが、生唾を飲み込んでその光景を注視する。 


「腕の角度、混ぜる速度、空気の含ませ方……すべてが完璧でなければ、これは『ただの冷たい泥』に成り下がります。どうせですから……やってみますか。……厨房係。見様見真似で結構です。一緒にやってみましょう」


 老婆マーサを含む厨房の四人が、おっかなびっくりボウルを手に取る。けど最初はみんな、材料とやり方さえわかればとりあえず簡単にできるやろう、ぐらいに思っていたようやったけど。


「あれー?」


 厨房から誰かの困惑の声が上がった。

 そう、簡単にアイスクリームは作られんかった。


 というのも三分もすれば、「腕がパンパンだよ!」「固まらなイィ」と悲鳴が上がり始まったからや。


 ミキサーなんてないから全員ボウルに泡だて器を使って頑張って空気を入れようとするけど、完成したのはザリザリの泥。


 とてもやないけど、モッタリとした濃厚なアイスクリームにはならんかった。


「空気が絶望的に入っとらんな」


 仕方がないので、責任取ってジャリジャリの方は私とフロストが食べ、スタッフ全員には、ミヤハのアイスクリームが配られた。


 それぞれがスプーンを手に取って、新築の海の家でアイスクリームを食べる。

 反応は当然驚きと、喜び、そして何よりこれは売れるという確信の色が見て取れた。


「こりゃ美味いね」


 厨房のリーダーであるマーサお婆さんもこれにはビックリしたようで、自分でも再トライするぐらいには、気に入ってくれたようやった。


 まぁでも。そこは当然としてや。問題はこの数日しかない状態で、ミヤハのパーフェクトなアイスクリームを作るのは結構難しいかもしれん、と言うことが問題やった。特に問題があるのは制作時間や。


「……あかん。一組作るのに、これはかかりすぎやな」


 私は手帳にペンを走らせる。一人が全力で回して一食二十分。攪拌機(かくはんき)が届いても提供数には限りがありそうやった。


(リードタイムが長すぎる。このままやと、回転率が悪すぎて儲けにならんぞ……? 作り置きを考えるか? いやそれでも客が増えた時の対処ができん……)


 そんな私の焦りを、背後から見透かすような声がした。


「……ギルマス。このままじゃ、ちょっとまずそうですねぇ」


 振り返ると、そこには白髪の可愛い男の娘、ソール・マーニが、顎に手を当てて厨房の様子を眺めとった。


「ソール君。……アンタもそう思うか?」


「はい。アイスクリームの味は間違いないと思うんですけど、量産には向いていないようですね。厨房の四人が死に物狂いで腕を振るったとしても、一日の提供数はせいぜい二百食が限界ってところじゃないですか?」


 行列に並んだお客さんが熱中症で倒れる方が先になりそうです。とも、彼は言った。


 確かにこの可愛い部下が言うようにこれでは売り物にならん。そしてそのボトルネックは攪拌(かくはん)の工程が原因だと言うことも分かってる。


 アイスクリームを作るのがどれぐらい難しいんか、私には分からんから、もっと簡単でたくさん作れるメニューを用意する必要がある。それこそ、二工程ぐらいで済む原始的な調理方法が好ましい。


「このまま作業時間の短縮をしない限り、ノヴァーリス商会は『人気があるのに大赤字』っていう、本末転倒で、一番格好悪い倒れ方をしてしまいそうですけど。何か案はあったりするんですか?」


 悩む私を横で覗き見る赤い瞳。その目は自分が仕えるに相応しい主かどうかを見定めるような、生意気な目に見えた。


「……せやからこうなったら、アイスクリームは、あくまで『プレミアムな呼び水』にして。……本気で銭を稼ぐなら、もっと回転率が高くて、なおかつ原価の低い『主力商品』が必要やな」


 私は、足元の氷の塊───洞窟から試験的に運び込んだ資産を睨みつけた。


 まさか夏を待たずにこいつを売り始めることになるとは思わんかったけど、仕方がない。新商品はゆっくり段階を分けて販売したかったんやけど……背に腹は代えられん状況やからな。


「ミヤハ! 手を止めろ! 厨房係、アンタらもや!」


「……何か問題でも?」


 不機嫌そうに手を止めるミヤハ。どうやら私から発せられる嫌な気を察知したらしい。


「方針転換や。アイスクリームは限定販売。……メインに据えるんは、もっと原始的で、もっと暴力的に冷たい商品。――『ミーミル・かき氷』に変更する!」


「ミーミル・かき氷……?」


「そうや。削って、シロップかけるだけ。工程は十分の一、回転率は十倍や。……こらっ、そこっ。それは料理と呼べるのでしょうか、みたいな目をするな!」


 ミヤハの顔から、一切の情緒が消え失せとった。

 先ほどまで精密機械のようにボウルを回していたアイスクリーム職人の誇りは、今やどこにもない。


 ただ、氷の塊と私の顔を交互に見つめ、まるで『私の努力is なに?』みたいな、主人にちゃぶ台をひっくり返されたメイドの悲哀が見て取れた。


「心の声を代弁いただき恐悦至極です。そんなものをお出しして、バイカル家の名誉に傷がつくことはないでしょうか」


 ミヤハは引き()った顔で、主人である私に若干の抵抗を示す。

 彼女もこのアイスクリームを完成に近づけるために並々ならぬ努力を重ねてきたわけであって、それを部下の熟練度不足という理由で、『氷を砕いただけの氷』に取って変わられてしまうのが、誠に遺憾なようやった。


「私たちの努力は無駄やない。アイスクリームもちゃんと売るから安心して。客の対応が間に合わへんから、簡単に作れるかき氷を売るってだけやから」


「……それぐらいどうにかして見せます」


教育なら任せて下さいというミヤハ。しかし不安要素は一つでも削っておきたい。もはやかき氷を出すのは決定事項となった。


「ごめんやけど、許してな」


 ちょっと不機嫌になってしまったミヤハさんには、申し訳ないけれども。私だってロハでやっとるんやない。


 ここにいる全員に給料払わんとあかん立場である以上、売り上げを第一に考える責任があった。


 今は心を鬼にして、安くて、速くて、美味いかき氷を優先させて覚えてもらうのは仕方がないことなんや。


「むぅ……」


 ミヤハの怒り顔が怖いけど、スタッフたちの顔は逆に明るかった。なんたってかき氷の作り方は誰でもできる。それこそ私にだって作れるぐらい簡単やったから。


 氷を袋に詰め、叩き潰し、その上から特製ベリーソースをぶっかける。提供まで二分とかからん。


「みんな覚えたか~!」


「はーい!」


 スタッフ全員の顔が明るくなった。確かにこれなら腱鞘炎にもならんやろうし、アレンジメニューを考えるのも楽しいやろう。


 せやからその……ミヤハはちょっと後で、謝らんとあかんな。


 け、けど!材料費はほぼタダやし。売れた分だけ収入になる。この暑い浜で私たちだけがかき氷を売れるアドバンテージは他とは比べ物にならんやろう。


 このまま原価率数パーセントの「氷の暴力」で、スプリングフェスの覇権を獲ったろうやないか。


「クックックッ……」


 満足したので私は海の家を出て、まだ空白状態の看板を見上げた。

 外装も内装もまだまだやけど、着実に工事は進んでる。

 あとは食欲の湧く看板さえあれば、この店の方向性が決まると言ってええ。


「……さて。監禁部屋でウルスラとヴァイノが看板を仕上げとる頃か。……ちょっと様子見に行こか」



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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