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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド編

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地獄の面接会場へようこそ。――残ったのは精鋭か、それとも変人か

 スプリングフェスに必要な人材は二十名。

 当初五名などと強がりは言ったものの、それはあくまで最少単位での話。

 分母が二百人という数ならば、それだけの数を調達することが可能やろう。


 そしてそれだけ揃えば、万全の状態でスプリングフェスに挑めるその確信があった。

 二週間という地獄の長期戦を勝ち抜くには、二交代制のシフト管理は必須。

 そのための20名の内訳は以下の通りや。


【運送 六名 / 販売・レジ 六名 / 厨房 四名 / 列整理・清掃 四名】


 朝から夜までの十時間。炎天下での活動を二週間もするとなれば、なんとかなるやろうと予想できた。

 かなり楽観的ではあるけども。せやけどこれ以上の人件費はさすがに採算が取れん。……せやからなるべく頑丈そうなのを選ぶ必要があった。


 ということで、まずは第一関門。

 試験官は、灰色の髪をした見た目で選ぶ外見至上主義者のミヤハや。


 私が五人ずつ相手すると言ったら、「やってられるか」と言われて、結果的に彼女が先に「見た目」で選ぶことになった。


 彼女の前に、男女問わず逞しい応募者が並ぶ。それをミヤハは無表情に「有り・無し」だけでバッタバッタと切り捨てていく。


(……気のせいか、生き残ってるのが全員『眼鏡の似合いそうなインテリ』か『幸薄そうな子』な気がするけど……。まぁ、清潔感があるのはええことや。……知らんけどな)


 三十分後。

 二百名おった候補者は、ミヤハの独断と偏見によって約半数が不採用にされた。


「ミヤハさん……削りすぎやないか?」


「いえ、全員と真面目に話していたら陽が暮れます。まずは『ノヴァーリス』のブランドイメージを損なわないガワが必要です」


 と、バッサリ。こいつはやはり鬼や。

 せやけど、おかげで粗暴な奴や、エロ目的で鼻の下を伸ばしとる連中が一掃されたんも事実。


 続いて第二関門。

 次こそはと私が席に着こうとしたところで、廊下から地響きのような足音が響いた。


 現れたのは、街中の掲示板から「私のビキニポスター」を強奪して帰ってきた、殺気全開のフロストやった。その後ろでは、ヴァイノが猫みたいに首根っこを掴まれて引きずられとった。


「サーシャさま……悪気は、ないん……です」


 カクンと気絶した画家。

 もはや逃走を図った時点で、何を言っても無駄である。

 私は衛兵たちを連れて、ウルスラを幽閉してある客間にその男を投げてくるように命じた。


「……次の面接は俺がやろう。不埒な輩に、サーシャの横を歩く資格はないからな」


「いや、仕事仲間を探しとんねん」


 しかし有無を言わさぬ彼の笑みに私は根負けし、結局、第二次試験官はフロストが務めることになった。


 その意図せず生み出されるオーラというか、殺気のせいで、客間が戦犯裁判所のような冷え切った空間に変貌していくのを、私たちは扉の奥で震えて見守ることしかできんかった。


「あいつ眼だけで人間射殺せるんちゃうんか……」


 彼の瞳と合った瞬間、挙動不審になる者、発狂する者、過呼吸で運び出される者が続出。二言以上会話ができれば合格という超低ハードルやったけど、それができたのはわずか五十名ほど。


 圧倒的な「王者の圧」のせいで、多くの優秀そうな応募者が次々と脱落していった。

 今のところ顔が良くて面の皮が厚い奴しか残ってないけど大丈夫そうやろうか。

 というか。


「四分の一になってしもうた……」


 項垂れる私をよそに、試験官ごっこを楽しんだ二人はどこ吹く風。

 しかも「最終面接は、三人で行いましょう」なんてミヤハが言い出した結果、私は二人の「重圧」に挟まれる形で座る羽目になった。


 ◇


 最初に私の眼に着いたのは、五人目の応募者やった。


「よろしくお願いしまーす」


 ……思わず二度見した。


 入ってきたんは、白銀の髪に吸い込まれるような赤い瞳。生クリームみたいな肌に、ハーフパンツから伸びるカモシカのような脚。


 一瞬、ウルスラの親戚か何かが迷い込んだんかと思ったけど、声はあどけなさが残る少年のものやった。


「お名前は?」


「ソール・マーニです! 列整理・清掃を希望しています! 本当はリーダーになりたいんですけど、そんな枠、ないですよね?」


 ニコニコと屈託のない笑顔。

 それに大人気ない対応をするのは、無表情のミヤハと威圧的なフロストやった。

 ……もうこいつらマジで大人気ない。


「ソール君はなんで列整理なん? その……肌とか焼けるの気にせえへんの?」


「えへへ、大丈夫ですよ。僕、こう見えて『整理』するのが大好きなんです。ぐちゃぐちゃなものが、ピシッと並ぶのを見ると……凄く気持ちがいいので!」


「可愛いなぁ」、と思いながら同時に、「変なやつやなぁ」とも思った。

 私は気を取り直して、例の質問を投げかけることにした。


「……んじゃ、テストや。もしウチの店の前に、お婆さんが並んだとする。でも、そのお婆さんは歩くのが遅くて、後ろの列がどんどん伸びて、客がイライラし始めた。……アンタなら、どう動く?」


 これまでの候補者の解答は、「無理やり歩かせる」とか「列から外して対応する」、といったものから、丁寧さを求めて「お婆さんに付き添って列を止める」といったものまで色々や。


 正解はない。せやけど、私はこういう例え話はより具体的である方が好きやから、上記の解答をした候補者は全員落とした。


 “さて、この子はどんな答えを出すかな”


 ソール君は一秒もせずに、パッと解答を導きだした。


「お婆さんの体調が心配だから、番号を書いた『予約の木札』を渡して、日陰で休んでもらいます。それで順番が来たら、僕が呼びに行くという方法を取ることを提案します。そうすれば、お婆さんも後ろの人も、誰も損しないでしょ?」


「なるほど。採用」


 私は二言目には採用を口にしていた。そりゃミヤハとフロストが合格させるわ。

 この子の小さい体には大きな知恵があるらしい。


 まさか『待ち行列理論(キューイングセオリー)』による機会損失の回避を直感的に、それも誰も不愉快にならん方法で導きだすとはな。

 恐れいった。


「やったぁ! ありがとうございます、ギルマス!」


 ギルマス、とはギルドマスターの略称や。

 これでもまぁ、ノヴァーリス商会も括りは物流ギルドやしな。そう呼ばれるのが一応妥当ではあるか。


 それはともかく、彼には少し突っ込んでしてみたい質問があった。


「……ちなみにやけどソール君。全員に札を渡すコスト、考えたことある?」


「あ、それも考えてます! 木札の裏に『提携先の居酒屋で使えるクーポン』でも書いとけば、提携料で制作費はチャラにできますよね? 待ち時間も街の経済が回りますし!」


「へぇ……」


 私の口角が上がったのは言うまでもない。私が氷の小口契約したところまでリサーチ済みなんかいこのガキ。……有能過ぎてちょっと引くわ。


 横でミヤハが、「……シュガーライク様に次ぐ、恐ろしい合理主義者の気配です」と呟き、メモ帳に大きな花丸を書き込んだ。


 フロストですら、「……よく分からないけど、なんかいい人そうだ」と、笑みを浮かべた。こいつの判断基準は一番曖昧で、なんなら気分次第な所が怖すぎるけど。まぁ、野性の嗅覚で安全と嗅ぎ取ってるなら問題ないやろう。


 ちょっと不気味な少年やけど、私も可愛い子が部下になるのは大賛成や。




この面接回、正解が分からなくて何回か書き直したんですけど、結局これが一番軽くていいと思ったので、これになりました。ソール・マーニ君が出てきた回と思ってもらえればいいかと。

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