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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アイス・イン・ワンダーランド編

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内気な画家は依頼の報酬にご不満のようです。───依頼主の金貸しもそう言えば内気でした

今回はちょっと短めです。

 陽射しの強い午後、絵描きのヴァイノは相変わらず、駅のラウンジにキャンバスを置いて、筆を執っとった。


 足元には画材の入ったボロいカバンが一つ。

 どうやらそれを重しにして、イーゼルの足を固定しとるらしい。その慣れた手つきを見とるだけで、彼がどれだけ過酷な場所で筆を走らせてきたかが何となくわかった。


「ちょ、ちょっと急ぎすぎだって……! こ、心の準備がガガガ……」


 ターゲットを視界に捉えた瞬間、隣のウルスラの足取りが壊れたゼンマイ仕掛けみたいに遅くなる。私は深く溜息をつき、隣のブリキ人形に変えられた友人の肩を叩いた。


「深呼吸して? はい吸ってー、吐いてー。……行けそうか?」


「ムリ……」


「そっか、じゃあちょっと待ってるで?」


「うん……」


 ウルスラの心の準備が整うまで、私はヴァイノの「作業環境」をじっくり観察することにした。


 丁度ラウンジの隅、誰にも邪魔されない柱の影だけが、ちょうど海からの反射光を間接的に取り入れられる場所になっているようで、砂も飛んでこないその場所は、差し詰め自然にできたアトリエのようやった。


 後ろを振り返ったら、パンとか飲み物が補給できるバーカウンターがあるし、脱水の心配もないんやろう。


 ふと、ヴァイノが新しいキャンバスを取り出し、岩肌のデッサンに取り掛かった。描き損じた部分を、ボロボロの白い塊でゴシゴシと消し――あろうことか、それを「もったいない」という顔で口に放り込んだ。


「……消しゴム、食べなかったか今?」


 背後から、客のフリをしたフロストが、囁き声で訊いてきた。

 こいつは193センチの巨躯で新聞紙逆さまに持って何をしてるんや?


「いや、流石にあれはパンの中身やろ。……せやけど、文房具と昼飯を兼用するとは、コストカットの極致やな……」


「彼……ストイックなのね……」


 なぜかキュンとするウルスラ。


「いや、ストイックじゃなくてただの空腹だと思うぞ」


 と、私の代わりにフロストがツッコむと、ウルスラは公爵であるフロストをキッ! と睨んだ。


「こらフロスト、バーで飲んどきなさい」


「真実を言っただけなのに……」


 とぼとぼとバーカウンターに引っ込んだフロストを視界から外して、私の後ろに立つ日焼けしたミヤハに向ける。


「ミヤハ、例の力作……やなくて、書類を」


「かしこまりました。お嬢様のワガママで作り直しされることになった、この可哀想なチラシたちですね?」


 シュガーライクとのデートで心なしか艶の増したミヤハが、澄ました顔で書類を差し出す。


 よし、営業開始や。


 私は腰に引っ付いたまま震えるウルスラを引きずり、ヴァイノの前へと立ちはだかった。


 ◇


「だれ……?」


 筆を止め、振り返ったヴァイノの声は、今にも消えそうなほど細かった。

 私の美貌に当てられたんか、その瞳には「美人局」という三文字がはっきりと浮かんどる。


 とりあえず第一印象は失礼な男で決まりやな。


「私は通りすがりの商人、サーシャ。隣は友人のウルスラや。……おい、そんなに震えんでも、命まで取らんし高い壺も売らへんで?」


「……ご用件は?」


「アンタの絵を遠目に見せてもろたんや。その写実的なタッチ、うちの商会に欲しくてな。……これ、見てくれる?」


 私はミヤハ特製の、文字だけの味気ないチラシを差し出すと、ヴァイノは一目見るなり、「……ひどい」と本音を漏らした。

 

「せやろ? 芸術性の欠片もない。これをアンタの手で、『マリーン・ヴェイルの誇り』に書き直してほしいんや。報酬は銀貨十枚。どうや?」


 ヴァイノの顔が露骨に曇る。銀貨十枚――約五千円。アマチュアのプライドを揺さぶるには、絶妙に「安い」金額や。だが、これこそが私の狙い。


「……ただし。出来高次第で、追加報酬を乗せる契約を提案したい」


「追加報酬? ……いくら?」


「そうやな……」


 私は悩んだフリをして、手帳にサラサラと追加条項を書き加えた。


「デザイン、構図、そして何より『客の足を止める力』。これらが完璧やと判断されたら、ボーナスとしてさらに銀貨二十枚(一万円)を上乗せする。……判定基準は、ここにいるチラシ担当のウルスラが一任されとるんやけど……どうや? 乗るか、この勝負」


 これが俗に言う『フレーミング効果』や。

 最初から「三十枚」と言うより、低い提示から「アンタの実力次第で三倍になる」と見せることで、相手の「やる気」と「射幸心」を同時に煽る。さらに、対等なビジネスパートナーとしての「敬意」も偽装できる。


 やり過ぎたり相手を間違えたりすると失礼やから、パワープレイではあるけど。こういう相手には効果てきめんや。


「……全部完璧なら、銀貨三十枚。……わかった、やってみる」


 ヴァイノの言葉に私はニヤリと笑い、背後で固まっているウルスラの背中をドンと押す。


「よし。具体的なデザインの要望は、こちらの担当であるウルスラと詰めてもらいます。私はギルドマスターとして全体を見る責任があるからな。……さぁウルスラ、挨拶!」


「え、えっと……ウルスラです……。あの……パン、美味しそうでした……です」


「……あ、……よろしくお願いします」


 ……あかん。


 どっちも内気やったら話進まへんぞ。





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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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