無意味?な決闘。
何処が決闘の終わりかもわからないまま、戦いは続いた。
山道には土埃と血の匂いが混じり合い、木々の隙間から漏れる西日が、二人の影を赤く長く伸ばしていた。
といっても、フロストは既に壊れた玩具を見るようで、何処か興奮も少し冷めたみたいに、ヴィーダルを見てる。そこから何を考えたんか、フロストは大剣を地面に突き刺して、握りこぶしを両手で作り、ガンガン、と打ち鳴らして笑みを浮かべた。
「ヴィーダル君。死ぬんじゃあないぞ!」
いくら怪我人とはいえ、ヴィーダルはそこら辺のエルフよりも剣の腕が立つ。直接見たのは訓練場で他のエルフを伸してるところぐらいやけど、同じ規格の生き物であれば、彼の剣の腕は比肩する者がないぐらいには卓越しているように思えた。
そんなヴィーダルを相手に、ステゴロというのはあまりにも舐めている。これから皇帝になる男がするような戦い方ではない。こんなの、殺してくださいって言ってるようなもんや。彼は生き恥晒して死ぬ気なんやろうか?
「チッ......!」
ヴィーダルの舌打ちがこっちまで聞こえてくる。彼がここまで憎しみを向けている人は初めて見たかも知れん。けど、そんな彼の苛立ちも、フロストの動きで消し飛んだように見えた。
というのも、フロストは鉄塊のような大剣を下ろした瞬間に、人体が出力できる移動速度か疑わしい速さで、こっちに走ってきた。ドスドスドスドス、ありえないスピード。踏み込む度に地面が抉れ、砂埃が舞い上がる。秒数にしておよそ0.6秒で十メートルの距離を縮めたフロストは、笑顔で握りこぶしをヴィーダルに向けて振るう。
殺人的な拳の風圧が、ヴィーダルの頬を掠め、その返礼とばかりに、鋭い剣先がフロストの喉元にまで近づく。あと少しで喉元を裂くかに思われたその剣先は、フロストの常人ならざる体幹が可能にしたスウェーによって、回避された。
しかし、膝を曲げて体を大きく後ろに倒したせいで、フロストのバランスは大きく崩れる。そこにヴィーダルの一撃が加わるように思われた。
「足元が留守だよ」
崩れた体勢から伸びた足が、ヴィーダルの折れた足に直撃する。悶絶の表情を浮かべ、伸びた足に剣を振るうも、フロストの足にはなぜか剣の刃が通らなかった。
「鎖帷子か......!」
ヴィーダルの言葉に微笑で返すフロスト。何も着込んでいないように見えて、フロストは全身に鎖帷子を着込んでいるみたいやった。
間を縫って突く攻撃ならまだしも、斬撃を得意とする相手にはめっぽう強い。ヴィーダルの剣では、突き以外に有効な攻撃方法が封じられたと言っても過言ではなかった。
フロストはどんなに自分が肉体的に、精神的に優位な立場にいても、徹頭徹尾まともに正々堂々と戦う気は皆無みたい。これはなんと言うか、あまりにも惨い仕打ちにみえる。ヴィーダルはきっとこの戦いに意味を持たせていたはず。無意味に死のうなんて考えんはずやからや。それはエルフの誇りとか、そういうのかも知れん。私にはわからん。
けどこれはそんな彼の気持ちを踏みにじってるように思えた。
「終わりや。戦いになっとらんわ、こんなん」
私は二人の間に立って待ったをかけた。この場所にいる人間で、私がこの場を唯一収めることが出来る、そう思ってた。けど、予測は大きく外れて、フロストの冷たい視線を私は浴びる事になった。
「サーシャ、これは決闘だよ。どちらかが負けるまでこの決闘は続く」
「そうです。姉様。どうが、どうか下がっていてください」
二人の意志は固いようで、その後もいたぶりは続いた。私は、軍人に輪の外に追い出され、ただ観衆の一人として見守ることしか許されへんかった。ただその暴行現場を見て思うのは、やはりこれは決闘ではなく、両者同意の上で成り立つ、ただの私刑だということ。
これを許容し、なんならちょっと喜んでいる周囲を見て、初めて私は、彼らとは違う世界に生きているのだと分からされた。
それから数分後、奇跡など起こりようもなく。顔の判別がつかないほどに顔面をボコボコにされたエルフが、静かに血だまりの中に沈んどった。森はしんと静まり返り、エルフたちの荒い息遣いだけが辺りに響いていた。誰もが血だまりに沈むエルフは、死んだか、あるいはその一線を彷徨っているであろうことは一目瞭然に思えた。
フロストがそんな彼の安否を確認しに片膝を折り、脈を確認しに行った次の瞬間。ヴィーダルの剣を持った腕が持ち上がり、フロストの顔を縦に斬り裂いた。
「グァ!」
初めて聞いたフロストの痛みに苦しむ声。ただ、その声はあまりにも喜びに満ちていた。そして笑みを浮かべる。今度のは微笑やない。歯を剥き出しにした、今まで見たことのない、感情を抑えられてない笑みやった。
(あっ……)
私は彼がその笑みを浮かべた瞬間に、本当にヴィーダルが死ぬと思った。いや、今のままでもヴィーダルは死ぬかも知れへんけど、明確に命を絶たれる瞬間を目撃する……そんな予感がした。
「や......!」
声にもならない声が喉元から出そうになった瞬間───
「そぉこまでぇぃ!」
ダンディな声が響き渡った。
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