決闘───ナニワの令嬢は実況するようです。
フロストが一人で馬車から降り、突撃していく。その光景をみて私は、何か言いようのない違和感に襲われた。前方にはボウガンを持ってるエルフの兵も見える、丸腰で行くなんて自殺行為や。
決闘というからには、一対一の剣を用いて行われるのが一般的やと思ったけど、そもそもここでそんなことをするのは意味が分からん。
政治的にヴィーダルが戦いを続けたいというなら、フロストと戦う必要はないし、フロスト側も彼に応じる理由がない。だからこの戦いは起こるはずがないもの。そう考えるのが自然やろう。
だというのに、戦いは始まってしまった。私が馬車から降りた頃には、すでに剣先で火花が視界に入っていた。二人の剣舞ともいえる戦いは、傍からは柔よく剛を制すという言葉を信奉する者達の最後の希望が戦うような現場にも見えた。
圧倒的な質量で周囲を薙ぎ払うフロストに、身のこなし一つでその剣を回避するヴィーダル。服の一部でもあの大きな大剣に掠ってしまえば、たちまち体は宙に浮き、吹っ飛んでしまうであろう、数ミリが決める世界がそこにはあった。
最初の犠牲者はエルフ側から出た。と言っても、ヴィーダルやない。戦いの取り巻きになっていたエルフが犠牲になった。
フロストがヴィーダルとの戦闘中、当然逃げるヴィーダルを追いかけるために、縦横無尽にその体躯は幅のある山道を駆け回る。足元も不自由な中で、二人の戦闘の余波を避けられなかったエルフと衝突事故が発生したんや。
ゴンッ、と鈍い音を鳴らして、フロストとぶつかった175㎝ほどのエルフの体が宙を舞う。吹っ飛ばされたエルフは完全に気絶して、ピクリとも動かんくなってしまった。
それを見たエルフの仲間たちの怒声が上がり、ボウガンの狙いがフロストに定まる。
「あ、アカーン!」
今度こそフロストがボルトに射抜かれて死ぬ。そう思った瞬間、何処からともなくそのボウガンだけを破壊するように矢が射られ、エルフの所持していたボウガンは、跡形もなく破壊されることとなった。
「え?」
その方向を見ると、すでに山の中には大勢のヨトゥンヘイム軍がエルフたちを取り囲んでおり、沈黙の中、ボウガンの先はゆっくりとフロストに向けられていた。
「我らが偉大なる王よ。そんなエルフの小僧に負けるようなら、ここで死にたまえ」
聞き覚えのある声がすると思いきや、森の中にいたのはバナナおじ───ムニンおじ様やった。彼がこの決闘を取り仕切る人らしく、囲んでるヨトゥンヘイム軍は自分の持つ連射式ボウガンを、エルフではなくフロストに狙いを定めながら、全員が下卑た笑みを浮かべていた。
(あ、あいつら自分の王が死んでもええって言うんか......⁉ 下手したら皇帝になる男やぞ......⁉ これって、仮に決闘に負けて生き恥を晒すぐらいなら、この場で死ねっちゅーこと?)
馬車から一歩も動けない私を差し置いて、決闘は見る者の目を奪うほど、鮮やかに続いていた。フロストとヴィーダルの戦いに介入することは不可能だと分かると、エルフもかなりの距離を取り、見守ることとなる。
フロストが大剣を振るう度に、大気が振動し、ヴィーダルが跳躍をする度に彼が空を舞っているように見えた。
拮抗している......最初はそう思った、けどフロストが見たこともないような、狂気的な笑みを浮かべたら空気が変わった。
何かが来る、そう思った次の瞬間、なんと彼は大剣を地面に這わせた後、山の腐葉土を丸ごと掘り返して、泥をヴィーダルに浴びせかけていた。
「き......汚っ⁉」
そんな感想が漏れる。正々堂々と戦うのが勝負なんちゃうんか、そう思った矢先、フロストは容赦なく目潰しをして、目を一瞬閉じたヴィーダルにタックルした。それが残酷にも、この戦いの決定打のように見えた。
馬車に人がはねられた時みたいなゴンッ、って鈍い音がして、ヴィーダルは私の方に弾き飛ばされてくる。二秒ぐらい宙を浮いていたように思われたヴィーダルの体は、ゴロゴロと転がってきた。
聴こえるヴィーダルの、ゼイゼイ、という呼吸音。死にかけの動物が出す、息切れのように思えた。よくみると撥ねられた影響で、片足が変な方向に曲がってしまっている。交通事故に遭ってしまったような、友人の姿がそこにはあった。
「ちゅ、中止! やりすぎや! なんでアンタらこんなことしとるん⁉」
途中まではフロストの攻撃を華麗に避けてたヴィーダルも、一回体がぶつかっただけで骨が折れてる。フロストは人とは戦ってはいけない生命体や。こんなもんは、決闘でもなんでもない。
「姉様......向こうへ行って下さい......」
レイピアを地面に刺し、ふらふらと立ち上がろうとするヴィーダル。機動力の失われた彼がフロストとの戦いに勝利するなど、万に一つもないように思えた。
「アンタ死ぬで......?」
「最初からそのつもりです!」
立ち上がったヴィーダルを見て、つまらなさそうにしているフロスト。再び、突進してくる様子もなく、コキコキ、と首を鳴らしている。次の瞬間にはヴィーダルの首か上半身が地面に転がることになるやろう───そう思った時。
頭の中でようやくフロストが馬車の中で言っていた言葉を思い出した。
(俺が皇帝になったのは、ヴィーダル君を生かすためだからね)
そう、たしかそんなことを言っていた。だったら今のヴィーダルの状態はどういうことや。ヴィーダルも意地でここに立ってる。敗北を認める気なんてサラサラない。この戦いに決着はあるんか?
このままやったら、絶対にヴィーダルは死ぬ。
アレか?“ヴィーダルは皆の心で生きている”とか、そういうことをフロストは言うつもりか? 若干有り得そうなのが、本当に怖いんやけど、大丈夫そうか?ほんまに。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




