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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
3章アールヴヘイム編

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ジョン陛下の死───フロストはジョンにトドメを刺すようです。

ちょっと暗いですが、大事なシーンかと思います。

ミズガルズ王宮の一角、かつての栄華を象徴するかのような豪奢な私室──通称、王の部屋。ありとあらゆる要望を叶えると同時に、王の器を薫陶する役割も担うこの場所は、帝王学を始めとして、様々な知識が眠る図書館に隣接し、出入りは王にのみ許されていた。


そこから本を持ち出して来たフロストは、ベッドに腰を掛けるジョン王と対面して、椅子に腰を下ろした。


「お久しぶりです。陛下。三年ぶりですか」


「公爵……彼方とこのような形で相まみえることになり、とても残念に思う」


殿下から陛下と呼ばれるようになっていたジョン王にとって、フロストと言葉を交わすのは何も初めてのことではなかった。


「単刀直入に訊きたい。処刑は俺だけで済むのか。それとも……」


ジョンは先の言葉を飲み込むと、喉の渇きを感じたのか、召使に水を求めた。持って来られた水をすぐさま空にすると、まだまだ乾く。気づけば大粒の汗を掻き、息も上がっていることに苦笑を漏らした。


王である以上、この結末を夢想しない日はなかったが、いざやって来てみると、なぜか嗤えてくる自分がいることにジョンは気づいた。目は滲み、光が視界の外で乱反射する。ジョン王には妃と一歳になる息子がいる。王の処刑ともなれば、それは家族も同様。


生まれて来たばかりの我が子まで処刑台に送られると思うと、親心がやっと芽生え始めたばかりの彼にとっては、堪えがたい地獄のような苦しみを味わっていた。彼がこの場でフロストと対面しているのは、もはや自らの命の懇願をするためではない。


一人の王として、勝利者に対して最後の慈悲を乞うために座っていると言っても過言ではなかった。城を落とされるということは、つまり人権を含む全ての権利を譲渡する行為なのだ。


そしてジョンは知っていた。奪うという点において、フロストの右に出る者はいないということを。彼は人に食料や金を好んで奪う。その証明とばかりに、すでにこの王宮からは宝という宝の全てがフロストによって奪われた後だった。


その徹底ぶりは、文化的な価値を持つ絵画や武器、柱の金箔までに及んだ。銀の聖杯や金の盃は略奪開始の数秒後には姿を消し、鎧や武器は次に消え、書物や布も次々と奪われて消えた。


物が奪われた後は、当然のごとく次のターゲットに人が奪われた。王宮で働いていた執事やメイド、コックに至るまで多くの使用人が連れ去られ消息不明に。現在は最低限の使用人が、王とその家族の傍仕えとして機能するのみだった。


そんな僅かな使用人から受け取る水の味も分からぬまま、ジョン王は対面に座るフロストの顔色を窺っていた。


「そうですね。慣例では、陛下と王妃、そしてご子息に至るまで、全員の処刑が民からは願われております」


フロストの言葉に、ジョンはぎゅっと目をつぶった。額からは滝のような汗が零れる。最悪の現実が目の前に横たわっていた。嗚咽はとうに吐き終え、今は、嘆願を聞き入れてもらえるため、どのような言葉であれば適当か、ジョンは高速で回転する脳から一つの答えを導き出すことに注力するほかにない。

ジョン王子は、吐き出す言葉一つ一つに全神経を集中させていた。


「貴方が王になられるのであれば、私の支持者には、貴方の言うことを聞くように融通を利かせられる。その見返りと言っては何だが……息子の命だけは、助けてもらえないだろうか。息子はまだ誰が父親かもわからぬ赤子だ。何も世界を知らぬまま殺されてしまうのは、あまりに忍びない」


屈辱に唇を噛み締めるジョン王。生まれてこの方誰かに物を頼むなど、数える事しかなかった彼が、敵の……それも婚約破棄を言い渡した相手の婚約者にしなければならないなど、屈辱の極みでしかなかった。


一方で、その様子を見ていたフロストは、依然、慇懃な微笑みを絶やさぬまま、微塵の動揺も見せない。


「習わしと言っただけで、別に三人とも殺そうなどとは考えておりません。特に陛下、貴方はドワーフどもに騙されただけなんでしょう。そう、承知しています」


「え⁉」


思わぬ方向に話が転がっていることに気づいたジョンは、思わず上ずった声を上げた。


「じゃないと、あのタイミングで王家がウチを攻めてくる意味がない。大方ドワーフの国に、鉱物資源を条件に取引を申し込まれたんじゃありませんか?」


そんなまるで予想でも立てるかのように話すフロストだが、当然彼は全てを知っていた。王宮内にも彼の間者は潜んでいる。筒抜けになっている情報を持ちながらも、あえてそのことを口にしていなかった。それは一重に、この男を最後に審判しようとする、彼の慈悲だった。


ジョンには二つの選択肢が残されていた。一つは全てをドワーフのせいにして、息子の助命を懇願すること。この場合自分の名前はドワーフに誑かされた憐れな王として残ることになる。


もう一つの選択肢は、ドワーフではなく自らの意思で戦ったと示すことだ。そうすると、彼は歴史的な愚王として名を刻むことになる。


どちらであっても敗者の歴史であることには違いない。しかし、最後まで振り回された王として名を刻むか、自分の意志で邪知暴虐に振る舞ったのか。その点だけは自分で決めることができた。


ジョンはこれまで常に、王妃候補であったサーシャ主導の下で国の舵を切ってきており、いわゆるお飾りの王子として周囲の目に晒されていた。


それが婚約破棄から一転、自分主導で国家を運営できるよう前国王に頼み、自分の意志で国を動かして来た彼にとって、最後の最後まで、たとえどれだけ愚かであったとしても、自分が決めた道だと思って進みたいという意志に嘘はなかった。


しかし、残酷なことに彼はもう一人ではなかった。守るべきものが増えてしまっていた。

己がプライドと、守るべき未来。両天秤にかけた時、ジョンは既に前者を選べるほど自己愛を保つことはできなくなっていた。


「そう……だ。ドワーフの国に唆され、国外にいる今が……好機と諫言を受け……」


自然と声が震える。顔は赤く染まり、握りこぶしからは血が滴り落ちた。過去の自分を全否定し、誇りある生き方を殺した。そうして流れた高貴な血は、光沢のあるシルクを赤黒く染めていく。傲慢な王としてのジョンは、ここに歴史と共に死んだと言えた。


完全に心を折られたジョンを見て、フロストの胸中に(さざなみ)が立つことはない。

いつも通り、動じるような素振りもなく、かといって彼の心情を理解していないわけでもない様子で、フロストはただその様子を眺めてから、口を開いた。


「だと思いました。であるならば、陛下は何も悪くない。むしろ悪いのは周りの人間ではありませんか。止められぬ王妃も王妃だ。なのでこうしましょう。王妃と子供の命、それだけで今回は手打ちということで。ジョン陛下には引き続き、ご政務を行っていただきます」


「な……」


「ですが……」


フロストの次の言葉に全てが決まる。そう理解した瞬間、ジョン王は初めて、しっかりとフロストの貌を見たような気がした。そこに映ったのは朗らかな笑顔。だが、彼の衒いのない笑顔がジョン王には、悪魔の相貌にも見えていた。


「何もお咎めなしというわけにはいきませんからね。王と誑かした王妃と、その赤子、さらに一派の貴族を軒並み処刑することで、民の留飲は収まりましょう。その後は、心機一転、また陛下のやりたいようになさればよろしい。俺の所に再び侵略するもよし、内政にこだわるようでしたら、それをするのもよろしいでしょう」


簡潔明瞭な殺害予告。ジョンは持ちうる全てをフロストに奪われ、傀儡になれとの宣告を受ける。僅かな間掌握した権力の対価が過去、現在、未来を代償に成立していたものだと分かった瞬間、彼は膝から崩れ落ちた。


そんな奪われる者の最後を数多見て来たフロストは、特にその様子に言葉をかけることもなく、『さあ、話は纏まった』と言わんばかりに膝を打つ。面倒ごとを済ませたばかりの、ハレバレとした表情で部屋を出て行こうとする彼の背中を、ジョンの幽鬼のように青白くなった相貌が無意識に追いかけた。


「ああ……あ゛ああ……あ゛あ゛ああ……!」


このままではいけない、そんな声にならない慟哭が、フロストの背中にへばりついた。



高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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