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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
3章アールヴヘイム編

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フロストの到着───ナニワの令嬢はヴァナヘイムに送還されるようです。

南国にいるはずのない、フロストが突如として現れたのは、午睡に微睡みたくなるような午後のこと。二十六度前後の湿った風が肌に纏わりつく、陽射しの中で、私は急いで軽く鏡を見た後に、兵舎のグラウンドに駆け出た。


普段はエルフの戦士たちが訓練に利用する森の中を切り開いて作られたグラウンドには、フロスト達ヨトゥンヘイム軍の他に影は見当たらない。戦闘があった形跡はなく、彼らがこの場所に暴力をもって侵入してきたのではないことを、現場は告げていた。


戦士たちの額に汗の粒がみえ、しばらくの間この場所に佇んでいたことを見るに、私が兄さんと話し始めてから、すぐに彼らはこの場所に音もなく集合し、ジッと私がこちらを見ることを待っていたと思われた。つまり、○鹿である。


私のことを心配して、戦後処理の真っ只中で、一個大隊、約500名を連れての出迎えにきた筋金入りの馬○達だった。


「えっと……色々言いたいことはあるけど……お疲れ様、です?」


「ハハッ、そっちも色々あったみたいだね。ご苦労様」


私は彼の下に歩き、すぐに用意できた果汁ジュースを彼に手渡した。彼は巨大な黒馬から降りると、一気飲みして、籠手を着けたまま口を拭った。そしてお返し? なのか、白い薔薇を三本渡してきた。道端で咲いてたにしては結構綺麗な色をしてる。ラッピングされてるし、買って来たんやろうか?


「おっ、サンキュー」


花を渡すとか、誰に教えてもらったんやろうとか思いながら、良い匂いのする花を嗅いで、顔を上げた。


「師匠から話しは聞いてるよ。エルフの独立を助けてるんだってね」


彼はスッと後ろへ目をやり、ミヤハが持ってるフロストからの手紙を一瞬見やった後、私の顔に視線を戻した。


「そうやけど……って、いやいや、誤魔化されへんで?」


「ん?」


「いやだから……。──なんでアンタがココにおんねーん!!」


キーンとしたのか、フロストは耳を両手で塞いで、口を開けた。鼓膜の破裂でも警戒したみたい。

……そんなことは、どうでもええ。今は、色々と訊きたいことが山積み過ぎて困る。


えーと、とにかくミズガルズにおるはずの、フロストがココにおる理由やな。場合によっては国際問題やぞ、これは。


「……サーシャうるさい。それより、ここを出るよ。ヴァナヘイムの邸に戻るんだ」


フロストはそう言って、兵舎の外に視線を向けた。道には黒塗りの八人乗りの馬車が待機しとる。直ぐにでも出発するつもりのようやった。


「えっ……それは普通に嫌なんやけど。ていうか、一応自由にさせてもらってるけど、人質って扱いやし……?自分の判断で住む場所決められる立場じゃないっていうかー……、人質じゃないと、ここで金稼ぎ出来へんというかー……」


モゴモゴと口ごもる私に、フロストは泰然とした笑顔で優しく頷いてくれる。そして、地底に響くような低い声で部下に命令した。


「ハハッ。うんうん……ヨシッ、連れて行け」


完璧な連携によって、突如として私の両脇に立つ女性の軍人の方々。私と違って、横にも縦にも大きい彼女達に、私は為すすべもなく腕を掴まれ、体はガッチリとホールドされてしまった。


「ぬわっ……! 離せ! 私はここでまだ大量の軍艦を作ってへんねや! 離れるわけにはいかへん! 引継ぎもまだ終わってへんのにー! 離せー!(ヴィーダルー! エルフの馬鹿ども~! 私の恩を仇で返すつもりか~!)」


兵舎では、私の叫び声に釣られてエルフたちが顔を出してるけど、ヨトゥンヘイム軍に睨まれると、顔をすぐに引っ込めてしまった。軍人にあるまじき惰弱な精神。先行きが不安になるけども……私に出来ることはもうなさそうやった。というかヴィーダルのやつは何処へ?


「「アレクサンドル様、ご同行願います」」


両脇の二人は淡々と私にそう命令してくる。逃げようとしたら全力で肩を掴まれたので、たぶん脱走は無理そう。私の『エルフの国で好き放題人質プラン』は、ついに崩壊の時を迎えたらしい。


「ちょっと! 強く掴み過ぎやない?」


「閣下のご命令です。ご辛抱下さい」


クッソー……梃子(てこ)でも逃がさん気や、このマッチョウーメン達。馬車にぶち込むまで、絶対に力を抜かん気か?


くぅ……一ヵ月ちょっと。短い期間やったけど───楽しかったなぁ。


「みんな~! 引継ぎ資料は必ず送るからなぁ~!」


兵舎の中でハンカチを振るおじさんエルフ達に、ゴマ粒ほどの友情を感じながら、私は手を振り返した。隣を歩くフロストは、そんな私たちを落ち着いた様子で観察していた。


「フロスト~。連行するって言うなら、アンタが手を繋いでくれてもええんやないの~?」


婚約者ならそれぐらい当たり前やろうと、お誘いしてみる。けど───


「俺だと逃げられると思ってるんだろう」


ダメダメ、と手を振られた。フロストは力加減が下手やから、私の手を強く握ったりせえへんと思ったのに。見透かされたみたいや。


「え~? 何のことやらー……サッパリやなー」


そう剽げた口調で話していると、後続から、走る四人組の足音が近づいてきた。再度奪還しにきたエルフたちかと振り返ったら、普通にフロストの部下たちやった。


「閣下、ご報告いたします。アリステア・バイカルに逃げられました!」


そんな報告をすると、すぐに隊列に戻っていく兵士達。あぁ、なんと勤勉なことか。エルフたちのスタイルに馴染んだ私から見れば、彼らの行動はミリ単位に調整された完璧な機械のよう。その動きからは機能美さえ感じられた。


彼ら猟犬から逃げ果せるのは、エルフの村を脱出するのとはわけが違う。久しぶりに兄さんの本気を見た気がした。


「ムッ……相変わらず逃げ足の速い人だな。……まぁ、ここまで連れてこられただけで、ヨシとしよう」


少し不満げなフロストに、クスクス、と笑いながら、兄さんと違って足の遅い私は、馬車までしっかり連行され、乗り込むことになった。


なぜ馬車に乗せられているのか、なぜフロストがこんなところにいるのか、なぜエルフたちは反抗しないのか。……何が起きているのか、さっぱり分かってへん。


───けど、一緒に馬車に乗ってきたフロストが全部答えてくれるやろう。じゃないと、私も納得できん。迎えに来てくれたのは嬉しいけど。今後エルフとの関係が悪くなったらーとか、ユグドラシルの供給はどうなるんやーとか。考え出したら、悩みが溢れてくる。

ぐぬぬ……一体どうしたものか……。


「ていうか……フロストさん? アンタ……馬で来たんやないの?」


馬車の中で外を見ると、名残惜しそうな黒馬の瞳と丁度目が合う。他の人が連れ帰ってくれるんやろうか。それとも放置……?


「ふーむ……」


フロストは振り返ると、指笛をプィーと鳴らして合図を送った。すると黒馬は誰に手綱を引かれることもなく、ヒヒィーン、と嘶き、その大きな馬体を揺らして、森の中を風のように駆けて行ってしまった。


「へぇー……賢いなぁ。あれ、ちゃんと帰ってくるんか?」


「さぁ、どうだろう?」


「え?」


適当なことばっかり言うフロストは、馬車の前で鎧を脱ぐと、馬車の中に頭を打たへんように、前かがみになりながら、狭そうに入ってきた。四人が対面で乗れるように、八席分用意されてるのに、フロストが座っただけで、向かいの席が凄い狭く感じた。


「アンタやっぱデカいな」


「サーシャが小さいんだよ」


ワールドワイドな価値観のフロストにしてみれば、確かに私は小さいかもしれん。

……まぁ、そんなことはどうでもええですわ。そんなことより訊きたいことが山ほどある。一番訊きたいのはやっぱり、私を今まで苦しめてきたミズガルズ王家の最後やった。


「ていうか、ミズガルズ王家はその……もう滅ぼしたん?」


フロストなら、土地と利権を売り捌いていても、なんら不思議じゃない。私の見ていないところで、王家は処刑し終えていた、なんてこともあり得る。捕まえたとは聞いてるけど、実は裏では殺していて、世間には公表していないだけ、なんてことも全然考えられた。


「ミズガルズ王家はね……」


フロストはなぜか、言葉を溜めた。ゴクリ、と自然に喉が鳴る。


「残っているよ。彼らとは契約したからね。ミズガルズは彼らに統治してもらうことにした」


「はぁー……」


彼の言葉になぜか凄い溜息が出た。落胆とかそう言うのではなく、なんか事故にあった知り合いが、運よく死んでなかった時の安堵に近い。許せん相手ではあるけど、できればこんな自然災害みたいな方法で死なれては困る、というのも正直なところやったんや。


とりあえず生きているなら、私も関与できるやろう。地元に帰ったら、また一つ楽しみが増えたわ。


……というか契約ってどういう意味や?


「契約ってなに?」


「ん? あぁ、俺に臣従するって」


何を言っているのか理解に苦しみ、私は一瞬硬直した。


「はい? ミズガルズ王家が……公爵のフロストに臣従ってどういうこと?」


「あれ、師匠は言ってないの?」


「師匠ってバナナおじ様?」


「バナナおじ様? ……あぁ、そうそう。白っぽいバナナみたいな髪型のね。……サーシャは随分気に入られたんだな」


「ムニン───さん、にはなんも訊いてへんけど。なんか重大な知らせでもあるんか?」


そう尋ねたら、彼はなんでもないように朗らかに笑って言った。


「ああ。俺、公爵辞めたんだ」


へー……公爵って辞められるもんなんや、初めて知った。




高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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