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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
3章アールヴヘイム編

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ナニワの令嬢は手紙を受け取る前に、質問をするようです。

作戦室に現れたアリステアは、木目をなぞるように部屋を歩き、両開きの窓際に腰を掛けた。窓の蝶番を指でなぞりながら外の景色を、兄さんらしからぬ、心底呆れているような冷めた目で眺めてる。


兄さんには悪いけど、兄さんにとって単純な問題でも、私にとっては重大な問題。簡単に決められることやなかった。


私が考えている間、室内にいるエルフたちは全員彼の使用人たちによって外へ追い出され、残されたのは私と兄さんだけになってしまった。普段は騒がしい部屋が静寂に包まれていて、なんだかとても違和感があった。


「兄さん、二つか三つ、質問よろしいか?」


「僕が答えられることなら」


これまでの話をまとめると、フロストは私がここにいることを知っている。そして、『バランス』がいい今の内に、手を退けと言ってきた。バランスがいいというのは、エルフが負けている状況という意味と考えるのが妥当やろう。


このまま講和すれば、エルフに不利な条約を結ぶことになる。けどそれは獣人の国(ヴァナヘイム)と、エルフの問題なはず。フロストにはなんも関係ないやろう。……いや、というかむしろエルフが負けることは、彼にとっても痛手なんやないやろうか。


ここにはムニン──フロストの師匠がエルフに教鞭を振るってる。エルフの戦士たちがこのまま戦って負けたとなれば、ムニンさんの仕事は、評判が悪くなるやろう。ヨトゥンヘイム軍を思うなら、エルフたちには勝ってもらう必要があるんちゃうか。


けど、フロストはこの戦いに介入するなと私に忠告してきた。


「フロストはヴァナヘイムの味方をするってこと?」


「あの方はこの件に関しては調停者だ。どちらの味方でもある」


そう言う兄さんは、フロストの味方やと言った。これはとても変な話や。アリステアの武器に、ムニンさんの軍事指導、どう見たって二人はエルフ側に味方してる。かと思えば、二人してエルフの国は関与するなって言う。


兄さんに限ってみれば、貨幣の流通やって部下の人達がしてくれてるおかげで、エルフは国としての基盤を手に入れつつあるのに、やってることが矛盾しているようにみえた。

私の介入もなしに、利益を独占しているようにも見えへんし……意味がわからん。


フロストはヴァナヘイムから食料調達してたし、頭が上がらんとかか? なんかキャスパリーグ王に言われたとかやろうか。……いや、それでもどっちの味方でもあるって言ってる以上、どっちかに肩入れするのは不自然やんな。


───というか、調停者ってことは、彼はこの戦争を終わらせる方法を知ってるってことか? そう考えた時、私の思考に電流が走った。兄さんは確かにエルフたちが負けろとは、言ってへん。むしろ、バランスがいいとまで言った。


彼らはバランスを保つために、武器や指導をしていた……? 戦況でいえば、六対四でこちらがフリを背負った状態。その状態に持っていくために、あるいはその状況になるまでフロストが待っていたとしたら……?


「フロストって……このタイミングで戦争を止めるのがイイって思ってる?」


そう言った途端、兄さんは私の顔をジッと見て、噛み締めるように、慎重に頷いた。


「兄さんが見た未来で、この未来が一番?」


「……それは間違いない。まさか僕を信じるのか? お前なら、あの人を先に信じるかと思ったけど」


「フロストのことは信じてる。けど、何を考えてるかは分からん。善悪の基準すらわからへん。せやけど……クズの悪魔は、そのクズさにおいて信頼できる」


「おいおい、誠実な天使の間違いだろ。兄をなんだと思っているんだ」


天使が武器商人であってたまるか。私はその言葉を呑み込んで、話を続けた。


「その自意識に関しては後日議題にあげるとして、兄さんの、その悪魔的な思考は読める。兄さんは金にならんことはせえへん」


「もちろん。これは世界にとって利益のある話だ」


「問題はそれで誰が不幸になるかの話。兄さんの予想では、この選択で一体誰が不幸になる?」


「手紙を受け取る場合かな? だとしたら、不幸になるのは……お前とフロストさん、ヴィーダル君に、キャスパリーグ王、あとニマーヌ様かな」


「受け取らない場合は?」


兄さんは沈黙した。そんな選択肢は用意していない、といった様子で。揃いも揃って不幸になると言われた悪魔の手紙を、どうやら私は受け取らなければならないらしい。


「なんで、わざわざ私に手紙なんて寄越したん。無駄な抵抗は止めろってこと? それとも、ちゃんと全員が納得できる結果なん?」


そう訊いたら、兄さんは薄く口角を歪め(わら)った。


「つまらんジョークだな。戦争を始めたのに、全員が納得できる結果を求めるなんて馬鹿げている。止めなかったお前も同罪だよ。サーシャ」


「なんや、兄さんは武器売っといて聖人面する気かいな」


そう訊いたら、兄さんは鼻を鳴らして肩をすくめた。兄さんが黒幕やないらしいけど、私からみたら兄さんは諸悪の根源にしか見えへん。


「ていうか、フロストを巻き込んでるのが信じられへんわ。あの人ミズガルズで、戦後処理の真っ最中やろ? なんでそんな忙しい人に手紙書かせてるん?」


「僕が聞きたい」


「え?」


兄さんは沸々とした感情を吐き捨てた。


「僕が聞きたい! ……僕だって本当はこんなクソみたいな役割は引き受けたくはなかった。オマエの前にももうしばらく、姿を現さない予定だったのに……本当に最悪だよ」


「……もしかして兄さん、あんたホンマはここに来る予定なかったん?」


「当たり前だ。なぜ僕がオマエに手紙を渡すごときで、こんな場所に来なくちゃならないんだ。僕は世界一忙しい商人だぞ。妹は手紙を受取るか吟味するし、懇切丁寧に説明してやっても、まだ疑ってやがるし。とっとと手紙を読んで、僕をこのクソみたいな茶番から解放してくれないかな」


いきなりなんかキレ始めた兄さん。どういうことや? 茶番って……?


「てっきり兄さんが全て今回の件も裏で糸を引いてるとかそういう……」


「事態はそう楽観的じゃない。僕もこのクソみたいな茶番に巻き込まれた側だ。それも最悪な事にこんな手紙の一つに、世界の命運がかかっているときた。ったく……もう、いいから受け取れよ。そんでエルフから手を退け。以上。もうオマエとは話すことはない」


そう言って兄さんは、握りしめた手紙を押し付けてくる。勢いに任せて受け取ってしまった私は、どうせ手紙の内容に納得いかなかったら、速攻で手紙を破り捨てて、エルフたちと戦おうと思って、手紙の中を確認した。中には一枚のカードが入っていた。内容はというと。


『外を見て』 


そんだけ。私は舌打ちする兄さんが座る、窓際に体を寄せて、二階の窓から外を見た。

───そこには。


「フロスト⁉」


太陽の下で、炎天下の中ジッと待っていたフロストと、彼の配下500人と目があった。彼は私と目が合うと、軽く手をあげ、それに合わせて軍の全員が、待ってましたとばかりに、私を見て敬礼をした。


「早く行った方がいい。戦後処理の真っ只中で、忙しいのに来て下さったぞ。……ハァ」


兄さんはクソデカい溜息をついて窓枠から降りると、作戦室から出て行くように、シッシッ、と手で私を追い払った。




歩く国際問題、到着。

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