運命の選択───フロストからの手紙
二週間後、いつの間にか私たちが住むゲリラの基地に兄さんは姿を現した。
「やあ。サーシャ、元気そうだね。人質ライフは順調かい?」
「くたばれクソ兄貴。ていうか、何処おったん。またフラッと消えたから、今度こそ暗殺でもされたかと思ったわ」
「まあ少しな。……今回はとても重要な交渉にきた。あちらも一段落ついたのでね、こっちの面倒を見に来てやったというわけだ」
「あっちって、どこの話や?」
「ん? ……んー、まだこの情報の開示は時期早々と判断している。ここではまだ儲けたいのでね」
「重要な交渉って?」
「その前に一通、サーシャ宛に手紙をもらってきた。誰からの手紙だと思う?」
微笑う兄さんが手に持つ手紙を、訝し気に見ると、その蝋封はまさかの。
「ヨトゥンヘイム領の蠟封……フロストから⁉」
紛れもない、ミズガルズを倒したと噂の婚約者からの手紙やった。
「どうする? 条件付きで、この手紙を渡してもいい」
「なんや条件って」
金とか言ってきたらぶっ飛ばそうと、握りこぶしを握った。
「この新しくできる国を手放せ。これ以上この戦いに介入するな。以上だ」
唐突に兄さんから突き付けられた条件に、思わず眉を顰めてしまう。
「……ヴァナヘイムがエルフたちを滅ぼすの、黙って見てろって?」
「これはフロストさんからの条件だ。僕が出したわけじゃない」
「フロストが……⁉ あの人、私が捕まってること知ってるんか⁉」
「ああ。もちろんあの人は全部知っている。だから、言っているんだ。手を退けと。あの人にとって、このバランスが一番丁度いいんだろう」
「バランス……ってどういうことや」
「それはこの手紙の中に書いてある。どうする? 従うか? それとも、このままヴィーダルと一緒にエルフの国をさらに強くするか?」
「彼の命は保証されとるんか?」
そういうと、一瞬兄さんの貌が青くなったけど、すぐに戻って、話が続いた。
「戦争を起こした大罪人は処刑がセオリーだ。……だが、あの人はお優しい。最大限の配慮をしていらっしゃる。どうする? フロストさんを信じるか、信じないか。何も後ろ暗いことがなければ、信じられるはずだ? そうだろ?」
今までにないぐらい兄さんがそわそわしている。何かを恐れているような、落ち着かない様子や。
「兄さんは結局誰の味方なん? 戦争の火種ばっかり、色んなところに撒いて……ほんま、悪魔やろ」
「何か勘違いしているみたいだが、僕は僕だ。誰の味方でもない。ヴィーダルを唆したのは、僕じゃない」
「えっ⁉ ……兄さんやないとしたら一体誰がこんなこと……」」
「そんなことはどうでもいい。今回ばかりは少し事態が急を要するのでね。あの人の味方、という括りで見てもらっても構わないよ。僕からはこれぐらいしか言えない」
やはり何かを焦っている兄さん。かつてこれほどまで、私の返答に神経を張りつめている彼を見たことがない。いつもは冷静な兄さんが、今日に限っては心臓の音が常に聞こえているぐらい、落ち着きがなかった。
「なんかヤバい未来でも見えてんの?」
「……もちろんさ。世界が混沌になるかどうかは、サーシャ、お前に掛かっていると言っても過言じゃない。純粋な気持ちで答えて欲しいんだ。フロストさんを信じられるか? どうなんだ?」
片手には手紙、もう片方には何も握られていない。普通に手紙を選ぶつもりやけど、兄さんがこれだけ焦ると言うことは、この選択が後に未来を大きく変えるということ。少し状況を推理する必要があるように思えた。
「フロストのことは信じてる。けど、タイミングが下賤わ。どうしてこんなヴィーダルたちが負けそうな時に、わざわざフロストが私に見捨てるように言うんや。おかしいやろ」
私がヴィーダルと口にする度に、首が締まるように苦悶の表情を浮かべる兄さん。私とヴィーダルに何か関係があることなんか?
「……とにかくちゃんと考えさせて。フロストが間違ってる可能性やってあるし。それなら、その手紙は受け取れへん。私だって見たいけど、どんだけクズの集まりでも、エルフとは妙な縁が出来てしまってるし。見殺しにするのは寝覚めが悪い」
「……そうか。じゃあ、少しだけ時間をやる。今、ここで考えてくれ。場所を変えることも許さない」
「変な兄さんやな……しゃあない、ここで状況整理するか……」
高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。
ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




