終わりなき戦争を願うエルフ───ナニワの令嬢はヴィーダルの目的を探るようです。
「なんも妥協点を決めてないって、アンタ戦争終わらせるつもりないんか?」
それにヴィーダルは少し考えたような素振りを見せて、
「それも悪くありませんね。……できれば、永遠に戦争が続けばいいのに」
と、意味不明なことを言う。そのくせ彼の言葉に嘘偽りがあるようには見えんかった。そのせいで、全身が寒気だつような感覚に襲われる。普段はなんでも親身に相談に乗ってくれる彼が隠していた心の闇が、一体どこに向かえっているのか、ドキドキする。
「ふざけたこと言ってへんで、ちゃんと妥協点探しときや。こればっかりは私も助言は難しいからな。この国をどうしたいんか、決めるのはアンタ達や」
私はそう言い残して、屋上を去った。すこし緩んでしまう、口元を隠しながら。
◇
その晩、海辺のエルフたちによって用意された共有浴場で、私は汗を流していた。南国の花びらが湯船にはプカプカ浮かんでいる、良い匂いのするお風呂には、私の他にミヤハがお湯につかり、薄くオレンジがかった湯を掬い上げては、顔にかけている。
ヴァナヘイムのお風呂は基本バスタブがベースだったせいか、初めは木製浴槽が珍しくて、入る度に興奮しとったけど。一ヵ月も入ってたら慣れたもんで、キャーキャー言うものでもなくなっていた。
「なぁ、ミヤハ。戦争を続ける理由って何があるとおもう?」
「私怨じゃないです?」
屋上で見たヴィーダルの表情は、そんな義憤に駆られたものじゃなかったように思える。もっと利己的な、彼自身の目的でこの戦争を扇動しているようにみえた。
「……」
「あるいは、ヴィーダルは時間稼ぎがしたいのかもしれませんよ」
「時間稼ぎ……戦争を継続することでメリットがある人がおるってこと?」
「例えば、サーシャ様とか。アリステア様とか。商人の方々はこの戦争で、利益を出していらっしゃいますよね。サーシャ様は船の発注を軍用船の買い取りで安く纏められました。アリステア様は言わずもがな、エルフの資金源となるプラチナをドワーフの国へ売り、武器をエルフたちに売っておられます。商人である以上、この戦争に一枚噛めている時点で、儲けは出ているのではないでしょうか」
「私ら兄妹のためにヴィーダルが戦争しとるって?」
「……言葉が過ぎましたね。ですが、これまで海辺のエルフだとか、内陸のエルフだとかで、もめていたところが、共通のヴァナヘイムという敵が出来たことで、まとまっているように見えるのは私だけでしょうか」
「……エルフをまとめるためにヴィーダルは再び戦争起こしたっちゅう線な。確かにそういうこともできるかも知れんけど、ヴィーダルが自分の命をベットしてまで、することなんかな」
「傍から見れば、人望激アツイケメン文武両道エルフですからね、彼。しかも村長の息子で、女王様とは幼馴染とか」
「なんやその人望熱いとか謎の情報……初耳過ぎる」
私のメイドって実は、私よりも世間に詳しいのかもしれん。
「彼は気が利きますし、普段一緒にサーシャ様の周囲で仕事をする仕事仲間として見れば、とても優秀な方ですよ。他の使用人からも軒並み彼を嫌う声を聞いたことがありません。信頼が集まる方のも当然かと。人間の言葉も普通に話されますし」
「……あの子ってポンコツやないの?」
私のイメージでは、馬鹿真面目で何やっても空回りしてるポンのコツ君、嘘だけは見破れる不思議能力持ち、みたいな印象やけど……。
「いえ、むしろ全てを高水準に行える方ですよ。少し厳しいという声もありますが、それも一部だけですから。サーシャ様より人気です」
「それは嘘やろ」
「いえ、ヴィーダルは誰にでも分かりやすい言葉で話されますが、サーシャ様の言葉はほとんどの人に響いていません」
「えぇ⁉ アンタも私の言うてること響いてへんのか?」
「いいえ。私は理解できます。しかしサーシャ様の言葉はどれも新しい概念ばかりで、ついて行くのがやっとという人もまた多いことは確かです。チョウベーさんや、私のような、ある程度の教養がなければ、そもそもサーシャ様と会話できないのが現状です」
「そんなことないと思うけどな……私は、皆に分かるように話すのが仕事みたいなところあるし。話が難しいっていうのは、アリステア兄さんみたいな人のことを言うんやろ」
「あの方は、専門的過ぎるので、一般人と会話するようにそもそも出来ていないでしょう。サーシャ様もそちらに片足を突っ込んでいるという感じです」
「……絶対に認めたくない話やな。となるとヴィーダルはあれか? その人望を遺憾なく発揮するために戦争中と考えることもできるわけか」
「あとあるいは…………いえ、流石にこれはないですね」
「なんや。すごい下らんこと?」
「ええそうです」
「教えて」
「ヴィーダルはサーシャ様とずっと一緒にいたいから戦争を始めたんですよ」
「……は?……なワケないやろ。そんな理由で戦争始める馬鹿がおるか。人が死んでるんやぞ」
私は一気に興が冷めて、浴槽から上がった。そんな下らん理由で、人が死んでたまるか。もしもほんまにそんなしょうもない理由やったら、あいつのことを本気で軽蔑するわ。
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