傍若無人の人質───ナニワの令嬢は囚われの姫に不向きなようです。
私がヴィーダルに捕まってから、なんやかんやで三日が経過した。
ムニンとかいうおじ様は、あれ以来見てないし、ヴィーダルも何やら忙しそうにしとる。
戦況は極めて良好、まだお互いににらみ合いが続いているような状況やった。本格的な戦いは一ヵ月もかからんくらいで開戦するというのが、ヴィーダルの予想で、その下調べが功を奏したのか、エルフたちには潤沢な準備時間が設けられていた。
私はというと贅沢三昧というか、欲しいものはとりあえずなんでも手に入る状況にあった。肉が食べたいと言えば、昼食に肉が出て、指を鳴らせば紅茶が届く。邸と遜色ない生活が約束されていた。
もちろん、その肉や紅茶は全てエルフたちが私のために調達してきてくれたもの。ゲリラ活動に参加していない、行商や村の人たちが用意しているようやった。
そうして働かなくとも、エルフたちが私に貢いでくれるという素晴らしい状況だと、当然私のエネルギーは行き場を失う。
普段働いていた分、暇を与えられると何をしたらいいか、サッパリ分からんかった。
「仕事を寄越せ~!」
そんなことを言いながら、作戦室に押し入ったのが昨日のこと。驚く強面のエルフたちを尻目に、私は彼らエルフ軍の帳簿を確認して、もっと金が稼げるように調整することにした。
エルフたちは困ってたけど、私はここでは神にも等しい存在。何をやっても許される。目についた無駄を整理して、なぜこの無駄があるのかを詳しく調べながら、業務改善命令を下した。エルフたちはとても面倒臭そうに私を見ていたけど、私を怒るのは筋違いや。
怒るならこんな好き勝手をしても何も言わん、ヴィーダルを怒ればいい。そう言ったら、エルフたちは不承不承といった感じで頷いてくれた。
あと、ウチのパイプを使って、造船業を営むミズガルズのギルドと掛け合うため、手紙を出した。元々ヴァナヘイムでやる予定やったけど、コチラにもエルフが普段使っている小さな港があるから、それを改造して作らせるんや。
何といっても、今の私はエルフという人的資源が無限の状態。最強の状態で、船を量産することが出来る。これを使わん手はないやろう。
そうやって好き勝手に命令していたら、血相を変えたヴィーダルが、作戦室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
「姉様……! 勝手なことをされては困ります!」
「なんやヴィーダル、船は国防にも使えるやろ。陸地が無理やと思ったら、絶対に海から攻めてくるで。船は絶対にいるやろ」
私はそういうと、作戦室のエルフたちの数人は顎に手を当てて頷いている。
「なるほど……ではなくて。勝手に動かれるのが問題というか……」
「んで。戦争に使わんくなったら、全部私が買い取るから! 三方ヨシや!」
そういうと作戦室からは小さな拍手が上がった。それにヴィーダルは冷たい視線を向けると、すぐにその拍手は止んでしまう。ヴィーダルは額に手を当て、深く長い溜息をついた。
「やっぱりそれが狙いでしたか……姉様、ほとんどのことは怒りません。ですが、一応貴女は人質なのです。捕まっているという自覚をもって、何かあれば私を通して下さい」
「でも、前と違ってアンタがずっと傍におるわけやないやろ? 誰かを頼るってのは、悪いことやないんやで?」
「しかし普通は人質に仕事をさせたりはしません。姉様、なのでどうか、もう少しゆっくりしていてください」
「チェッ……ほなら、これ、コストカット案や」
私が投げるように差し出した紙束を、ヴィーダルは反射的に受け取り、内容にざっと目を通す。その顔から、みるみる血の気が引いていった。
「なっ! これは幹部しか知らない裏帳簿のデータまで……! こんなもの一体どこで⁉」
「作戦本部の人達から、貰ったやつのこと?」
ヴィーダルは額を叩き、同じ部屋の中にいるエルフの文官たちを睥睨する。『この馬鹿野郎ども』という、心の声が聞こえてくるみたいやった。
「……姉様、私は頑張って働く姉様が大好きです」
「うん、私もヴィーダル好きやで」
そういうと、ヴィーダルは胸を抑えて、なんか大袈裟に苦しみ始めた。おもろ。
「ウぐっ……あ、姉様、まだ捕まって三日です。ちょっと自由に動き回り過ぎです。我々の士気にも関わります」
「(えっ。でもみんな喜んでたで? 金貨三千枚浮いたって)」
主に資材の輸送費から兵士の教育費、食費に至るまで徹底的な見直しを、視察を半日、資料作成に半日を使って終わらせた。久しぶりに動いたから、ええ運動になったわ。
「(……優秀なのは、姉様の悪いところです)」
私を褒めるなんて百年早いと思ったけど、若干皮肉も込められてるのが分かって、ちょっとふてくされてみる。
「(えぇー……じゃあ、仕事ちょうだい? 仕事くれたら、大人しくする。仕事くれへんかったら勝手に取ってくるで)」
「(はい? 謎の脅しは止めて下さい。あと、私たちの国を姉様はどうするつもりなんですか、姉様は)」
「(えっ、ヴァナヘイムぐらい超でっかいエルフの大国にする。そしたら、私の仕事にも役立つかも知れんし)」
そういうと、作戦室が沸いた。そうそう、一緒に働く人たちにはこれぐらい夢見せてあげへんと。独立だけやったら、物足りないぐらい貪欲に。たとえ泡沫の夢でもな。
「(……まだ独立も終わってないのに)」
「リアリストやなぁ。けど、終わってからじゃ遅いで? 暴力という通貨を獲得しながら、他の資産も増やすため、もっと金を増やすんや。今は共通の敵がおるからエルフも団結しとる。けど、戦争が終わったらこうも団結は長くは続かん。この機に乗じて、総動員体制で生産するんや。儲かるやろうなぁ~……」
「姉様は我々の聖戦を金儲けに利用しようとしているのですか?」
「順序が逆やろ。私が稼いだら、その分、戦争が有利になるやん。金は要らんのか?」
私はあくまでも拉致された人質で、エルフにやらされてる体やし。手伝う上で、なんにもリスクはない。しかも買ったら、エルフの国に大きな恩が売れる。ヴィーダルがせっかく腹くくって、命がけのプレゼントを私にしてくれたんや。有効活用せな、彼に悪い。
「いえ、あの……大変心強い限りなのですが……、大人しくしておいて欲しいです。これはあくまで我々の戦い、我々の闘争なので」
「(いやや。私はヴィーダルに勝ってほしいもん)」
後味が悪い結果にはなって欲しくない。他のエルフと違って、ヴィーダルが頭目なら、負けたら首つり確定コースやし。弟分が首つりしてるところは見たくない。そのためには勝ってもらう必要がある。
「(レッツ富国強兵や!)」
そんなスローガンを勝手に掲げる私に、ヴィーダルは深く長い息を吐き出すと、諦めたように私の頭に軽くチョップを落とし、逃げるようにどっかへ行ってもうた。
よし、それでは沈黙は肯定とみなして、エルフたちを沢山働かせよう。働かなかったら今度こそエルフたちは奴隷ルート確定やろうし、みんな死ぬ気で働いてくれるはずや。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




