白バナナのムニン───ナニワの令嬢は逮捕されて、連行されたようです。
黒い麻の袋を被せられて、私たちはヴィーダルの仲間たちに連れられ、謎の場所へ移動させられた。時間にして、ほんの三十分弱。斜面を下った回数と、曲がった回数から割り出して、ここは別のエルフが住む村であることが分かった。
「あッ、クワッ! ま、眩しっ……!」
覆面を取られ、強烈な日光が私の網膜をジワジワと焼く中、ぼやけた視界に映ったのは、武装した褐色のエルフたちと、その背後に寄せ集められたボウガンのボルトが入った樽。次いで、自分が座っている天鵞絨の絨毯やった。見渡す限りで私の部下はおらん。途中でどこかに連れていかれたらしい。
「(ようこそ。アレクサンドル・バイカル令嬢。間もなく頭目が来られる、少し待たれよ)」
「(……しばらくご厄介になりますわ)」
グルッと見渡したけど、ここはどこかの森の広場のような場所みたいや。切り倒された切り株を見るに、ここはエルフたちの伐採場か、それに準ずる施設か……。
───私は砂地に敷かれた絨毯の上に座らされて、目の前の武器箱に座るエルフたちに眼をやった。
彼らはこのクソ暑いのにアンバー色の長袖長ズボン、俗にいう戦闘服を着とる。服も乱れてないのを見ると、随分ルールが厳格に定められてるらしい。統率が取れているジャングルゲリラ───言葉にすれば恐ろしい戦士たちは、誰かを待つように箱の上で膝頭を指で叩いとった。
やがて数分もしないうちにやってきたのは、頭目としてのヴィーダルと……謎の白髪のおじ様がやってきた。ヴィーダルはエルフの伝統っぽい軍服に着替え、雰囲気がまた少し変わって見えた。若干清々したような面持ちの彼は、もはや何かに悩む青年ではなさそう。
あと、ヴィーダルと一緒にきたおじ様はなんか、同じ人間のおじ様やった。
おじ様は白髪のツーブロックで、トップにボリュームがある感じの髪型で、前から見たら白いバナナを頭に乗っけてるみたいでおもろい。顔は中性的で、シャープな輪郭、フロストまでとはいかんけど、このおじ様も整った顔立ちをしていらっしゃった。
そんなダンディーなおじ様は、一目で変人と分かる、この辺りでは見ない白のスーツに黒シャツ、足元はテラテラ光る革靴を履いている。
「(ヴィーダル君、私の方から先にご令嬢にご挨拶してもいいだろうか。彼女にはいつか一度、何処かでご挨拶がしたいと考えていたのだよ)」
ぺらぺらと巧みにエルフ語を話すおじ様は、フランクに両手を広げて、何も携帯していないことをヴィーダルたちにアピールする。仲間ではないのか、ヴィーダルは部下に身体検査をさせて、それから部下が頷くと、ヴィーダルは彼を睨んだ。
「(……ムニン、姉様の半径三メートル以上には近づくな。不審な動きをすれば即、射殺する)」
私の聞いたことがないような別人の声音で、ヴィーダルはボウガンを握る手に力を籠める。そんな彼の姿はとても迫力があって、彼の成長にちょっと感動してしまう自分がどこかにいた。
頑張ってみんなの前で威勢を張る彼の姿は、成長した弟の晴れ舞台をみる姉のような心持ちになる。一方ムニンと呼ばれたおじ様は、そんなヴィーダルを、シニカルで冷笑気味な視線で対応した。健康的な薄い唇に微笑を浮かべ、片方の眉と口角を同時にあげて、小首を傾げたりなんかしている。
「(威嚇せずとも、私は彼女に危害を加えたりはしない。私はただ、彼女に感謝を伝えるだけさ。彼女は我が主の婚約者様であり、こうして私を解き放ってくれた大恩人でもある。君が知らないのも仕方のないことだが……こちらにもこちらの理由があるのだよ)」
低くしゃがれた、唸るような声で、ムニンは自身の目的が私に感謝を伝えることやと言った。けれども、私はこの人のことを知らん。特徴的な白バナナやし、出会ってたら絶対憶えてるとおもうけど……。もしかして、主の婚約者とか言ってるし、フロストの身内か……?
「ん~聡明なレディ・バイカルよ。今の会話から私が誰の僕か分かったようだ、素晴らしい。そう、私はフロストの部下だ。よろしく頼む」
人間の言葉でムニンはそう言うと、恭しく私に頭を下げた。距離も綺麗に三メートル離れた場所から。個性的なおじ様ではあるけれども、律儀な人でもあるらしい。
「初めまして、ムニン様。私がアレクサンドル・バイカルや。私の部下は皆無事か?」
「自分の心配より、他者の心配とは。面白い。無論、メイドや使用人に関しては問題ない。ケガ一つないと保証しよう。だが君の護衛、我々の軍から出した選りすぐりであった精鋭たちについては……少し喝を入れ直している」
「なんやと……⁉ 無事なんやろうな!」
「我々に捕まるようでは、護衛の意味が、まるで、ない。……だろう? 閣下の名代として、貴女様をお守りしているのだ。捕まってしまったでは、済まされない。それも話を聴けば、二回も。あの役立たずどもめ。そう上官が思うのも、仕方のないことだとは思わないかね?」
「アンタが……あの子らの上官?」
「そうだ。あ、いや、厳密に言えば違うが……、彼らの上官のそのまた上官……のさらにそれらをまとめる上官とでも、思っていてくれたまえ。見て分かるか分からないが、一応見せておくぞ?」
ムニンはスーツの中から階級章を取り出す。そこには、総大将であるフロストに仕える、幹部の証明である、騎士団長の証が鈍い光沢を放っていた。
「騎士団長の証……それ、四人しか持ってへんはずやけど。アンタがその一人やっていうん?」
「おぉ。知っていたか。結構」
「けど、私にその証が本物か証明できるか?」
「……する必要もないんだが、まぁ、良いんだろう。邸の設備で、我らヨトゥンヘイム軍が世界一を誇れるのはどこか。それはサウナだ。このクソ暑い場所で話すのも憚れるが、我々はサウナが大好きだ。フロストも当然、生粋のサウナーだ。そこに入ってアツアツの状態で、外へ飛び出し、雪にダイブする。これが我々の伝統だ。そうだろう? バイカル子爵令嬢」
「……本物や⁉ えっ、なんでヨトゥンヘイム軍がココにおるん⁉」
「なんだその反応は。私が細いから、軍人ではないと思ったのか? ……まったく。ヨトゥンヘイム軍とは言っても、私の基本業務は教鞭を振るうことにあるからな。華奢なのは、仕事に筋肉を使わないからだ。この説明でご理解いただけたかな?」
「教鞭を振るってどういう……」
「ダァー、もう、質問攻めは勘弁してくれ。きみは私の生徒ではないだろう。それにこのクソ暑い炎天下の中、長話もしたくはない。好奇心旺盛も結構だが、今は状況をしっかりと呑み込んで、彼らに従うんだ。分かったか?」
ムニンはそう言って、ヴィーダルたちを手で示した。ジリジリと太陽に焼かれながら、私たちの会話を聴いていた彼らは、ようやく自分たちの番が来たかと、ムニンを追い払った。
「話が聞きたければ、私に会いに来るといい。閣下の婚約者だ、丁重に持て成してやろう」
そう言い残し、ムニンは去って行った。結局私にどんな恩義があるのかも、さっぱり分からんかったけど。あの人も一応味方?らしい。
……やっぱりフロストの周りって、ちょっとクセのある人が集まるみたいやわ。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




