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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アールヴヘイム編

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闇の中で───血迷った決断


「心残り……」


口に出すことでハッキリすることで、ヴィーダルは、今日これまで自分が抑え込んできたものが何だったのかを、改めて把握する。


エルフ全体のためではなく、彼だけの目的、その在り処に。そして理解する。とうの昔にヴィーダルは、ニマーヌの間諜としてではなく、自分自身のために工作を続けていたのだと。


「内省的なのは結構でありんすが、そろそろ決めて欲しい頃合いでありんすね」


下からの翠光に浮かぶ彼女の冷たい微笑に、ヴィーダルは燦然と瞬く星空を見上げ、白い吐息を漏らした。


「私の判断で多くのエルフが死ぬ。そして私は、その代償を支払うことになろうだろう」


今この時こそ、数々の謀略の中でヴィーダルが掴んだ千載一遇の機会だった。

盤上にある数多の大駒を操り、彼はニマーヌをアールヴヘイムに取り返すことが叶った。この機を逃せば、エルフは今後一生ヴァナヘイムに従属し続けることが確定するだろう。


サーシャのためを思うのであれば、このまま何事もなく、彼女を返還するだけでいい。

だが、仮にヴィーダルがサーシャを力づくで自分のものにしようとすれば、話は変わってくる。新たな軍事クーデターを起こし、新たな戦いが始まることとなる。フロストとも敵対し、世界を巻き込む大戦争をエルフ主導によって巻き起こることになるだろう。


そのための火種は既に、ヴィーダルの手の中にある。ニマーヌ様を奪還したことが分かれば、エルフは一斉蜂起する。あとは扇動し、工作し、また秘密裡に操ってしまえばいいのだ。世界の未来は彼の手に握られていた。


「私の勝手で姉様を困らせてはならない。彼女は人間の国へ帰るべ───」


「───ホホホッ。何処までも愚かな男でありんすな、ヴィーダル」


ニマーヌは星を見上げるヴィーダルの眼を両手で塞いだ。


「そんなにも都合よくその衝動が抑えられるなら、何か月も悩んだのかえ?一度諦めてしまえば、それは呪いに変わる。お前さんが妾をあの猫王に差し出した時のようにね」


「……」


「むしろ良かったでありんすな。古い恋を忘れ、新たな恋のために頑張る動機もできた。あとは決意を固めるだけではありせんか」


「お前は喜ぶのか。ニマーヌ」


震える声に、小さく笑い声をあげるニマーヌの貌には、元婚約者にかける優しさなど欠片もなく、むしろ自分を王に差し出した男がどんな末路を辿るのか、楽しむ妖婦のように無邪気に喜悦で歪んでいた。


「それは喜ぶに決まっているでありんしょう。乙女はいつだって恋の末路が気になるものでありんす。かつて恋人を奪われた貴方が、今度は誰かの恋人を奪う。そんな瞬間を、私は心待ちにしていたのですよ」


遠慮なくそう言い放ったニマーヌに、ヴィーダルは持前の作り笑いも機能しない。


「私を恨むような女でないことは知っているが、さぞ今の状況は痛快なのだろうな」


「貴方が妾に下さった最初で最後のプレゼント、というには些か趣味が悪いでありんすね」


そのとき、闇の中から別のエルフが姿を現した。黒いフェイスベールの奥に覗く瞳がヴィーダルを静かに呼ぶ。彼は用件を察しているのか、ニマーヌをその場に座らせたまま、その場を少し離れ、海辺のエルフからの話に数回頷くと、すぐに別れを告げて、ニマーヌの下へ帰ってきた。


「今の方は?」


「私の協力者だ。主に他の村への連絡係として動いてもらっている」


深刻そうな顔をしているヴィーダルに、ニマーヌは子首を傾げた。


「何か訃報でもありんしたか?」


「まあ……そんなところかな」


そこまで言って、ヴィーダルは続きの言葉を紡ぐべきかどうか一瞬考え、結局、彼女に伝えることにした。


「ニマーヌがアールヴヘイムに帰還した後で、もしやと思い、他の村が気になり間者を使った。おかげで、アリステア傘下の商人が海辺のエルフから伝手を辿って、武器の売り込みに来ていることに気が付けた」


「アリステア傘下の商人が……?」


キャスパリーグ王の傍に仕える商人のアリステアが、燻ぶる火種に武器を撒こうとしている。彼の圧倒的な諜報能力による値千金の情報だった。


「彼は武器商人だ。内戦が終結した国に彼の求める需要はない。姉様の兄だ、需要がなければ作りだすぐらいはすると考えた」


「その商人はどうしたのでありんすか?」


ニマーヌの瞳が、彼に最終審判を下そうとしていた。


「───特に何も」


ヴィーダルの言葉が意味するところをニマーヌが飲み込むまでに、刹那の時が流れた。

それからニマーヌは扇を使わずに、口角を吊り上げて───


「あらヴィーダル───貴方、とても素敵な殿方になられたようでありんすね」


薄く笑みを零した。


王を狙う組織に武器を流す商人、それを見逃すと言うことは、戦いを起こそうとする意志なくしてはありえない。ヴィーダルはニマーヌに内省的な打ち明けをするその一方で、火種を燃やす準備だけは着実に進めていたのである。ただそこに、彼がこれまで積み上げてきた彼女への献身が彼の覚悟を鈍らせていただけだったのだ。


「私は姉様に嫌われるだろう。だが結局のところ───ニマーヌ、おまえの言うとおり、なにもせぬまま諦めたのでは後悔が残る。……俺はもうこの方法以外にやり方が思いつかない」


裏切り、戦い、掠めとる。このようなことを謀る男が誰かのために愛を囁けるのかと、ヴィーダルは自嘲の笑いが零れた。




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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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