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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アールヴヘイム編

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闇の中で───エルフの会話

サーシャの視点では少し書き辛かった部分を補間する形で書きました。

普段の文体が好きな方は申し訳ありません。

少し暗く、硬めになっております。

商談を終え、商人たちが寝静まった後のアールヴヘイムに、ヴィーダルは単身で姿を現した。

先にサーシャが語った通り、今のヴィーダルは、手紙を受け取った後に潜伏を続けていることになっている。取締役であったサーシャの捕縛によって、一時自体は混乱を極めたものの、現場の柔軟な対応によりその難を逃れることに成功した。

 とはいえ、危機的状況であったこともまた事実。仮に一つでも踏み外せば、地獄へ真っ逆さまの平均台を、易々と彼は歩き終えた。そんな裏の立役者は、静かに森のせせらぎに耳を貸し、心穏やかに暗闇の中、アールヴヘイムを闊歩する。


森の燐光は敵意を向ける相手に燐光を放つが、この時彼の周りにあった虫やキノコ、コケに至るまで一つとしてその淡い緑を見せることはない。森にとって彼は、全く警戒するに値しない“本物”の闇の住人であることを証明していた。


(やみ)を見据え、自分自身の心に聴き耳を立てる。

人生で初めての衝動、抗いがたい思い。今夜の彼は、ひときわ切実で逼迫していた。今夜ばかりは夜が明けるまでに、答えを出さなければいけないのだから。


───私は、姉様とどうありたいのか?


これまで姉様と慕ってきた彼女についた嘘が今までに二つ。看過できない問題として、とり残されていた。

ひとつ───検閲室(ブラック・チェンバー)で手紙を盗んできたとサーシャに報告した一件。あの手紙は間違いなくフロストのものだったが、正確には盗んだものではなかった。協力関係にあるその女を利用して、手紙を入手したものだということ。


当初の目的は、ヴァナヘイムからその女を外に出さないための、計略の一つとして、情報封鎖を敷いていたが、サーシャの精神面に情緒不安定な一面があると分かるや、彼は計画を一部修正し、サーシャに利を強調し誘導する形に切り替えた。その時は咄嗟の機転により、無事に彼女をアールヴヘイムまで誘導することに成功したが、ヴィーダルの最初の試練だったといえるだろう。


彼がサーシャからの手紙に秘められたギミックに気づけたのも、この一件の罪悪感が彼の中に記憶として鮮明に焼き付いていたからだった。


さらにもう一つの嘘は、アールヴヘイムでの一連の出来事についてだろう。サーシャがアールヴヘイムに行くことを決断するよりもずっと前、門番エルフが到着する前から計画は動き始めていた。


サーシャが事前に不満を貯めるように、王族などが利用する地下洞窟(ニブルヘル)を通過するルートを隠蔽し、徒歩のルートを選択させ、普段彼女が気にしていた天井の高さやベッドの質など、アールヴヘイムのエルフには事細かく指示を飛ばして、劣悪な環境をコーディネート。


最後にはサーシャが投獄されるであろう牢屋の全てにプラチナを埋めておくまで、彼の仕事は多岐にわたった。そして、あらゆる事態を想定した仕事は、緻密な話術と信頼によって、ここに完遂された。


フロスト・フォン・ヨトゥンヘイム───姿こそここにはないが、その圧倒的な存在感によって自らの計画の軸となった、サーシャの持つ暴力装置。彼の存在を最初は邪魔に思ったものの、今ではその存在の大きさにただ平伏するほかにない。


おそらく彼は、今日も世界が固唾をのむ中、敵を蹂躙し続けている。ただ立ち止まり、思い悩むヴィーダルを余所に、彼は着実にサーシャの求める存在へと至りつつあった。


かつて無秩序な暴力として世界に猛威を振るい続けた男が、この半年で人が変わったように政治に興味を持ち始めたのは、彼女がやってきてからのこと。彼女には人を変える力がある。


それに当てられたエルフの一人だと自覚はありつつも、その内側に何が変わったのかを把握することもなく、ヴィーダルはしばらくすればココを去ってしまうであろうサーシャを見送ろうとしている。


フロストともう一度出会ってしまったとき、彼女の視界にはもう彼しか映らないのではないか。それが彼女の幸福を最大に尊重するものなのか。そのようなことを不意に考えながら。


「……私は何を考えている」


つい、詮無い事を漏らす。かつて抱いた衝動と折り合いをつける時が近づいている予感がしている。彼女からの答えは既に得ている以上、ヴィーダルはあらぬ波風を立てる気にはなれなかった。


「姉様を困らせる必要はない」


去来するのは、彼女との四半期に及ぶ生活の記憶だ。彼女が何を好み、何を嫌うのか。それを一番に知るのは自分ではないのか。そこまで不毛な考えが脳裏を埋め尽くし、頭を振った。


『やめろ、いい加減に諦めろ』と、理性が警鐘を鳴らす。ただそれと同時に、これまでに感じたことのないこの衝動を捨ててしまうことに、躊躇いがあることもまた確かだった。


深い静寂を割くように、森をかき乱す気配を感じとった。平屋の村長宅から梯子を伝って降下してくる。ヴィーダルにとっては馴染み深い腐れ縁の気配であった。ただ黙って歩いているだけでも、王妃が泰然と放つ覇気は森を震わせる。足元から森の警戒反応と共に、夜の森を無遠慮に照らすエルフの光がヴィーダルの眼を細めさせる。民族衣装に身を包んだニマーヌは、物思いに沈むヴィーダルを一瞥して、隣を歩いた。


「(約束の件、見事に果たしてくれましたね。ヴィーダル)」


「(……誰が聞いているかも知れないというのに、よく平然と喋れるな。ニマーヌ)」


「(巡回の者がいないのは、ヒカリゴケを見ればわかりんしょう。闇に住む者達でもなければ、この森で闇に潜むことも困難でありんす)」


ヴィーダルは頷いた。正当な森の所有者であるヴィーダルの一族でなければ、この森は警戒して燐光を放つ。下が明るくなれば、木の上に住むエルフたちも気が付くというものだった。


「(中々に面白い道化でありんした。最後の最後まで姿を現さないとは。おかげでこちらも裏切られたのではと、ハラハラしんした)」


「(あれは姉様の意志を最後まで汲み取ってのこと。ニマーヌがこの地に戻ってこられた以上、私もここに留まる理由はなくなった)」


「(───せっかくの生家だというのに。寂しいでありんすね)」


憂い気なニマーヌの視線に、ヴィーダルは無言で返答する。このアールヴヘイムの本来の所有者はヴィーダルたち海辺の民だった。それが戦を経て、領地の変遷があり、現在のエルフの民が支配する土地となっていた。


懐かしの故郷に帰ってきたヴィーダルは、暗闇の中に座り込む。あとに続くニマーヌが座ると、辺り一面が鮮やかな緑に変わっていく。


「(心残りがあるから、ここにいるんしょう?)」


図星が少しこそばゆいヴィーダルは、近くに座ろうとするニマーヌを避けるように、座ったまま距離を取った。万人にその美しさを讃えられる彼女にとって、このような真似をする男は古今東西を探しても、彼以外に存在しない。


失礼だと思う以上に、興味をそそられる対象として、幼馴染は映っていた。彼女はヴィーダルが自分自身を律するその心さえ見通してしまっている。そしてその衝動が何であるかも同時に理解していた。





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ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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