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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
アールヴヘイム編

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ヴィーダルに届く手紙───彼は手紙の内容を疑うようです。

一方その頃、ヴィーダルは、黄金色から血のような赤へと染まりゆくヴァナヘイムの港にいた。


(……もうすぐだ。もうすぐ、あいつらに報いが降る)


潮風にエメラルドグリーンの髪をなびかせ、彼は出航を待つ大型船の甲板で、水平線の先を見据えていた。その手には、ミヤハから託された一通の書簡が握りしめられている。


それは、ヨトゥンヘイム公爵フロストに対し、『アールヴヘイムを地図から消去せよ』という、ミヤハ代理からの事実上の宣戦布告にして殲滅命令だった。


ヴィーダルの胸中には、複雑な感情が渦巻いていた。かつての同胞である内陸のエルフたち。彼らは、自分たちを「キャスパリーグ王に魂を売った裏切り者」と蔑み、あまつさえそこに救いの手を差し伸べてくれたサーシャまでも、汚い地下牢へと放り込んだ。


(許せるわけがない……絶対に、絶対にぶち殺してやる!)


昼間、街道を猛スピードで駆け抜けていったニマーヌ王妃とアリステアの黒い馬車を見かけた。カーテンの隙間から見えた、あの冷徹な策士たちの横顔。


「王族があれほど急ぐということは、姉様の身に、取り返しのつかないことが起きたに違いない」その確信が、彼を突き動かしていた。


(私は姉様の『盾』だったはず。だというのに姉様を守ることが出来なかった。これはその汚名返上のチャンスだ……せめて姉様の『猟犬』として、あの御方を呼び寄せなければ……私のプライドが私を決して許すことができない……!)


平穏を壊した内陸のエルフたちを思うと、拳から血が滴る。口に違和感を覚え吐き出すと、砕かれた奥歯の残骸が地面に転がった。


頬を擦りながら、その血が付着した自分の奥歯を見て、ヴィーダルは少し自分を客観視できるようになる。


(奥歯……どっちの歯だろう……)


「ヴィーダル様、間もなく出航です。船内へお入りください」


頬を擦っているとヴィーダルについてきた兵士の声が聞こえる。どうやら出航の準備は迅速に行われたようだった。そうして彼がタラップに足をかけた、その時。


「待てーーー! 待ってくれーーー!!」


背後から、一頭の馬が砂を跳ね上げてこちらへ突っ込んでくるのが見えた。馬に乗っているのは、サーシャと行動を共にしていたはずの護衛の男だ。


「ヴィーダル様! サーシャ様からの直筆の手紙……それに、命令の撤回書です!!」


「(……撤回書?)」


ヴィーダルは足を止め、眉をひそめた。 姉様は捕まっているはずだ。そんな状況で、なぜ都合よく撤回書など届くのか。


(……ニマーヌか。あるいは、内陸のエルフが時間を稼ぐために書かせた『罠』か。小賢しい。相手の意図を読むつもりでも、一度見る必要があるか)


彼は鋭い眼光で、差し出された封筒を睨みつけた。もし、この手紙に騙されて足を止めれば、姉様を救う唯一のチャンスを失うことになる。


「その手紙、自分で開けて見せろ」


(この男が金で裏切った人間の可能性がある。手紙を開けた瞬間に、毒が散布されていれば、この男が死ぬ……)


護衛の男は急いで蝋封を割って、中の手紙を開いてヴィーダルへ見せた。手紙に毒がついていないか、手紙に触れる男の指先を彼は確認する。爛れてはいない。何か塗られているようなテカリも確認できなかった。


「問題は……ないようだな」


(内容は……ふむ。『私は助かったので、応援は無用。早く帰ってこい、バカ(ワンコ)』……なるほど。実にあの人の特徴を捉えた素晴らしい手紙だ。だが筆跡模写もできるということを、私が忘れているとでも思ったのか?)


彼は検閲室で見た筆跡模写のされたフロストの手紙を思い出し、サーシャも同様に筆跡を真似られている可能性が高いと予想した。だが同時に、これが本物であった場合のことを考えた。


(だがもしも、これが万が一、億が一、本物であった場合……サーシャ様が筆跡模写という結論に至らないわけがない。私が思いつくことをあの人が思いつかないわけがないのだから。……ならばこの手紙、偽物かどうかを判断するための仕掛けが用意されているはず。それは一体なんだ……?)


そして彼はふと手紙で思い出す。かつて、ヴァナヘイムの郵便局でフロストからの手紙を奪取した際、サーシャが言い放った言葉を。


『手紙には、書き手の生活の匂いが宿るんや。天下のフロスト様の便箋が、無臭なわけないやろうが』


そんな言葉を思い出した彼は、まさか、という思いでその手紙に顔を押し当て、思い切り深呼吸した。


「スゥー……ハァー……」


その瞬間。


「────ッ!!」


ヴィーダルの全身に電流走る。

潮風の匂いを突き抜けて、彼の嗅覚を打ったのは───。

地下牢のアンモニア臭でも。

血と錆の戦場の臭いでもなかった。


いつも、自分を「よしよし」と撫でてくれる、あのエルフ顔負けに高慢な主人の袖口から漂う───華やかで、それでいて強かな「いつもの香水」の匂い。牢に閉じ込められていては、決して匂うことなどありえない。日常の匂いだった。


「サーシャ様!! ご無事だったのですね!!」


太陽に掲げた手紙を鼻に当てながら歓喜の涙を流すヴィーダル。

その光景を見た周囲の人々はそっと、彼から遠ざかるのだった。




高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。

ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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