ナニワの令嬢はプレハブ小屋で冷風大鞴の修理をするようです───帰ってきたら包囲されていました?
私はそんな彼らに唖然としながらも、改めて冷風大鞴を動かすためには氷が必要なことを彼らに説明して聞かせた。
ところが、「(買うのはこれだけではないのか⁉)」などと、当然の権利を主張するかの如くエルフたちは逆ギレし、私に猛反発をし始めた。
買い切り商品が基本の世界で、継続購入なんて売り方は、そもそも商人しか馴染みのないものだったりするんかもしれん。憤る彼らに私はなんとかもう一回、現状整理をする時間をもらう。
「(私、冷風大鞴を購入する時と取り付ける時、二回説明したのは覚えてる? 冷風大鞴は単体では動かへんから、氷を入れて冷たい風を作ってるって。……私の記憶では、そこにいた皆さんは頷いてたやんな?)」
私の脳内では、冷たい風に両手を広げて風を受け止めるエルフや、全力で首を縦に振る彼らの姿を克明に記憶しとる。ただそれでは分が悪いと悟ったのか、エルフたちは事実よりも自分たちに都合のいい真実を口にし始めた。
「(その時はお前、冷たい風が出てみんな喜んでいたから、聞いていなかったのだ。貴様がしっかりと我々に説明していなかったのが悪い)」
彼らの視点では、私は余計なお節介を焼く端役に等しかったんやろう。『商品を置いたら、とっとと帰れ』、そういった視線が合ったことは間違いない。
「(まぁ……聞いてもらう努力はちょっと足りへんかった……か?)」
「(その通り。話を聞いていない相手に一方的に喋り続けるのは、そちらのエゴというもの。場の雰囲気を鑑みて、然るべきタイミングで話を切り出さなかった、そちらの落ち度ではないか)」
場の雰囲気、詰まるところ空気を読め、とエルフに言われて、実は私が悪かったのではないかと若干思い始めた。いや、実際そうではないことは重々承知ではあるけれども。私が悪いという雰囲気に飲まれそうになる。
(偉そうに言うせいで、なんかこっちが間違えてるみたいに思えて来て怖いわ。……とにかく、なんか代案出さんと話が進まへんな……)
「(……ほな、今ここで氷をご購入されますか? それとも、返品されます? されるのでしたら、代金はそのまま全額お返しさせていただきますが……)」
私は背後に目配せする。後ろでは技術者集団の皆さんが、他に異常がないか調べてくれていた。メンバーは全部で五名、チョウベーさんのお弟子さん達が三人と、『人間の国の鍛冶を勉強したい』って、やってきた獣人たち二人。今回は研修も兼ねて、現場に出動してきた新米技術者たちやった。
彼らが内部を調べたところ、何か『鋭利な刃物で内部を抉じ開けられた』様子があることを私に教えてくれる。
(代金の支払いが終わってるんやったら、別に構わんけど……支払い途中に分解するのはどうなんや……ったく)
「(あー……中身開けてしもうたんですか? 空気の抜け道出来てもうて、冷気が隙間から逃げてしもうてますね)」
箱に穴が空いていると、それだけで冷房効果は低くなる。木製の商品やから、上から薄い板を張り付けて補強できるけど。にしたってやり方が少々野蛮や。
「(怪しい品の内部構造を知りたいと思うのは当然のこと。その程度の傷で壊れてしまうような脆い品を作った、そちらの落ち度であることは明々白々。すぐさま、新しいものを用意しろ)」
(何が明々白々や、白々しい)
部下から修理費用を訊いて、エルフが払えそうなラインの修理を行う。パーツ一つ丸ごと変えることを提案されたけど、そんなことしたらエルフはもう料金を払えんくなる。払えん負債を相手に押し付けて、相手が生きて行けんようになったらお終いや。
そういう無敵のやつは何するか分からん。特に今回金貸しとるのはエルフって言う集団や。個人ならともかく集団が無敵の状態になったら、本当に何をしでかすか分からへん。
「(新しい物を用意するとなったら、もっと金かかるで。修理やったら安くつく)」
せやからとにかく安いプランで、彼らの財布を困らんようにする。長期的に考えれば、これがベストな選択や。間違いない。
「(金はない。そちらが問題なのだから───)」
「(金ないのは知ってるわ。せやから修理代として料金に上乗せしとくで。……ったく。氷はまだあるんか?)」
「(氷?)」
保冷櫃もセットで付けてあるから、当然彼らの場所にも置いてあるはず。その中にぎっしりと氷を入れてプレゼントしたはずやけど。
「(冷風大鞴を買った時に渡した黒くて大きな箱や。保冷櫃って言って、中に氷が入ってたやろ)」
「(それなら、向こうにある)」
そう言われて、エルフと共にプレハブ小屋に隣接する食料庫へ移動する。保冷櫃を開けると、結構詰めたはずの氷は全て無くなっとった。まさか開けっ放しで溶けたか……?
「(この中に合った氷はどうしたん?)」
「(ここにいた者が、服の中に入れると気持ちがいいことに気づいてな。しばらく服の中に入れていたところ、眠っている間にいつの間にか盗まれていたらしい)」
私の問いかけに、エルフは今も盗まれた氷の行方を捜していると返答した。何とも頭痛がしてくるユーモア溢れるジョークや。
「(あぁ、そりゃ恐らく神様が食べたんやろうね。氷は神様も大好物やから、開けてたらすぐに食べに来るで)」
「(なんと……人間の神は強欲だな)」
溶けて気化した、なんて説明するより、たぶんこっちの方が理解できそうやと思った。
それからもう一回、冷風大鞴の使い方についてレクチャーし直し、持ち合わせの道具で修復した後、試供品として持ち歩いとる氷を入れ、実際に稼働するところまで実演して見せた。
「(おぉ!)」「(涼しい!)」
冷風大鞴が壊れた後に課役でやってきたエルフたちは、初めての冷風に驚愕の色を示しながらも、扇いで自分の下へ風を必死になって掴もうと躍起になっていた。
「(村とは違うが心地よいぞ!)」「(これが人の作った風か! 悪くない!)」
彼らをみて、私たちの仕事が終わったことを確認した。足もパンパンやし、ちょっとここで一休みさせてもらおうか。
「(ほな原因も解決したんで、暫くここで休憩させてもらいまっせ。いやぁ~、暑いわぁー……)」
「(お、おい! それは困るぞ。このプレハブ小屋はエルフの作ったもの。人間が本来立ち入っていい場所ではないのだぞ! 要件が終わったなら、早々に立ち去れ!)」
エルフはそう言って、突然私たちをプレハブ小屋から追い出した。
「(えっ……⁉)」
次々と外に押し出されていく私の仲間たち。冷気を浴びれたのなんて、ほんの数十秒やった。
「(こいつら……ほんまに度し難い種族やな)」
そんな捨て台詞を吐いて、私たちは仕方がなくアールヴヘイムにとんぼ返りすることになった。
◇
寒暖差で風邪をひきそうやけど、なんとか再び山の中腹までとんぼ返りしてきた、私たち一行を出迎えたのは、無事に修理を終えた商人を歓待するものではなく、むしろ完全武装したエルフの民やった。
「(ただいま戻ったでー……って、あれー……アンタら正気か?)」
「(人間の商人、お前は今日から我々の人質だ)」
エルフたちにそう言われて、私はようやくこいつらが村社会の蛮族であることを理解した。
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