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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
Around the World in Ice 後編

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不変の貴金属───アリステアは信用を買いたいようです。

「なぜ私がプラチナを欲しがると?」


そう訊いた声音は、もはやそれが正解だと言っているようなものだと気づいてからは、アリステアはきまり悪げな苦笑を浮かべた。


「加工には銀と違って不向きでありんす。けんど、我々の持ちうる技術を使えば、多少であれば手を加えることができんしょう。てっきりそのつもりで、手にしたいと思うておりんしたが、違うたようでありんすね」


エルフの勘というヤツは恐ろしいと思いつつも、見当はずれの用途を提示され、頭を振った。ただこれ以上の沈黙もまた、相手との関係を悪くすることも自明の理。これだけ勘が働くのであればいずれは気づくこと。


彼女の言葉でまた一つ、新たな未来をアリステアは目撃(えんざん)した。


「ドワーフの国で発表された新技術に、プラチナを使った高水準の『キログラム原器』というものがある」


「なんでありんす、それは?」


「1キログラムの基準と定義するのに、最も腐食に強く経年変化の少ない分銅、と説明するのが一番わかりやすいだろうか」


「分銅……なんでありんす、ただの錘でありんすか。規格化だの、普通だのと、煩い人だと思っておりんしたが、筋金入りでありんすね」


「この分銅を使うということは、最も誠実に価値を測るという商人の証明書でもある。私は父に商人は信用であると、教えられた。信用は金では本来買えぬもの。ならばせめて、見てくれだけでも信頼に足るものを揃えたというわけだ」


「あなたのその白い手袋もそのためでありんすか?」


「この手袋は何も仕込んでいないという証だ。分銅に付着するありとあらゆるものが、取引の中で大きな価値の差を生む。たとえ砂粒一つであっても、この手袋にはつけない。私は少々疑われやすい質でね。これぐらいやらねば、信用も勝ち取れない」


白い手袋をはめた両手をニマーヌに開いてみせ、再び書類に戻す。

そして余計なことを口走り過ぎたと、少し口を噤んだ。

そんな彼を、ニマーヌは好ましい者を見るような微笑で眺めていた。


「忠節も利害も測りがたい男だと思うておりんしたが……何を欲しているのか、分かっただけ良しとしんしょう」


「……そんなことよりも、例の間諜から報告はまだ来ていないのかな?」


「忙しいので、手紙を送る余裕もないんしょう」


「アールヴヘイムにサーシャ達が滞在して既に二日になる。何も知らせがないというのは、不気味だと考えるのが当然だろう。裏切りの可能性は?」


「互いに利のある取引ゆえ、裏切る必要もありんせん。しいて恐れるのであれば、本当に投獄されてしまった場合でありんしょう」


「アールヴヘイムの民がそこまでするとは思えないが、キャスパリーグ王に申し上げたことが実際に起こりえないとも限らない。実際の所起きる可能性は四割弱と言ったところだが、サーシャが揉め事を起こして捕まる未来は確かにある。それが私の知らないルートでフロストさんに知られてしまえば、全てが終わる可能性すら考えられる」


「それほど恐れる相手でありんすか? 以前見かけた時は、たいそう美しい顔をした偉丈夫でありんしたが? 彼が生き物を殺すところは想像できんせん」


ポッと貌を赤らめるニマーヌ。フロストの魂の色は燦然と輝く日輪色。直視し続ければ、その瞳を焼く眩い輝きを放っていたのをニマーヌは思い出していた。


「……」


そんな彼女を見て、知らぬことはつくづく幸福なことだと、アリステアは(わら)う。戦いの先陣を切って、矢の雨が降る敵陣へ、いの一番に突っ込んでいくフロストを後ろから見ていたアリステア。

あれと正面衝突することは、大きな馬車の前に棒立ちするより危険な行為だと、生物としての本能が告げていた。


「問題ないとみて良いのかな。……そもそも、その間諜、本当に信用できるのか? 海辺のエルフはすぐに裏切るという話を小耳に挟んだけれども」


「彼らの汚名は、我々の汚名の記録でもありんす」


「……どういうことかな。最後まで戦った内陸のエルフは、海辺のエルフよりも高潔だと世間ではいうだろう。混乱の時代、真っ先にエルフという種族を裏切ったのは海辺に住むエルフと聞いたけれど?」


アリステアの言葉にニマーヌは珍しく、何も聞こえていないフリをした。


「なるほど。……余計なことを聞いた。忘れてくれ」


アリステアは再び書類に視線を戻すと、ふと自分たちの乗った馬車が傾いていることに気が付いた。


王族にしか利用できない特別な山道があると噂に聞いていたものの上にいるのだと分かると、黒いカーテンを開けて外を見たくもなったが、生憎と白い肌を日光に晒すことのできない御仁が傍にいる今、不用意な行動はとれなかった。


(王族だけが利用できる隠し山道……ニブルヘルに繋がる道か?)


アールヴヘイムの地下にあるという、巨大な地下空間。ニブルヘルと呼ばれるその場所を、アリステアは探していた。




一方その頃サーシャはというと……。


「んぁ~結局独房で一晩明かしてしもうた」


ピチョン、と雫の垂れる暗い檻の中に。


「ていうか、なんでこんな暗い独房に入れられなアカンねん! ちょっと悪質なクレーマーに中指立てただけやんけ!! F○ck youや! バーカ!」


アールヴヘイムの牢屋で騒がしく文句を垂れていた。





もう少し馬車の会話が続けるつもりでしたが、カットしました。

次回はサーシャが投獄される少し前の状況から。

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