ぶつかる算盤とプライド───ナニワの令嬢はエルフを救う言い訳を考え中のようです
フラッペを買いにきたら、村の門番エルフがフラッペ屋で揉め事を起こしていた。
駆けつけたサーシャ達一行は彼から事情を聴くため、フラッペ屋二階の冷風ゾーンに入室する。
私は、扇子の先でこめかみをぐりぐりと押さえた。
目の前の門番エルフは、相変わらず縋るような目でこちらを見ている。
(プレハブ小屋に冷風大鞴を……理屈はわかる)
「(プレハブ小屋の数は?)」
「(全部で五カ所だ)」
「(ほな、冷風大鞴は五つ必要ってことや)」
私は手を広げた。エルフの顔が、期待と不安で歪んだ。
「(できれば)」
うん。まぁ、彼らに冷風大鞴を五つ買うだけの資産はないんやろう。せやから妥協で一つ、ってことか。
「(焼石に水とまでは言わんけど、一個取り付けることになんの意味があるんや?)」
「(中継地点である三つ目のプレハブ小屋に、その冷風大鞴を取り付けたいと考えている。この中で一番太陽の呪いに掛かり易い場所だ。そこにあるだけでも、我々の生存はより確かなものになる)」
ふむ……筋は通ってる。私は確認のためヴィーダルにも話を聴いた。
「この話、どう思う?」
「疑う部分はないかと。それに彼の話に一点補足を。───課役に使うプレハブ小屋は、当然のことながら行きと帰り、“両方”に利用されます。三つ目のプレハブ小屋に冷風大鞴を置くのはそのためかと」
「三つ目のプレハブ小屋で回復したら、しばらく大丈夫やと考えてるわけか」
その問いにヴィーダルは頷く。
「おそらく事前に協議を重ねた結果かと思われます。彼がここにいるのも、本来であれば村の承認が必要なはず」
十分に考えて、冷風大鞴を買って来ようってなったんか?
もっと王様に訴状を出すとか、やることある気がするけど。
───それとも既に全部手を尽くして、藁にもすがる思いで来たとか?
(まぁどっちでもええけど)
「(どうか、我々に冷風大鞴を譲ってほしい。金ならいずれしっかりと払う)」
目の前でそう頭を垂れる門番エルフは、どうやら万策尽きた様子だった。最後の最後に頼るのが、門前払いした商人とは……エルフたちも八方塞がりというか、手段を選んでられへん状況っぽい。無下にはしたくないが……。
「(あんたら税金と課役で十分苦しんでるのに、そこからさらに借金するんか? それ、返せんの?)」
根本的な問題を男に訊いた。今の状況で、冷風大鞴を森の奥に持ち逃げされたら、私たちは取り立てる術がない。
ただでさえキャスパリーグ王に邸を与えられている身分で、その上こちらが無理を言っている状況やのに、避難してきた貴族たちに新しい邸まで、キャスパリーグ王は作って下さってる。
ここからエルフの村と揉め事を起こして、訴訟問題に発展でもしたら、それこそキャスパリーグ王に顔向けできへんわ。
なんとか穏便にことを進めたいけど───。
「(……言ったはずだ。必ず返すと)」
門番エルフはそう言うけど、ぶっちゃけ、返せる目途も立ってないやろう……?
……レンタルとか提案してみよっか。うちは基本的にレンタル中心やし、他の商店にも同じ仕組みでやっとるから安心もできるやろ。
「(レンタルはどう? 他の店でも結構流行ってるんやけど、所有者は私で、毎月決まった額納めてくれたら利用の継続が出来るっていう仕組みなんやけど)」
「(毎月徴収に来るつもりか?)」
眉間に皺を寄せるエルフ。……私そう言わんかったか?
「(そりゃあ……そういう仕組みやから)」
「(人間とは極力会いたくない)」
エルフにそう言われて、思わず私はコイツの顔面をセンスで引っぱたきたくなり、席を立つ。
「あ、ダメです姉様!」
声を上げたヴィーダルが、寸でのところで私の体を止め、ソファに座らせた。
「(あんた、ほんま……どの口が言うてんねん)」
助けて欲しいんちゃうんか。
八方塞がりで、藁にも縋る思いで来たんちゃうの?
「(我々エルフは白黒はっきりせぬものは嫌いだ。取引は買う、買わないでハッキリとさせておきたい。借りる、借りられている、というのは気持ちが悪い)」
(コイツほんま……そんなことぬかしてる場合か? 命掛かってんちゃうの?)
「姉様、落ち着いて下さい。ゆっくり深呼吸でも……!」
ヴィーダルに言われ、私は大きなため息交じりの深呼吸をする。私の煽り耐性が低いのか、エルフの煽りスキルが高いのか。心は沸騰していても、頭だけはしっかりと冷静に保ちながら次の提案を考える。
「金がないなら物々交換はどうや。……銀楼果と交換ってのは?)」
お互いに欲しいもので物々交換。きっと天と地ほどの価格差があるやろうけど、そこは量で何とか補ってもらうという方向で───
「(いや、それも勘弁してもらいたい。銀楼果は親愛な隣人に渡すもの。商人に売ることはできない。支払いは必ず貨幣で行う)」
……なんやこいつら。
「ヴィーダル、こいつら死にたいんか?」
人間の言葉で、今度は静かに訊いた。
「どうか怒りをお納めください、姉様。確かに彼らは……苦肉の策でここまで来たことは間違いないんです。姉様が彼らを助けて下さろうとしているのも、よく分かります」
「だったらなんで銀楼果を出し渋るんや? 命より大事なものか?」
(私の商品が果実に劣るとでも、こいつら本気で考えてるんか? それやったら、ほんまに業腹極まりない……勝手に死ねばいい)
私の眉間の皺が深くなる。それを察してか、ヴィーダルが間に入った。
「銀楼果は大切な友好の証、それを貨幣に変えてしまえば、エルフは友好の証を金で売買する種族の誹りを免れません。エルフは社会的なメンツを最も大切にする種族。看板を傷つけられては、一族郎党生きてはいけません。何卒ご容赦を」
彼の説明に、私はクラッとした。死ぬ直前になってもメンツを手放せんとは……ほんまに筋金入りやな。
「(えーちょっと休憩タイム。ヴィーダルと話してきてええ?)」
「(なるべく早く頼む)」
私の返答にキレのある返しをしてくるエルフ。
(ハハッ……キレそう)
私は笑顔で、ヴィーダルを連れて隣の席に移った。
高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。
ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




