エルフたちは熱中症? ───門番エルフは冷風大鞴を購入希望のようです
戦火に巻き込まれ、避難してきた貴族たちのためにサーシャはフラッペを買いに馬車へ乗り込んだ。
猛暑に悩まされながらもフラッペ屋に到着するサーシャ一行の前にいたのは、立ち入り禁止のエルフ村で門番を務めていたエルフの男だった……。
「あのエルフって……」
「ええ。間違いないですね」
私の呟きに、ミヤハが答える。フラッペ屋の前で揉め事を起こしているあのエルフは、間違いなく、以前私たちを厄介払いした門番やった。
「珍しいこともあるもんやなぁ、フード一枚で降りてくるなんて」
森の中におるエルフは日焼けすることを一番に嫌う。門番であってもそれは変わらへん。美しく白い肌こそエルフの誇りなのだと、ヴィーダルは言っていた。そういや、ヴィーダルのやつどこ行った?
「ヴィーダルは?」
後ろの馬車列に視線をやると、ちょうど馬車の窓枠から顔を出してこっちを見るヴィーダルと目があう。手招きすると、ヴィーダルはシュタタッと駆け寄り、膝をついた。
「どうかなされましたか?」
「……アレどう思う?」
私はうちの店で揉め事をしとるエルフと店員に視線をやって、ヴィーダルに訊く。
「異常事態のようです。山奥のエルフが村に降りてくることはまず、ありません」
「……そっか。そーやんな?」
私はフラッペ屋で何かを訴えているエルフの門番の後ろに立つ。クレームを言っているわけではなさそうや。拙い獣人語で何かを欲しがってる……?
「(神の息吹、買うことできますカ! こチら、困っていまァスッ!)」
エルフは身振り手振りで、冷風大鞴をフラッペ店員に要求してるようやった。
「(ヘイヘイヘイ、兄さん。久しぶりやのう)」
私はエルフの男の肩を掴んで、流暢なエルフ語でゲス嗤いをする。
「何かお困りの様子やね。たっぷり三か月分、足元見る用意あるけど、どんなもん? 」
と営業スマイルを輝かせる。
「(おっ、お前は! ……アレクサンドル!)」
名前もしっかり覚えてくれたようでなにより。
「(はい、アレクサンドルです。お客様は何をお求めでここまでやってきたんや? ココは私の店やけど。何が欲しいか言ってみ? 言うだけタダやで?)」
──今なら全品特別価格、二倍の値段でご提供いたします、と心の中でアナウンスする。今さらフラッペの魅力を再認識したとしても、もう遅いわ。
「(いくらでも構わない。あの冷たい風が出る不思議な箱が欲しい!)」
箱……? フラッペやなくて、冷風大鞴の方か。
だとしたら猶更無理な話。
「(冷風大鞴はうちの主力商品や。定価でも、ごっつ値が張る高級品やぞ。森のエルフが個人で所有できるもんちゃうわ。諦め)」
「(金なら村で出す。どうしても、その冷風大鞴とやらを譲りうけたい)」
門番エルフが引き下がらないので、私は正直に値段と維持費を教えてやった。
すると彼は少し黙って、今度は『金を借りたい』とまで言い始める始末。
「(返せんのか?)」
「(命に代えても)」
男の目に嘘はなかった。嘘がないのは逆に怖い。金欲しさに命を張る連中は、何をしでかすか分からへん。放置は危険か。
「(なんや、のっぴきならん事情があるみたいやな。冷風大鞴の前に行こう。あそこなら日陰になってるし、何より涼しい)」
エルフの男は、別にこの場所でも構わないと言ったけど、私たちが我慢ならんかった。
私は護衛を含めた同行者全員分のフラッペを購入後、門番エルフと一緒に整備された冷風ゾーンに足を運んだ。
◇
冷風ゾーンというのは、フラッペ屋二階に新しく増設された黒いオーク材の食事場所を指す。フラッペを買った人限定で入れる、冷気がこもった、なかなかの一室や。
中には冷風大鞴が両側に設置され、天井には空気を循環させるためにプロペラ状のシーリングファンが回る。
最初は電気もないのにどうやって回ってんのか不思議に思ったけど、チョウベーさんが以前言っていたことを思い出すと、『外気を利用して蒸気を発生させ、ゼンマイを巻き、それを動力にして回転する』とのこと。───ぶっちゃけよう分からんかった。
分かるのは、獣人の国では割とこんな歯車仕掛けの機械が増え始めているということ。キャスパリーグ王によってこの国は大きな経済の成長期に入りつつある。そしてそれは、恩恵と同時に災いも振り撒くことを、私は別の世界の知識で知っていた。
今は恩恵を享受していても、いつ災いが降りかかってくるやら、皆目見当もつかんかった。
「(───それで? 冷風大鞴がどうしてそんなに欲しいんや?)」
革のシートに腰を下ろした私は、対面に座ったエルフを見据える。口にフラッペを運びながら、男が話始めるのを待った。
「(エルフの村では今、熱にうなされているものが多い。我々は必死に対策を練ったが効果はなく……泉の水で冷やすのも限界と言う時、他のエルフ伝手にヴァナヘイムで流行っているという冷気を吹きだす箱の存在を知った)」
「(熱? 風邪かいな)」
「(お前たちにもあるのか知らないが……口外せぬと約束できるか?)」
後ろに立ってるミヤハとヴィーダルは知らんけど、喋るなと言われたら喋らん。
金が絡めば別やけど……。
「(大丈夫や。口は堅い)」
私の言葉に頷いたエルフは、他の使用人を部屋の奥にやるように言った。
「(なんや、私の使用人も信用ならんか?)」
「(これは我々エルフの存亡にかかわる話。知らぬことが生命を守ることにもなる)」
そういうわけで、エルフの男はなぜかヴィーダルだけ同席を許してくれた。
「(ほら、これでええやろ)」
門番のエルフは深く感謝を示すように頷いた。
「(……実は我々エルフは長時間太陽の下にいると、その熱に蝕まれ倒れてしまう呪いに掛かっている)」
男は神妙な顔つきで語り始めた。
「(もとより森の外へは長時間居られぬ運命なのだ。唯一、村の近くに湧く泉の水を飲むことで、ある程度の時間滞在することはできるが、長期間の滞在はやはり難しい)」
“……いや、それ『呪い』やなくて、ただの重度の『熱中症』やろ。水と塩を摂らんと直射日光浴び続けたら、エルフやなくても三途の川が見えてくるわ。”
科学知識のないこの世界じゃ、生理現象も魔術的な災厄か……どうしたものやら。
「(……なるほど、それで? どうしてエルフはそんな状態やのに、外に出てきたん?)」
「(我々も好きで太陽の下に出るわけではない。だが……どうしても、そうせざるを得ない役目をキャスパリーグ王から与えられているのだ)」
「(ほう……あの猫王が……)」
おいおい、それって遠回しの死刑宣告やんけ。キャスパリーグ王はエルフに恨みでもあるんか?
ニマーヌ様やってエルフやのに。……とにかく、話を聴かんことには始まらへんな。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




