9話 セヴァを負かした子供
「あの少年を弟子にしました」
セヴァが投げ飛ばしたことには絶対に意味がある。そう考えていたカランはゆっくりと戻って来た。
その時にはすでにレギネの姿はなく、セヴァだけが立っていた。
そして開口一番、驚きの言葉が聞こえてきた。
「はぁ?……まぁ、セヴァは教えるの上手いしな。じゃあ、早いこと本来の目的のスイーツを買って帰ろうか」
あれから時間が経ち、スイショートに並ぶ人が増えてきた。もうそろそろ並んでおかないと、後々しんどいことになる
「何言ってるんですか、教えるのは私とカラン様の二人ですよ」
「……俺が教えたら死ぬよ?」
体をセヴァに背を向けて、スイショートを見ながら振り返らずそう言う。
セヴァはこの何の感情も籠っていない、その言葉に恐怖した。
そして、更に恐怖を増加させるのは、これは虚言でも何でもない。ただ、本当のことを言っているだけということ。
「……あの子には特性がある」
「特性がなんだ?特性には戦闘向きから事務向きまで多種多様。あの少年が戦闘向きの特性を持っていたとしても、特性なんてものはたいして役に立たない」
セヴァは言葉が出ない。それはセヴァ自身もこの目で見たことだから。
そんなセヴァに対して、カランは更に言った。
「そんな才能よりも『本物の才能』を持った奴じゃないと教えることは出来ないな」
「ッ……それは、まだ分かりません」
「なぁ、セヴァ。俺はトレイア家当主カラン・トレイアという人間だけじゃなくて、ディヴァインウォリアーだ。それに……『努力は開花した本物の才能には勝てない』そうだろ?」
セヴァも口には出していないが、カランの言葉には賛同せざるを得ない。
カラン・トレイアという人間は、神に選ばれた者「ディヴァインウォリアー」だ。
ディヴァインウォリアーから秘密裏に教えを乞うことは、他国からその教え子が特別視されてると勘違いし、その教え子が狙われるという危険がある。
それに、かつて開花した本物の才能に、これまでの長く、苦しかった努力の意味が無駄だったと言われてるかのように、為す術なく、これまでの努力が打ち砕かれた。
それだけならまだしも、その相手が十歳という若さだった。
近い歳に負かされるなら、更に努力しようと思っただろう。自分はまだまだ強くなれると。
……だが、その相手が十歳という、自分の四分の一しか生きていない子供に負かされた。
開始してすぐに体勢を崩され、立て直す暇も無く、子供らしくない素早く、そして大人顔負けな重く鋭い攻撃に完敗した。
これまではたまに接戦を演じることがあったくらいで、だいたいは自分が勝っていたが、何の前触れもなく接戦どころか、何もさせてもらえず惨敗。
こんな負けを経験すれば、努力なんてものする気力も無くなる。たとえ、これから先、力を付けようとも、この子供は自分の何倍も強くなっている。
「努力は開花した本物の才能には勝てない」この言葉に抗うなんて、努力を失ったアラフォーにはそんな反骨精神は無かった。
俯いたセヴァからの反論がないのを見て、カランは自分の白髮を黒に変化させ、漆黒のコートを着た。
これが、カランが下町や近隣の国へ外に行く時の変装。
そして、下へ飛び降りたカランに付いていくように、セヴァも下へ飛び降りた。
それから一時間後・・・・・・
「オススメって何ですか?」
「エッ……ァ、はい!当店のオススメはイチゴショートケーキです!イチゴ一つを贅沢に使っているこのケーキは皆様に大好評です!」
スイショートのショーケースカウンターには様々なケーキが入っている。
中にはカランが前世で見たことあるケーキも多く、見たことのない物も多い。
店員の女性はカランが聴いて少し経ってから、慌てたようにショーケースカウンターに入っているイチゴショートケーキを五本の指を揃えて紹介した。
店員の女性はカランと目が合う度に目を背ける。そして、並んでいる客や談笑しながら楽しそうに食べていた男女の視線が一人の人間に集まる。
髪を黒髪に変え、漆黒のコートを着ても、その貴族の風格を隠しきれていない。そして顔は変えていないので、整っている顔も相まって、どちらにしろ目立ってしまう。
だが、カランという正体がバレるより、こっちの方がマシ。
カランが今一番望むことは、幻影魔法を使えるようになりたい。
「じゃあ、ショートケーキを六個、エッグタルトを二個」
「ハッ、はい!」
下街にある店だからか、値段はかなり庶民向けだ。
王都にもスイーツ店はあるが、こんな値段では買えない。
スイショートのケーキ十個で、王都のスイーツ店のケーキを一個帰ると言えば、王都がどれだけ物価の高い所かが分かるだろう。
店員の女性は大きな白い箱にケーキを詰める。
その間に会計の方を済ましておく。
「イチゴショートケーキ六個とエッグタルト二個、ご準備出来ました。お会計は……金貨一枚!?え、え~と、お釣りは……」
「お釣りは大丈夫です。急いでいるので、失礼しますね」
「あ、はい。……ありがとうございました!また、お越し下さいませ!」
カランを相手していた女性の店員だけでなく、店の店員全員が店から出て行くカランにお辞儀をした。
「あぁ、また」
そう言って、左手はケーキの箱を持っているので、空いている右腕を上げた。
そして、店員、客の全員から視線を向けられて、カランは出て行き、セヴァは一礼して出て行った。
二人がスイショートを出た頃、時計塔の針はすでに二時を回っていた。
「セヴァ、今日は絶対にセアとミーの家族三人でこのケーキを食べると決めている。……ということで、急ぐぞ!!」
カランはセヴァにそう言うと、ケーキの箱を体の前に持って行き、その場からいなくなった。
セヴァはため息を吐きながらゆっくりと歩くと、カランと同じ様にその場からいなくなった。ある手紙を時計塔の鐘の側に置いて。




