10話 悪、セレティアは止めれない
王都の店や家の屋根を瞬間移動するかのように移動してるカラン。
はぁ~、セヴァに結構な鬼畜発言しちゃったたな…
でも、しょうがないんだ。ああでも言わないと、セヴァの語彙に呑み込まれてしまう恐れがあった。
それに、もう少しであの面倒くさい会議が開催されるから、色々と準備をしないといけない。
今回、スイショートに行ったのも、この会議に手土産として持っていけるか確かめるためでもある。
軽めのジャンプで移動していると、すぐにトレイア家の屋敷に到達した。
「ご当主様!お帰りです!!」
全身を鉄の重装備で固め、目の部分だけ水玉の様な模様で少しだけ空いている。
そして、腰にはロタナスを象徴する剣を携えながらも、手には槍を持っている。
そんな門番二人が、このトレイア家の門前を守護者だ。
二人とも、元々はトレイア家の門下生だったが、育ててくれた恩を返すために、王国騎士団に入団出来る程の実力を持ちながらも、トレイア家の門番になることを決意してくれた。このことについては本当に感謝している。
「ご当主様、その手に持っているのは…」
「あぁ、これは巷で流行りのケーキ店のケーキだ。セアたちが食べてたから、一度食べてみたいと思って買ってきた」
「あぁ…あの急に出て行かれた時の…」
そう言うと、昨日の事を思い出したのか、二人はため息を吐いた。
まぁ、こうなるのもしょうがない。いくらトレイア家本家の人間といっても、あれだけ自由で、心配を掛けさせてくると、日々気が気でないだろう。
「その件に関してはあのバカが申し訳なかった。その件も込みで、いつものお礼と言っては何だが……」
そう言って、スイショートで買ったエッグタルトを二人に見せた。
「「ッ!それは……!?」」
「そうだ。これは、あのカスタードを使ったスイーツだ。焼き立てっぽかったから買ってきた。後で感想教えてくれよ」
この世界ではカスタードは貴族だけが味わうことが出来るものだ。
砂糖、バニラ等は平民ではとても買うことが出来ないし、平民に売るとしても誰も買うことが出来ない値段になってしまう。
そのカスタードを使っているエッグタルトが、なぜあんな安い値段で売られてるかは分からないが、平民も貴族舌になることで、平民の食が進化するだろう。
二人も平民だが、今はトレイア家の門番の仕事で王都に居るから、もしかしたらカスタードを使った食べ物を食べたことがあるかもしれない。
だが、これは日頃の感謝の気持ち。
俺は二人にエッグタルトが入った箱を渡した。
箱の中から甘く、濃厚でクリーミーな匂いが鼻に漂ってきて、一瞬取り返そうと考えてしまったが、何とか気持ちを保てた。
「「ありがとうございます!ご当主様!!」」
「……あ、セヴァももう少しで来るから、開けといてくれ」
「「はい!了解です!!」」
二人はそう言うと、門を開けて、俺を通してくれた。
門から家の玄関までは十メートルくらいある。本当になぜこんなに離れているのか分からない。
侯爵家としての富、地位、歴史を誇示したいからって、ここまですると逆に変まである。
他の貴族なら、この有り余った土地を有効活用出来るかもしれないが、戦闘しか頭にないこの家では、折角の綺麗な草地が枯れて、戦闘の跡地にしかならない。
……未だに慣れない、この玄関前に居る二人のメイドに向かって歩くのが。
二人はずーーっと、俺のをことを見てくる。その際、俺は二人の視線が気まず過ぎて、視線は扉を向いて歩いているが、頭では無の意識で歩いている。
「お帰りなさいませ、旦那様」
右に居たメイドがそう言うと、左に居たメイドは両手を差し出した。
これは、俺が持っているケーキの箱を持ってくれるということ。
「いや、これは自分で持って行く」
「承知しました」
う〜ん……やっぱり、メイドってちょっと固いんだよな。
俺がこの家の主で、雇い主の前で失礼なことは出来ないと思っているんだろうけど、もう少しくらい緩めてほしい。
この国で俺とフランクに話せるのは、俺の身内とセヴァとメイド長。これは、単純に家族だから、そして付き合いが長いからだ。
後はこの国の王とか、行き付けの店の人たちくらいだ。
他の国に行けば名前を名乗らない限り、たくさんの人とフランクに話すことが出来るが、高位貴族や王国の行政に関わる人なら、俺の顔を絶対に知っているから、そんな話し方は出来ないだろう。
メイドの二人が次は玄関の扉を開ける。
「あ、セレティアが今どこにいて、何をしているか分かるか?」
「セレティアお嬢様なら、調理室で料理人と何かを作ってらしっしゃいます」
「フッ、そうか」
メイドが俺が笑ったのに、少し反応した。
「ああ、すまん。もう、お嬢様って呼ばれる歳でもないのに」
「お嬢様はこの家にちゃんと帰ってきてくれましたから……」
「確かに、セレティアは長女だからか家族愛が強いからな。あいつとは違って」
俺がそう言うと、メイドは失言だったと思ったのか、急に頭を下げた。
「別に謝る必要はない。元々、この家はそういう家だ」
そう。たとえ、幼少期は共に笑いながら楽しく過ごしたとしても、歳のを重ねるにつれてそんな仲間意識は無くなってしまう。
それがトレイア家の特性とでもいうのだろうか。
俺はメイドにそう言って、セレティアが居る調理室に行く。
調理室は二階のリビングに近い所にある。だからか、いつもより二階から騒がしい音がしている。あいつが居る場所はいつも人の笑い声や悲鳴が聞こえてくる。まぁ、静かよりはそういう騒がしい方がマシなのかもしれない。
家の中に入ってすぐにある幅広く、短い階段を上ると、トレイア家の初代当主の等身大が模写された絵が飾られており、ここから左右に階段が分かれている。
右の階段を上ると調理室や様々な部屋があるが、左の階段を上ると部屋はあるが、その部屋はほとんどが空き部屋だ。
空き部屋になっているのは、一夫多妻だった頃は大家族だった時の名残だ。
俺が右の階段を上ると、声が一層騒がしくなる。だが、その声は笑い声である。
俺は胸ポケットから眼鏡を取り出して掛け、調理室へ特に何も言わずに入った。
「う〜ん・・・この味じゃない。ちょっと甘過ぎるわね」
「そうですね、砂糖を入れ過ぎたみたいです」
「もう一回作り直すわよ!」
「「「「「はい!」」」」」
俺は皆が生クリームの味見をしている後ろにカニ歩きで静かに移動した。そして、俺が移動した所はちょうど冷凍庫の後ろ。
冷凍庫に生クリームを作るための材料があるのか、一斉に俺の方を向いた。
「「「「「ッ!ご当主様!?」」」」」
「カラン、女子だけの場に無断で立ち入るのはダメって何度も言って・・・!そ、それは!」
「あ、これは・・・」
「この匂いはショートケーキ!カラン!!流石、私のお・と・う・と!!」
一単語で区切りながら言う度に横腹を肘で突かれて、そのまま持っていたショートケーキが入った箱を奪われた。いや、これはもう騎士団案件だろう。強奪罪だぞ。
セレティアと一緒に生クリームを味見していた五人のパティシエはちゃんと俺にお礼をしてくれた。いや、お礼されたらもう取り返せないじゃん……
まだ、パティシエの五人はいい。お礼をしてくれたから。だが、昨日あんな重症の怪我を負わせた挙句、俺の楽しみにしていたショートケーキをお礼もせずに強奪。こんな奴を許していいのか?いや、よくない。
今すぐ牢獄へ入れて、戦闘意欲をスッカラカンになるまでシャバに出れないようにしないといけない。そうしたら、この世界、特にトレイア家は平和になる。
・・・なんてことを考えても実現なんてするわけない。
こいつを閉じ込めれる人工物はこの国に存在しない。魔法に拘束魔法があるが、こいつの特性が『魔法反射』だから、基本的にどんな魔法も効かない。
俺は心の中にグッと気持ちをしまい込み、調理室を離れた。
あぁ…俺のショートケーキィィ。




