11話 セヴァとレギネの修行
俺がセレティア更生に諦めを付いた翌日、今日は昨日とは違って予定が入っている。いつも通りの時間に起きて、いつもの時間通りにリビングに集まり、食卓に着いた。
でも、いつも見える姿が見えない。
「セヴァはどうした?特に用事があるとは聞いてないし、寝坊するとも思わないんだが」
「セヴァなら朝早くに出て行ったわよ。裏からだったから、何か内緒事ね」
側に居たメイドに聴くと、リビングに現れたセレティアはそう言いながら、席に座った。俺はもちろん眼鏡を掛けている。
「手ぶらでか?」
「ん?あー、剣を持ってたと思う。二本ぐらい」
「なるほどな」
俺はそう言って、コーヒーカップを手に持ち少し飲んだ。
「珍しいわね。セヴァがカランに何も言わないなんて」
「まぁ、今回の件は俺は反対したからな。そんな俺に言うわけないだろう」
そして、セアとミーがリビングに一緒に来て、朝食の時間となった。
その時・・・
ッ!?
常人なら泡吹いて気絶しているような殺意が俺個人に向けられ、その方向には笑っているセレティア。笑いながら殺意出せる奴は、もうヤバい奴なんよ。
『今回の件って何?戦いの匂いがプンプンするんだけど』
『プンプンする程じゃないだろ。まぁ、隠すことじゃないし言うけど、セヴァが弟子を取った』
この俺とセレティアの声に出さない会話は、姉弟の絆なのか、相手の眼の細かな動きで相手が何を言いたいのかが分かってしまう。
『へぇ~、そうなんだ。セヴァが見込んだってことは、それなりに才能があるのよね?』
『別に、特性持ちを才能が無いとは言わないが、あんたみたいな実際の戦いで実用性がないと意味がない』
『戦闘能力については否定しないってことは、腕はそれなりに良いんでしょ?』
『…他人の滞在能力は計れない。そのことを俺は学んでいるだけだ』
俺の言葉にセレティアは少し微笑んだ。
『特性って何なの?』
『「覇気視」人の戦闘能力を覇気で具現化して見ることができる。あんたの「魔法反射」とは大違いだ』
セレティアの『魔法反射』は、魔法を使う者からすれば天敵のような者だ。なぜなら、放った魔法が完全に反射し、こちらに返ってくるのだから。つまり、魔法が通用しない。
これこそ、戦闘向きの特性であり、究極の対魔法師向けの特性と言える。
それに対して『覇気視』は、相手の戦闘能力が分かるだけ。戦闘向きとも事務向きとも言えない、正直言って微妙な特性だ。
戦闘向きにしたいのならば、偵察などに分類されるだろう。相手の戦力を知りたい時、『覇気視』という相手の力を具現化する特性はとても重宝される。そう考えれば、『覇気視』は良い特性と言える。
『偵察向きの特性なのね。それでも、いい特性じゃない。この世界は情報戦。相手の力を知っておいて損はない』
『…俺はセヴァが弟子を取ること自体は否定していない。だが、そこに俺も師匠として教えるのを断っただけだ』
『……カランが決めたことに、私は何も言う気はないわ』
『あぁ。貴重な才能を失うのはもう懲り懲りだからな』
そう言って、会話が終わると、お互いに食事に視線を戻した。
俺たちが会話をしている間、セアとミーは楽しそうに話しながら朝食を食べていた。そして、俺たちもそこに加わった。
・・・・・・
・・・・・・
すみません、カラン様。私のこの老体になった体でも、久しぶりに燃えているのです。
レギネのあの目。あの目が、かつて消えてしまった私の中に眠っている炎を蘇らせたのです。
セヴァは心の中でそう言い、トレイア家の訓練場にある真剣を手に取り、軽やかにジャンプして塀を飛び越えた。
空は日が少し照ってきた。だが、街からは声が聞こえない。
店もやっておらず、今、外を歩いているのは早朝ランニングをしている者か、夜の店から帰っている者だろう。
店や家が建ち並ぶ街を見て、セヴァはよくここまで直ったと感心する。
魔王軍との戦いで最も消耗したのはロタナスだ。
戦いが始まった当時はディヴァインウォリアーが居らず、神格国ではなかったとはいえ、各国でも最強と言っていいトレイアの本家が居た。それを恐れた魔王軍が大量の魔物、そして複数の幹部で攻めてきた。
その幹部は一人で一国を沈めることが出来る程の力を持っていたが、様々な奇跡が重なり、ロタナスは総力戦で何とか国の崩壊は免れた。
その時の景色は、神格国とはとても言えなず、敗戦国ととても酷似していた。
街が崩壊し、貴族街も大きな損害を負い、ロタナスの自慢でもあった広大な土地を用いた高品質な農作物、戦いで農作物も土地も何もかも無に帰し、世界に誇れるトレイア家も死者が出て、二名が行方不明、残りの一人は瀕死状態。
それからわずか十数年、元に戻ったどころか、更に発展している。
今の景色を見てそんなことを考えていると、セヴァはレギネの家の前に着いた。
シュッ、シュッ
一定のテンポで、しかしその音は一つ一つ微妙に違う。まだ、軸がしっかりしていない証拠だ。
音がするのはレギネの家の裏の庭。セヴァは「失礼します」と言い、無断で入る。
レギネに気付かれないように気配を消し、素振りを見る。
その素振りを見ると、剣を持ち始めたのが最近だと分かる。
すると急に、レギネが気配を消しているセヴァの方を見た。
「気づいてますよ」
「…気配は消していたんですけどね」
「姿、気配が無くても、その大き過ぎる覇気を隠すことは出来ないですからね」
「ふふ、やはり『覇気視』は強い。どうなるか楽しみです」
セヴァはそう言ってレギネに近づき、剣の指導を始めた。
剣を扱う上で最も重要なのは、速さでもなく、強さでもない。それは、「心・技・体」が一致していること。
子供の時は心・技・体のどれもが成長途中。この時期は力を追い求めるのではなく、自分に合った型を見つけ、或いは作り、極めていくこと。
「レギネ、その型はやりやすいですか?」
「はい。学園で習った時から、妙に手に馴染んでます」
剣を極める上で、型探しが一番大変と言っても過言ではない。
この世に存在する型であればいいが、どの型とも合わない人も居る。もし、レギネが後者だったなら、セヴァは型をある程度極めるまで修行はしないと考えていた。
「レギネは生粋の王道ということですか。いいですね、私も王道なのでよかったです」
王道とは、この世界に共通している型であり、最も使っている人が多い型。
正式名称はグラジオ流。剣の神グラジオになぞらえてそう言う風に呼ばれている。
「王道の型を使う者として、まず努力は怠らないでください。それを反したらグラジオ様より様々な罰が下される、という言い伝えもあるのでね」
「は、はい!…様々な罰とは?」
「そうですねぇ…剣の腕が上がらなくなるとか、これまでの剣の経験が体から無くなったり、最悪だと体が動かせなくなるほどの病を患うとか」
セヴァの最後の罰を聞くと、レギネは先程まで休んでいた素振りを再度開始した。
その素振りのアドバイスをしたり、学園の話など色々していると、日は既に昇っており、トレイア家では朝食の時間までもう少し。
「レギネ、朝食は何時に食べるんですか?」
「後、一時間後くらいですかね。僕の家はちょっと遅いんですよ」
「そうですか…すみませんね、レギネ。私はもう帰らないといけません」
「いえ、僕の方こそこんな長い時間教えていただきありがとうございました!とても、勉強になりました」
こうして第一回目の修行が終わり、セヴァは急いで帰る。
そして、時間前に戻れなかった用に言い訳もちゃんと考えておく。
・・・結局、時間前に戻れず、言い訳を使うハメになった。




