6話 時計塔の少年への誤解
教会を出た後は、セレティアのおかげで今日一日をオフになったから、下町に来たついでに昨日セアたちが食べていた「スイショート」というスイーツ店に行くことにした。
「カラン様、ヘルス様に支払いはしないでいいんですか?いつもなら葉巻を渡していますが、今日は渡していませんでしたよね」
「大丈夫だ。今回は金貨四枚を置いてきた。予備の葉巻がなかったからな」
俺たちは教会を出禁になっているが、あいつは気まずい雰囲気になったらすぐに治してくれる。そして、次のセリフは「帰ってくれ」と言う。
こんなやりとりをもう何十回もしているのに、あいつはなぜ俺の禁句言葉である「神」という単語を口に出してしまうのだろうか?本当に学ばない。
まぁ、とても扱いやすくて助かるが。
そして、出禁なのに怪我を治してもらったうえに、代金まで払わないは流石に人間として終わっている。まぁ、その対価として葉巻五本をいつも渡している。今回は二人分なので十本。
ただ、今回は予備の葉巻が無く、その代わりに渡した四枚の金貨で十本か十一本くらいの葉巻が買える。いや~高いね。
「私の分までありがとうございます」
そして、古びた建物が並ぶ道から出て、スイショートに向かう。
「セヴァ、スイショートってどこにあるんだ?」
「……申し訳ありません。私も場所を知らないのです」
「昨日、買いに行ったのはセヴァじゃないのか?……まさか、またあの?」
「はい。セレティア様が「店内じゃないと本当の味は分からないわ!」と言って、エキナセア様とミレイアお嬢様を引っ張って、スイショートへ走って行きました」
「……!じゃあ、店でも食べて、夜も食べたのか?」
「その通りです」
下町にあるスイショート。
トレイア家は一応侯爵という公爵に次ぐ貴族の家だから専属の凄腕料理人が居る。もちろん、その料理人の中にはスイーツを作る人も居る。
昔から専属の料理人が作るスイーツを口にしてきたセレティアが、店内で食べるだけじゃ飽き足らず、お持ち帰りまでして、その日の夜に食べるほどの味。
セレティアじゃなくて、セアやミーが言った可能性もあるが、それならセレティアはその買って来たケーキを食べないはずだ。
ゴクリッ。そう喉を鳴らす。
こりゃあ、味は期待できるな。……まぁ、俺にはどれも同じように美味しいんだろうけど。
俺は前世の舌をそのまま引き継いだのか、この世界で数多の高級料理を食べてきても、舌が全然肥えていない。
セレティアが不味いという料理でも、俺はめちゃ美味いと思ってしまう。
そして、セレティアがとても美味いという料理では、美味いが正直そこまで言うか?と思っている。
「あのセレティアがそこまで好いているスイーツ店。行ってみるか」
「はい。しかし、肝心の場所が分からないので」
「確かに、この国の下町はその辺の国の倍くらい大きいからな」
ロタナスは建国当時、ディヴァインウォリアーを有していた神格国だったから、それなりに国の領土は広い。
「でもな、セヴァ。スイショートの噂は俺達の所にまで聞こえてくるんだぞ?だったら、絶対に大行列になってるはず。というわけで……」
俺はセヴァの腰を抱えて家の屋根まで飛んだ。
セヴァももういい歳なので「フワッ」みたいな感覚で飛ばないと腰を痛める。トレイア家に仕えていても、歳には抗えない。
今、俺たちが居る場所は下町の端の端。取り敢えず、下町の中央に移動する。そこから人が並んでいる、あるいは人が群がっているところを焦点的に探す。
・・・・・・
・・・・・・
「あんがい、あっさりと見つかったな」
「そうですね。大行列もそうですが、何よりこの甘美な香りは人々を寄り付かせますね」
下町のちょうど中心にある時計塔。そこに取り敢えず着地した途端、俺たちの鼻をくすぐる甘美な香りがしてきた。
その匂いがする方を見ると、食べ物を売っている店、しかもスイーツ店にしては珍しい三階建ての建物。そして、その建物の入り口には若い男女の大群。だが、大半は女性が占めている。
・・・・・・アラサー一歩手前の俺と、とっくに還暦を迎えているセヴァの二人で、この若者の中に入るのは流石に厳しい。
探したらおじいちゃんやおばあちゃんらしき人も居るが、そのほとんどは小さな子供を連れている。
「セヴァ、幻影魔法ってなかったっけ?」
「ありますけど、私たちがそんな魔法を使えるとでも?」
「・・・・・・じゃあセヴァ、俺たちおじさんはあの若き戦場で生き残れると思うか?」
俺たちの目的はスイーツを食べること。そして、それを正体をバレずに遂行すること。バレると、顔パスで絶対に最優先で買えると思うし、さらに人が集まってスイーツを買うどころではなくなる。
それに、顔パスを使って食べるより、ちゃんと並んで正規で買うことに意味があるのだ。
まぁ、セレティアたちは絶対に顔パスで入っただろうけど。
入るのを躊躇い、時間が経つほど、あそこに自分たちが入れる想像が出来ない。
ミーを連れてきたら、三世代家族みたいな形で入れたのに。
俺はセヴァの背中に手を置いた。
「もう、諦めよう」そんな思いが届いたのか、セヴァも軽くうなずいた。
「あの~、こんなところで何してるんですか?」
「ッ!君こそ、どうやってここに登ったんだい?」
見た目は、ミーより背が高い黒髪の男の子。年齢は十歳くらい。
俺は不安にさせないように、優しい言葉遣い、安心できる笑顔でそう聴く。
だが、油断できない。
いくら、久しく戦線に立っていないはいえ、今もセレティアとやりあっているし、これまで培われてきた数多の戦闘経験を持つ俺の気配察知能力を完璧にくぐり抜ける当たり、ただ者ではない。
幼児の姿に変装している他国のスパイ、あるいは暗殺者。
ディヴァインウォリアーである俺は、どこの国か分からないスパイや暗殺者に何度も会っている。中にはこうして幼児の格好をした奴も居た。
「この時計塔の鐘の状態を確認しに来たんです。久しぶりに家に帰って来たので」
「ほうほう、なるほどなるほど」
「‥‥‥‥あの、どうしてそう怪しげの目で見るんですか?」
「ほう、分かるのか」
そう怯えながら聴いてくる少年。
すると、セヴァが肘で俺の脇腹をちょっと強く突いた。
『イッ、何だよセヴァ』
『どうしてこの少年をそんなに怪しむのですか?』
『気配を感じなかった。ということは、俺の命、あるいはこの国の国家機密を盗もうとしてる奴だ。そりゃ、怪しむだろ』
俺が感じなかったということはセヴァも感じなかっただろう。だが、どうしてそんな質問をするんだ?セヴァも俺の周りに居るから、こういうことには敏感なはず。
俺がそんな疑問を持っていると、セヴァは急にため息を吐き、セヴァの視線が俺の右手の人差し指に向いていた。
『この指輪の効果忘れたんですか?‥‥‥忘れたんですね。「気配遮断指輪」カラン様が普通の人になりたいと言って、付与士に周りの気配を遮断させる付与をさせたんですよ』
『‥‥‥ということは、この少年は?』
『はい。極、普通の少年です』
俺はそろりそろりと少年の方へ顔を向ける。
少年は今にも泣きそうになりながら、必死に耐えている。
その姿を見た瞬間、俺は謝るために頭を下げようとした。
「アッ、わあああぁっ!」
時計塔の中には梯子があり、そこからこの少年が上がってきた。そして元々、俺たちという怪しい者が居たから、いつでも逃げれるように梯子から上がってきたギリギリの所に居た。
そして、急に俺が動いてビビったのか、足を後ろに出して、そのまま下へ落ちた。
「たすけてぇ!お父さぁん!お母さぁん!!」
時間が経つにつれて、少年の声がだんだん遠くなる。
俺は一歩踏み出した。その一歩は、すぐに少年が落ちた穴へ来て、そのまま俺は落下した。
その距離は少年を救うのに十分な距離だが、空中での体の動かし方をまだ分からないから、少年は頭を地面に向けて落ちている。
すぐに少年に追いついて、落ちている最中に少年をちゃんとキャッチして、反動がないように地面に着地する。
そして、少年はゆっくりと目を開ける。
「大丈夫か、少年」
こんなことを言っているが、こうなった原因は俺だよね?
だが、俺の言葉に安心したのか、少年は俺に抱き着いて泣き出した。




