4話 身内同士で殺し合い(遊び)は日常
音速パンチ。この攻撃を避けられないようでは、この家で生きていくことなんて出来ない。こんな攻撃は走り始める時の初速と同じようなもの。
お遊び攻撃などにはやれるわけないが、武の才能は向こうの方が高いので慎重に行く。見切りなどは剣の世界でもよく使うから、それなりに上手い自信はある。
パンチを後ろに跳んで避ける。一定以上の距離を空けないと、十八番の蹴りが一瞬で襲ってくる。こいつは脚が長いから、リーチがある。
「『身体強化』!」
先手必勝。
こいつは体が温まったらもう勝ち目はない。だが、まだ体を動かして間もない今。そして、この涼しい夜ではまだ温まらない。
「ハハッ!いつになく本気ね!!そんなに、お姉さまに居てほしくないのかしら?」
「もちろん。もう三日も家族と夜を過ごしてないんだ」
「あら?私は家族じゃないの?」
「こんなことをするのが家族とでも?」
家の中でも一瞬でも気を抜いたら殴られ、骨が折れ、羽交い絞めにされ、気を失ったら次起きるのは次の日の朝。こんな始まり方した日は、一日中やる気が出ない。そして、その日の夜もそんなことをされたら、生きていく気力が無くなる。
「こんなことって、こんなの家族の戯れでしょ?あなたも好きじゃない」
うん。やっぱり、この家はおかしい。
まぁ、確かに、転生してきた当初は好きだった。前世で戦ったことがないから、こう毎日戦うことが新鮮だった。しかも、こいつの才能も開花前だったから尚更。
だが、才能が開花してからは嫌いになった。だって、負けるもん。接戦して負けるのも悔しいけど、一番悔しいのは遊ばれて負けること。これが増えたから、俺は家を出たのかもしれない。
今だって久しぶりだから多少は力を入れているようだが、こいつの本気を知っている身からすれば、こんなの遊びだと思ってしまう。まぁ、戯れって思っている時点で遊びなのか。
跳んで避けると、セレティアの音速パンチ十連ドン。・・・・・・・久しぶりだからって加減間違えてないか?今、この瞬間だけ腕が十本に見える。
ここで『右手』を使うのはトレイア家の人間としてどうかと思うが、ここで負ければ四日も過ごせず、明日を頑張れる気がしない。
迫りくる音速パンチに、俺は右手の手のひらを向けた。
いくら見切りが上手けれど、身体強化で視力を強化して追いつくのがやっと。だが、こいつが攻撃してくる箇所は分かる。
肋。ここに攻撃してくる。理由は肋骨は上半身の骨の部位で最も治りが早いからだ。治りが早いと、また遊べるという狂気じみた理由。
「『絶対防御』」
絶対防御。俺がディヴァインウォリアーになった時に貰ったスキル。この世界で俺しか持っていない唯一無二のもの。
スキルの内容はそのまま。絶対に防御する。これに、魔法や物理など関係ない。全てにおいて防御可能な最強スキル。ただ、その範囲がディヴァインウォリアーの紋章がある右手だけというとても小さいのが難点。片手絶対防御なんて需要なさすぎだろ。
右手は右の肋骨を、左手は左の肋骨を狙ってくる。問題なのは、この音速という速度に右手が付いていけるか。
まず十発中の六発を防ぐ。ここまではいつも避けたり防げる。だが、七発目からは完全に運に頼ることになる。
七発目は六発目と同じ右の肋骨の端。
八発目はその真逆の左の肋骨の端。絶対防御の右手が間に合わないと判断したので、体を左に向け、意図的に右の肋骨を殴らせる。
九発目は・・・・・・顔面!?
ちょっと待ってくれ!まだ、肋骨一本も折れてないのに顔面にシフトチェンジ!?いくら、久しぶりでもやり過ぎでは?
向こうも本来なら、七、八発で当てれるのが当てられなかったから、苛立っているのが分かる。
「『身体強化』」
ッ!?・・・・・・もう終わりだ。
そう思って九発目を右手で防いだ。そして、空を仰いだ。
最後の一発はどこか分かる。顔面からもう一度戻って肋骨。
だが、二、三本ならまだ戦える。
物理防御も音速パンチには間に合わないので、腹に力を入れる。この家に生まれたから痛みには慣れているが、骨が数本折れるほどの痛みはアドレナリンがドパドパ出ている戦闘中だけ我慢できる。だから、家の中での戦闘は肋骨が逝くだけで負けてしまう。
そして、セレティアの右手の拳が俺の肋骨を見事に折る。何本かは分からないけど、体感二本。
俺は痛いのを我慢しながら肋骨を折ったセレティアの右手を掴み、右手の絶対防御を展開する。
そして、そのまま掴んでいる右手を引っ張り、引っ張られて伸びて空間ができた右腕の下をスライディングしながら通った。
「へぇ~、普段とは違って頭使うじゃん!」
その言葉に少々のイラつきを覚えるが、今はそんなことよりも部屋の中に入ることが優先。
スライディングしながら、ドアノブを右手で握る。絶対防御を展開していたのはこのため。
この戦いの勝利条件は、部屋に入り扉を閉め、セレティアと目を合わせないようにすること。
その時、セレティアは絶対にドアノブを握っている手を狙って来る。
絶対防御は防御には触れているが、俺自身には触れていない判定なので、安全に扉を閉めることが出来る。
家族との時間の代償が肋骨二本であればプラスだろう。
明日、教会にでも行って神父かシスターに治してもらえばいい。
トレイア家は過去に、家族との遊びでの怪我を治すために教会へ一日五回くらい行ってほぼ出禁状態を言い渡されているが、事情を話せば分かってくれるはずだ。
シスターはともかく、神父には恩を売っているから、俺の切実の願いを叶えてくれる。
部屋にはベッドに座っているセアが居る。だが、その視線は俺に向いていない。
「その動きにはびっくりしたけど、あんたってやっぱり、剣のことにならないと鈍いわね。まぁ、楽しかったわよ」
何度聞いたか分からないフレーズ「楽しかったわよ」
そして、首の後ろから急に感じた寒気。
この二つの条件が揃ったら起こることは一つ。
「このッ、出戻り姉が……」
今日も負けた。本気ではないが、セレティアも本気じゃない。
……まぁ、セレティアが身内、仲間であり続ける限りは甘んじて負けを受け入れる。
断末魔ではないが、そう呟きながら俺は気を失った。
「ふふっ。じゃあ、セアちゃん!女子会を再開しましょうか!!」
そう言うと、気を失ったカランを廊下へ蹴り、部屋の扉を閉じた。
エキナセアは、自分の旦那がこんな扱いをされているが、もうこれには慣れている。
「はい」
ただ、セレティアだけでなくカランとも食べたかったなと、心の中では思っていた。
・・・・・・
・・・・・・
カランとセレティアの遊びが終わってから十二時を回った頃、セヴァはカランが倒れているか確認するために、エキナセアの部屋に向かう。
読んでいた本を机に置き、カランの自室にあるセヴァ専用のリクライニングチェアから立ち上がった。
そして、部屋の扉を開け、エキナセアの部屋の前に人が転がっているのが見えた。
カラン様……やはり、勝つことはできませんでしたか。
勝ちたいという気持ちと、騎士として守るべき者を傷つけないという気持ちが混じって、結果は後者の方の気持ちが強かった。
まぁ、それもカラン様らしい。
……と、本当は反撃する隙が無かっただけなことを知らないセヴァ。
セヴァは扉の前に倒れているカランを持ち上げた。
そして、それと同時に扉も開いた。
「じゃあ、また明日ね!」
扉が開くという運命の女神の不可抗力で、セレティアと目と目が合う。
その瞬間、セヴァは胸ポケットにしまっている眼鏡を出そうとしたが、そうするとカランを床に落としてしまう。
セヴァも自分を守るより、自分の主人を守ることを選択した。
カランを絶対に落とさないように強く抱え持ち、セレティアの攻撃を待つ。
「ごめんなさいね、セヴァ。これも、トレイア家のせいなの」
カランですらギリギリ追える攻撃を、セヴァが追えるはずもなく、またも鼻にクリーンヒットしてそのまま倒れた。
だが、最後の最後までカランに気を付けながら倒れて、カランは何も衝撃もなかった。
「いつも、ディアをありがとね」
そう言ったセレティアは、両腕にカランとセヴァを抱える。
そして、カランの自室の扉を開け、セヴァはセヴァ専用のリクライニングチェアに。カるふランはベッドに離した。
「おやすみなさい」
そう言って、カランの自室を後にした。
その言葉にどんな意味が含まれているのかは、本人にしか分からない。




