30話 魔物の巣
俺の質問にラルクラッド・テイマは微笑みながら答えた。
「ただの実験だよ。ペリストア農国の冒険者が倒せるくらいの強さなら、もう一度新たに調教しようと思っていたんだけどね」
「…その結果は?」
「まぁ、これでいいかなって感じかな。君たちと相手するとは思ってなかったし」
「お前のそんな豆粒みたいな理由で、俺の大事で平和な休日を無駄にしたのか…」
俺は座っている席を立ち上がり、胸ぐらをつかむ勢いでラルクラッド・テイマに近づく。
「それは僕の責任じゃないよ。そっちが勝手に来たんじゃないか」
…そう言われると、俺は何も言えなくなった。
確かにこいつの言う通り。俺があのタイミングでギルドに行かなければ、こんなことを頼まれずに済んだ。
それに、こんな痛い目に遭わなかった。
ゆっくりと後ろにさがって、そのまま席に着く。
「そういう素直な所、僕は好きだよ。他のディヴァインウォリアーには絶対に持ってないことだから」
「お前に好かれて…オェ。急に吐き気が」
本当に吐き気がする。
何でお前はそんなことを軽々と言えるんだ?
俺はつばを何度も飲み込み、何とか吐くことを避ける。
「じゃあ、話は送った理由、これだけかい?」
「いや、何で実験でペリストア農国に送り込んだ?…!そもそも、お前がペリストア農国以外だったら、俺はここに来る必要がなかった!」
俺はもう一度詰め寄る。
そうだ。俺が来たタイミングもあるが、送り込んだ国がペリストア農国以外の国だったから、普通にギルドで皆との再開を喜んで酒を飲んでいた。
もし、送り込む国がロタナス王国だったなら、こんな魔物事件すぐに片付けることが出来た。
なんなら、学生たちの訓練として役立てたかもしれない。
「ふふっ、今、ロタナス王国ならって考えただろ?」
「ああ」
「誰があんな武力国家に大事な魔物を送り込む?それじゃあ、すぐに倒されて、実験の意味がない。だから、近くでそれなりの武力を持つ国を選んだ」
「…なんで、その実験をする必要があった?」
「…ついてきて」
そう静かに言うと、ラルクラッド・テイマは部屋を出る。
俺たちは後ろをついていく。
部屋を出ると、階段をさがって、外に出る。
そして、王宮の敷地内にある謎の建物の前に着いた。
その建物は木や石などの脆い素材じゃなくて、希少鉱石のミスリルで出来ている。
建物は縦にも横にも高さも大きく、この全てがミスリルの素材なら、どれだけ金を掛けて作ったんだ?
鍵を解錠して、扉を開く。
中には、テイマ帝国特有のあの匂いがした。
「ここは、つい最近完成した訓練場だ」
中は電気などなく暗い。奥に行くにつれて、だんだん匂いがキツくなっていく。
そして、目の前には巣のような、大きな物体が現れた。
この大きな物体からは、すごく嫌な魔物の気配がする。
「これは魔物の巣だ。どんな魔物が出てくるかはランダムの」
ラルクラッド・テイマが自分の血を地面に垂らす。
すると、魔物の巣が紫に光だした。
「血の質によって、出てくる魔物の強さは決まる」
ということは、ディヴァインウォリアーであり、この国の皇帝である『魔調帝』ラルクラッド・テイマの血なら、あの時会った狼の魔物みたいな異常個体が出てくるかもしれない。
「あいつもここで出したのか」
「そう。実験で数回試したら、あんな素晴らしい魔物が出てきてくれた」
そう言ってラルクラッド・テイマが笑うと、紫に光っていた魔物の巣から光が止み、一体の魔物が出てきた。
その魔物の気配は、並の魔物の何倍も濃い。あの時の狼の魔物によく似ている。
大きさも十メールくらいある。
「今は僕の魔物調教のためにこの匂いを撒いているけど、訓練になったら無臭になるから、君たちも来るかい?」
「えっ、いいの!?」
今まで、この建物に目を奪われていたセレティアが、今はラルクラッド・テイマに目を輝かせている。
「うん。でも、君たちが本気で相手したら、全然訓練にはならないと思うけど」
こんな会話をしている最中も、巣から生まれた魔物は俺たちに近づいてくる。
普通なら襲ってくるが、今は使役に使う香水で襲ってこず、ゆっくりと歩いてくる。
ラルクラッド・テイマは魔物の口に謎の肉を投げて食べさせた。
「そこに座れ」
ラルクラッド・テイマは魔物にそう言う。
そして、魔物はそれに従うように座った。
「今のは、使役に使う香水に漬けたものだ。普通の魔物はこの匂いだけでも調教出来るけど、この魔物たちは攻撃はしないだけで調教はできない」
暗いからどんな見た目なのかは全然わからないが、脚だけの情報からはオーガの巨大版だと思う。
その巨大な魔物をラルクラッド・テイマは異空間を作り出すと、そこに吸い込むように魔物をしまった。
「僕が送り出したのは、兵士たちの血で生まれた魔物だ」
そう言って、外へ出るように促す。外には、何かが入った袋を持つスレンダが居た。
俺たちは外へ出ると、ラルクラッド・テイマは扉を閉めた。
「すまないとは思っている。でも、ペリストア農国が最適だったんだ。と言っておいてくれ」
すると、スレンダが何かが入った袋を俺に渡してきた。
持った時に腕が地面につきそうになった。そして、持ち直した時に金の感触がした。
隙間から中を見ると大量の金貨。
「まだ、すぐに帰るわけじゃないんだろ?」
「まぁ、せっかく来たしな。観光して帰るよ」
「ふっ、じゃあ、次の神格会議で会おう」
そう言うと、ラルクラッド・テイマはスレンダをつれて王宮内へ帰って行った。




