23話 教会は国によって違う
あの後、セレティアに無理やり右腕を掴まれ、ギルドの外へ連れ去られた。
俺はこの二日で魔物じゃ発散されなかった、溜まっている鬱憤でも晴らされると思ったが、なぜか連れてこられたのは病院。
「…本当にここが病院なの?」
なんで連れてきた本人がそんな反応なんだ?
「普通の国はこんなもんだよ。ロタナス王国はそういうのを気にする国だから、他の国と比べるとそりゃ大きいし装飾も拘っている」
セレティアの疑問は、この外見にある。
教会の表の看板で大きく『病院』と書いてはいるが、ロタナス王国以外だと他の大国にしかほとんど行ったことがないセレティアにとって、この建物の大きさや見た目に違和感があるのだろう。
病院は聖職者たちが天からの神聖魔法で、怪我した者を回復させるところ。だから、そこは神聖な場所じゃないといけない。
ロタナス王国ではその見た目は白と黒、高級な装飾品が使われている。
素材も木材じゃなくて大理石のような高級品が使われている。
それに比べてペリストア農国の教会は、見た目を気にせず木材の色をそのまま使っている。
素材はもちろん木材で、それ以外の素材は使われていないと思う。断言は出来ないが、多分俺の予想は当てっている。
俺もペンキで木材の色を上塗りすればいいと思うが、他国の、しかも教会にそんなことを言うのは流石にまずい。
いくら逆らえないとしても、嫌な印象を持たれるのは勘弁。
「これじゃあ、神聖魔法の効果も薄まりそうだけど…」
「まぁ、そういうのはないと思うけど、それは受けてみないと分からない」
俺はヒュパ救王国の教会で神聖魔法で怪我を治療してもらったことがある。
ロタナス王国では、俺たちトレイア家の人間は重宝すべき人間だから、いつも効力が高い神聖魔法をかけてもらっている。
その時の怪我はただの腕の骨折でまだ自分で動かせるくらいの怪我だったから、神聖魔法ですぐに治った。
ても、今回はもう完全に動かない。
これが、完全ではないが、動かせるくらいには回復出来れば今の俺はいい。
教会の中には治療待ちの人たちがおり、俺たちは受け付けに行く。
「すみませ〜ん。この子の腕の怪我を治してもらいたいんですけど」
「…もしかして、お貴族様ですか?」
俺はセレティアと目を見合った。
貴族と言われたら貴族と答えれるが、この国の貴族じゃない。
それを貴族と答えていいのか、そしてそう答えると…もう先は分かる。こんなことを聞いてくるくらいだ。
「違います。ただ、今日の友人の誕生日会でこの服装なんです」
俺たちは一応は侯爵家。だから、持っている服も平民が着ているような服は持っていない。
今、着ている服も街の皆が着ている服と全然合っていないから、結構浮いた存在ではある。
「そうなんですか…では、あちらの席に座って、呼ばれるまで待ってください」
全ての会話をセレティアがしてくれて、俺は何もせずに案内された席に座った。
教会だから、清掃はされていて綺麗。でも、椅子の座り心地はちょっと悪い。
「…それで?ラル君の魔物、どうだった?」
「どうもこうも、今の俺を見てくれ。ほら、腕が完全に動かない。…でも、あれはただ強いだけじゃない」
「…というと?」
俺は恐ろしい感じで言った。
「喋るんだ。魔物が。自分の意思で」
俺はセレティアがどんな反応をするか楽しみで、一回も瞬きせずにセレティアを見つめる。
ほら、驚けよ。セレティア。いつもは見せない、顔を見せてくれ!
「流石、ラル君!そんな魔物を生み出すなんて!!」
……もう、こいつに期待することはやめようかな?
顔には出なくてもいいから、少しは驚いてほしかった。
でも、驚くどころか、その魔物を調教した『魔調帝』 を褒めるのは、やっぱりセレティアの思考は俺の斜め上を行く。
そして二十分。
セレティアとしょうもない会話をしながら待っていると「次の方」と呼ばれた。
治療は個室とかではなく、皆の前で行われる。さっきから、治療しているときの声も聞こえてくる。
教会内を見た感じ、個室もあったから、あそこは貴族たち専用の治療室なんだろう。
治療には俺だけで行く。
治療してくれるのは教会所属のシスター。
「どんな怪我や症状ですか?」
「右腕が完全に動きません」
「…ちょっと見ますね」
そう言ってシスターは俺の右腕を触る。そして、目を丸くした。
シスターは俺の右腕を触る手が急に慎重になる。
「…これは粉砕骨折ですね。触っても痛くないんですか?」
「そうですね。感覚が何もないです」
「粉砕骨折の際や後、何か激しいこととかしましたか?」
「……戦ってましたね。魔物と」
俺の返答にシスターは納得したかのように頷いた。
「その際に粉砕した骨の破片が神経を完全に切ったんでしょうね」
そう言うと、シスターは神聖魔法を使うために両手をクロスさせて、祈り始めた。
そして、祈り終わると、俺の右腕に向かって使った。
俺の右腕が温かい光に包まれて、徐々に感覚が戻ってきた。指先も動かせるようになった。
光がなくなると、徐々に癒えていた感覚がなくなった。
温かったのが終わり、急に現実の寒い空気が肌に刺さる。
「はい、私が出来るのはここまでですので、これ以上は時間で治していくしかないですね」
まだ、完全に骨が完治したわけじゃないから、シスターは包帯を巻いてくれた。
「最近、魔物が多くなってるので、狩ってくれるのは本当にありがたいんですけど、体には気をつけてくださいね」
「はい。大事にします」
俺はそう言って、治療代を支払った。
治療代はロタナス王国の代金に比べたらめっちゃ安い。
俺の治療が終わったのを察して、セレティアは席を立っていた。
俺が出口へそのまま向かうとすると、セレティアが横に並ぶ。
「どんな怪我だったの?」
「粉砕骨折だってさ。で…お前に羽交い締めにされた時に骨の破片が神経を切ったらしい」
「へぇ〜、そんな嘘つくんだ」
あ、そういえば、治療する時の声って聞こえるんだったな……
「は、ハハッ、冗談ってご存知ですよね?…それより、何で分かってるのに聴いてきた?」
「聴いたら何ていう嘘言うんだろう?って思ったから」
「嘘なのは決まってるのかよ」
そして、セレティアが無言で俺の背中を両手で押して、無理やり早く歩かせる。
…これ、こいつに体重預けながら歩くの結構楽かも。
そんなことを思いながら歩いていると、時刻は五時を回っていた。




