24話 ロマン
ギルドに帰ると、机にはたくさんの料理が並べられていた。
骨付き肉や細く鋭い木の棒に刺さっている魚、果物やスイーツ、ジョッキから溢れている酒。
皆はすでに食べ始めているが、高級そうな食べ物にはなぜか一切手を付けていない。
「セレティアさん、今日は我が国の自慢の料理人が丹精込めて作りました。たくさん食べて、飲んで、楽しんでください。遠慮はいりませんので」
セレティアにそう言ったのは、清潔感があって紳士そうな謎の男性。年齢は五十代といったところか。
服はこの冒険者たちが集まるギルドには合わない正装のようなものを着ている。
オールバックに白髪が混じっていて、整えられたちょび髭に、この服とこの男性自身の渋さがかみ合ってとても似合っている。
そんな渋おじはセレティアにそれだけ言うと、皆の所へ戻って行った。
「さっきの人って誰?」
「ここのギルド長、キャルメルさん。中々に渋おじでいいでしょ?」
セレティアはサムズアップしながら俺にそう言った。
それに俺もサムズアップをして返した。
セレティアは「でしょ〜」と誇らしげに言って、食べに行こうとする。
俺はその肩を掴んだ。
「セレティア、一つ聴きたいことがある。…今更だけど、何で目があっているのに戦闘にならないんだ?」
セレティア=目止めがあったら戦闘開始。
これが、この世界の常識のはずなのに、なぜか今は全然常識通りではない。
実は、セレティアを初めてヒュパ救王国に連れてきた時、俺はサングラスを持ってきていた。
「私はね、相手を見ているの。すごく弱かったら戦闘意欲が沸かない。でも、私と『遊べる』人には無意識に沸いてくるんだよね。トレイア家の無意識な防衛本能なのかな?」
そう言って軽いことかのように笑うセレティア。
そして、その新たな事実に驚きを隠せずに固まってしまった俺。
でも、そういうことなら納得してしまう。セヴァには戦闘開始してしまうが、メイドたちはせずに鬼ごっこみたいな遊びをする。
これは、セレティアの『遊べる』センサーがセヴァには反応して、メイドたちには反応しないからだろう。
セレティアの元旦那の家は、元旦那も強く、家自体が騎士団のトレーニングする場で、常に騎士団の国内有数の強者がトレーニングをするために集まる。指導者もその場にはいるため、戦力の数でいえばトレイア家以上。
だから、俺たちトレイア家もセレティアを制御…満足させられるだろうと思って預けた。
その結果、全員がセレティアの『遊べる』センサーに反応してしまって、家庭崩壊及び騎士団崩壊の罪でトレイア家に返品された。
「どういう基準の『遊べる』なんだよ…」
「え〜と、とりあえず大型の魔物を一人で余裕で狩れる人かな?」
「…なら、こいつらには反応しないか」
ペリストア農国の冒険者がどのくらいの実力なのかは知らないけど、セレティアが反応しないということはそういうことだ。
ヒュパ救王国の冒険者はもちろん反応しない。ロタナス王国の学生でも倒せるレベルの魔物で苦戦するようでは、そりゃ反応しない。
冒険者ならもちろん強くなりたい気持ちを持っているだろうけど、強くなったら強くなったでセレティアに目が合った瞬間ボコボコにされる。
それがいいことなのか、悪いことなのか……
「そんなことより早く食べましょ!この国の料理、中々に美味しいわよ!」
そう言うと、皆が頑なに食べなかった高級そうな料理に手を付ける。
…皆、あの料理を避けているのは昨日とかに何か料理でセレティアの機嫌を悪くさせたからかな?
俺はまず、皆が食べている料理に手を付ける。
匂いは食欲をそそられるし、見た目も同じくそそられる。
冒険者らしく、骨付き肉は手で、魚は持ち手を持って食べる。
味は……まぁ、普通の味がした。
臭みとか、独特な味がするのではなく、普通に食べれる上手い料理。すぐに食べ終わった。
俺は全然この料理で満足できるが、食に厳しいセレティアが好む料理も気になる。
席を立って、セレティアの所へ行く。
「あら、やっぱり合わなかったの?」
「合わなかったわけじゃないけど、一応味見を」
セレティアは俺たちみたいに手で料理は食べていない。
骨付き肉でも、肉の部分をナイフとフォークで切り落として食べる。
魚も身の部分を切って食べる。
「セレティアはロマンがないな」
こんな料理を見ると、ナイフとフォークでちょっとずつ切って食べるより、豪快にかぶりつきたくなる。
料理人もそうやって豪快に食べてほしいと願っているだろう。
「ロマンより品よ」
「…誰が言ってんだよ」
本当に誰が言ってんだよ。
戦闘狂が品を語るな。
そりゃ戦闘に品があれば言ってもいいけど、こいつの戦闘にはそんなもの微塵もない。
セレティアが食べていた料理はトレイア家でも食べているような、全然腹の足しにならない小さな料理。
そして、その周りにはまだ手を付けていない、俺たちが食べているロマン料理。
セレティアの食べている料理のもう一皿を食べる。
皿には一口で食べれそうな肉が乗っていて、周りに緑色をしたペーストが皿に彩りを与えている。
俺は肉にペーストを塗って食べる。
味は……美味い!今まで食べたことのない独特な味わい。これが、ペリストア農国の味だ!と言っているような独特さ。
料理は一分くらいで食べ終わった。だが、やっぱり俺は……
品よりロマン。
味よりロマン。
皆が食べている料理を手に取り、豪快にかぶりつく。
味はやっぱり劣るが、この満足感は代え難いものがある。
その日は、皆と同じ料理を腹一杯になるまで食べた。




