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転生当主は世界最強の一柱  作者: 北猫新夜


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20話 意味のない大怪我

 目の前の超大型の狼の魔物の攻撃は止まらない。

 俺が話せることに驚いている時間もなく、次の攻撃がまた首を狙ってきた。


 俺は『絶対防御』ではなく『物理防御』を張って、魔物の攻撃を防いだが、そのまま来た道を戻るように吹き飛ばされた。

 俺は魔力が多いわけでも、魔法が得意なわけでもないから、初めからあの攻撃を完全に防げると思っていない。


 じゃあ、どうして張ったのかというと、こんな強い魔物を俺の目の前に送ってくると言うことは、この近くで誰かが見ている可能性が高い。

 だから、一瞬で倒してしまったら、せっかく変装しているのにこの姿でも警戒されて、意味がなくなってしまう。


 倒そうと思えばすぐに、無傷で、一瞬で倒せる。だが、今は満身創痍で倒したように見せつけないといけない。

 もし、周りに誰もおらず、ただ送ってきただけだとしたら普通にただ大怪我したやつになってしまう。


 「…ハハ、お前、強そう」


 そう言って、魔物は狼らしい鋭く大きい牙をむき出して、超スピードで突っ込んできた。

 俺はその攻撃に間に合わないと思わせるようにわざと攻撃をくらう。

 そして、横腹から血が流れて片膝をつく。


 その隙を魔物が逃すはずもなく、さらに俺は攻撃をくらう。

 太もも、背中、胸などを狼の魔物の鋭い爪で引っかかれ、漆黒のコートが俺の血で赤に染まっていた。


 …もう限界だ。

 そう思って、ふらふらとしながら立ち上がると、俺は剣を抜いた。

 もう疲れた。やっぱり、やられっぱなしだとイラついてくる。


 「…今から死ぬけど遺言あるか?一応、聞いといてやるよ」


 「……もっと、ほしい…主のキ「もういい」……」


 俺は魔物が言い終わる前に、言葉を遮ってそう言った。…先の言葉が分かったから。


 「主に言っとけ。絶対に会いに行くと」


 そう言って、抜いた剣を魔物の首元まで持っていく。

 そして、俺の剣が魔物の首に入った瞬間、俺の脳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 『もういいよ。いい働きだった』


 その声に気を取られて、自分が戦っていることを忘れてしまった。

 剣は首に入っている。そのままもう一度力をいれると次の瞬間、戦っていた超大型の狼の魔物は目の前から消えた。


 だが、それは消失ではない。…主の元へ呼び戻られるような消え方だった。

 そして、最後の一言に俺はため息を吐いた。


 『君が居るとはね』


 そう。バレてしまった。これだけ満身創痍になり、したくもない怪我をしたにも関わらず、結局、一番バレたくないやつにバレてしまった。


 尻もちをつき、俺は大の字で仰向けに倒れた。


 「疲れた」


 俺は水魔法『ウォーター』で全身の血を洗い流す。

 そして、まだ流れ続ける血は気合いで何とか止血する。…ペリストア農国に行ったら包帯巻いてもらお。


 …とりあえず、当初の目的であったテイマ帝国がこの魔物事件に関わっていることが分かったし、皇帝『魔調帝』も直接関わっていることが分かった。


 もし、この魔物事件にとどまらずに、テイマ帝国と戦争とかになったら普通に無理ゲーじゃん。

 俺たちが関わるならともかく、ペリストア農国と同盟国が戦ったところで無駄死にをするだけをするだけ。

 でも、テイマ帝国がこの国を狙う意味が分からない。


 「一体、どうしたんだ?『魔調帝』」

 

 俺は立ち上がる元気が出るまで、濁りのない空を眺めていた。


 ・・・・・・

 ・・・・・・


 基本前傾姿勢で怖いもの知らずの魔物たちが、今は一人の美しき人の前では怯えて前に出れない。


 「アハハハ!!ほら!!さっきまでの威勢はどうしたのよ!!」


 そう言って、自分から魔物の群れに突っ込んで行き、狂気じみたその笑顔で魔物を次々葬っていき、その身を魔物の血で染める。


 皆は知った。

 あの時、ギルド最強カランに片膝をつかせた美しい女性は、間違いなく俺たちよりも強く、あの戦いながら笑っているのが、本当の姿であると。


 今まで自分たちが傷一つつけさせない、絶対に守ってやると思っていたのが、バカらしく思えるほどの強さ。


 今思えば、あのカランが自分の代わりに連れてきたという時点で、カランも認める力の持ち主だったと分かる。

 それに、たった一発でカランに片膝をつけさせる程の力。あの時はカランが連れてきた女性の強さを示すためにわざとついたのかと思った。

 たが、あれは本当についたのだ。


 あれほど上品で、可憐で美しい女性は、戦闘になるとあれほどまでの戦闘狂になってしまう。


 皆は後ろで魔物たちが葬られていくのを呆然と眺めていた。

 

 そして、その戦いぶりから戦乙女『ヴァルキリー』と、皆に呼ばれるようになるのはまた、別の話。


 ・・・・・・

 ・・・・・・


 回復してようやくペリストア農国の入口に来た。

 先程の戦いで服はボロボロになったので、また新しい漆黒のコートを着ている。

 

 「すみません。今は魔物の大量発生で入国を制限しているんです」


 そう門番に言われ、俺はギルドカードを門番に見せた。


 「ッ!し、失礼しました!ヒュパ救王国のSSランク冒険者様でしたか!」


 俺のギルドカードを見て、目を丸くしてそう言うと、すぐに通してくれた。


 「ペリストア農国のギルドは入って真っ直ぐ進んでいただけたら見つかります!では!!」


 最後にそう言って見送ってくれた。

 それに俺は手をあげて、ありがとうと言った。


 ペリストア農国に入ると、意外にも国の危機と言うのに人が外に居て、笑いながら話している。

 

 俺は門番の言う通りそのまま真っ直ぐ進み、まずは皆が居るであろう冒険者ギルドを目指す。


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