17話 我が姉、セレティアに相談
転移の魔法陣で家に戻ってきた。
家に戻ると周りには何もなく、酒の匂いもしないし、人もいない。それに寂しさを覚えた。
転移の魔法陣の書かれた部屋の鍵を締めて、鍵をポケットに入れ、自室を出てセレティアを探しに行く。
階段をおりると外からいつもの様にメイドたちの叫び声が聞こえてきて、その中で甲高いをあげて楽しんでいるバカな声が聞こえてくる。
俺は走ってその声がする所へ向かう。これ以上メイドたちに無理をさせるわけにもいかない。
外に出て、庭を見るとメイドたちがフラフラになりながらセレティアを追いかけていた。
「ほら!少しでも私に触れれたら終わりよ!!」
バカの相手をしているメイドたちは息が絶え絶えで、汗もかいているのに対し、セレティアは涼しい笑顔でそう言って最小限の動きでかわす。
トレイア家のメイド服は侯爵家としての威厳のためにそれなりに伸縮性や素材もいいが、装飾も付けているから動きにくいだろう。
だが、セレティアも今はドレスを着ていて、コルセットを強く締めて内蔵を圧迫してるから、表情では見えないがそれなりに疲れてはいるだろう。
付け入る隙は必ずある…が、あのメイドたちには厳しいだろうな。
「セレティア!その遊びより楽しいことを教えてやるからやめろ!!」
楽しんでいるときのセレティアは自分の世界に入っているから、普段の声じゃ耳に入らない。だから、声を張ってそう言う。
だが、セレティアは気づかない。それにメイドたちも気づいてくれない。
…俺ってここの当主だよね?普通、セレティアはともかく、メイドたちなら一声で気づいてくれると思うんだけど。
俺はため息を吐き、足首をほぐしながら前へ歩みだす。
そして、メイドをかわすためにセレティアがジャンプをした瞬間、俺は踏み込んで一気に突っ込む。
「ッ!なんであんたが!?」
「用事があるからだよ」
流石のセレティアでも急に現れた俺に驚き、その一瞬だけ気が抜ける。
それを見逃さずに、俺は空中でセレティアの手首を掴んで着地した。
「はい、じゃあこの遊びは終わり」
俺がセレティアの手首を持ってたままそう言うと、メイドたちは喜びあうよりも感動が勝ったのか、皆で抱き合っていた。
そしてメイド長が「あ、ありがとうございます、ふぅ、ご、ご当主様」と、途切れ途切れに言う。
俺はそれに頷くと、頭をいつも練習や遊びで使っている剣以上の鋼鉄で叩かれるような痛みが襲った。
「こ…こんなの反則よぉ!いきなり入ってきて不意打ちだなんて!そんなのトレイア家の当主がしていいことじゃないわ!!」
そう言いながら、鉄よりも硬く、鋼鉄よりも硬いその拳で何度も俺の頭を叩く。
俺は頭をさすりながら、セレティアの攻撃を『絶対防御』で防ぎ、セレティアにひとまず落ち着いてくれるように説得する。
「き、聞いてくれ!お前じゃないと解決できないことがあるんだ!!」
「それは、私の楽しい楽しい遊びを中断しないといけないの?!」
「…そうだ!中断しないといけないことだ!!」
中断しないといけないと聞かれたら難しいところではある。
別にセレティアは夕食前になれば、お風呂に入りたいからって勝手に遊びをやめる。そして、その後に夕食を食べる。
なら、その時まで待てばいいのだが、今回はお世話になったヒュパ救王国のためにもすぐにでも安心できる奴を紹介したかった。
こんなことを言ってもセレティアは納得してくれないだろうが、一応言っておく。
「今、ペリストア農国が危機に陥っている!」
「それが何?!」
「その国が俺があの時お世話になったヒュパ救王国の食料の輸入を担っている!!ペリストア農国がなくなるとヒュパ救王国が食料の危機に陥る負の連鎖が起きる!!だから、お前にそれを救ってほしい!!」
そう必死言うと急にセレティアの攻撃が止まった。
「…ふ〜ん。なら、仕方ないわね」
そう言ってスカートについた草や土を払う。それに、俺やメイドたちも目を見開いた。
「せ、セレティア…どうした?殴りすぎて自分の頭がおかしくなったのか?」
俺が心配してそう言うと、セレティアは小さく笑った。
「何を言っているの?弟がお世話になった国なのでしょ?なら、早く助けないといけない。…何かおかしなことを言ってるかしら?」
そのセレティアらしくない、本当に貴族みたいな話し方、そして本当に助けたいという気持ちに俺たちは数秒フリーズした。
…いや、セレティアの変貌具合はともかく、とりあえず第一段階は完了。
俺は別人のようなセレティアに戸惑いながらも…
「じゃ、じゃあ、着いてきてくれ」
そう言って俺の後を着いてこさせる。
…あの戦闘狂の狂犬がここまで変わるものなのかと本当に疑問に思っている。
その後も何もやらず、何も言わずに俺の後を着いてきて、転移の魔法陣の部屋に来る。
何気に、この転移の魔法陣の部屋に自分以外の人が来るのは初めてだ。
「ふぅ〜ん、なんか時々いなくなると思ったらこんな部屋があったんだ」
「…旅で色んな所を行って、見て、聞いて、もう一度行きたいと思うところがいっぱいあったからな。こうやってすぐに行けるようにした」
そして、ヒュパ救王国へ行く転移の魔法陣に立つ。
「じゃあ、行くぞ」
そう言うと、セレティアは頷いた。
俺は魔力をセレティア含む二人分を注ぎ込む。
転移の魔法陣が光り、目を開けるとまた、先程のギルドの部屋に戻って来た。




