15話 第二の故郷
あの後、三時間くらい話してヴァリアントたちは帰った。
妻の前では公爵家アスロメア家当主の姿に変わっていた。その変貌ぶりに、笑いそうになった。
今回、アスロメア家がうちに来たのは、ミーが五歳になって貴族の規則として顔を出さなければならない社交界に行った時。
いくらディヴァインウォリアーといえど、国の伝統には従わないといけないので、久しぶりに社交界に出ると、まぁ、滅多に出ないトレイア家と縁を作りたいのか知らない人、知らない家が話しかけてくる。
そんな時に、俺の視界の片隅に映ったのがヴァリアントたちだった。
俺はすり寄って来る人たちを押し退けて、家族を連れてヴァリアントの元へ向かった。
そして、俺が強引に「家に来るか?」みたいなニュアンスのことを結構大きな声で聴くと、ヴァリアントは反射的に「はい」と言った。
すると、俺たちに話しかけてきた奴らは一斉にどっかに行った。
俺って経済的にしか需要がないのかと悲しくなった。
・・・こんな経緯でヴァリアントと会うことになったが、まぁ、いいものではあった。セアも楽しかったと言っているし、ミーも中庭で遊んでいたと聞いている。
そして、セアとミーはヴァリアントたちが来た馬車で出かけて行った。
「セヴァ、この後の予定って入ってたか?」
「ふぁ~っ、い、いえ!入っていません」
とても大きなあくびを途中で止め、胸ポケットに入っているメモ帳を取り出しそう言った。
「・・・そうか。じゃあ、あそこに行ってくる」
「は、はい」
俺はそう言うと、家の中に入り、自室へ入った。
俺の部屋はトレイア家の当主が代々受け継いでいくもので歴史が刻まれているが、世界を旅した俺からすれば、歴史はあれど狭すぎる。圧迫されながら仕事なんて出来るわけない。
だから、隣の部屋を繋げて改造した。
自室に入って左にある扉を開けると、繋げた隣の部屋へ行くことが出来る。
事務の仕事をする際の机の引き出しから鍵を取り出し、扉へ差す。
そして、扉を開けると先には・・・様々な魔方陣が床に書かれていた。
「う~ん、この部屋を見ると毎回思う。絶景かな!と」
魔法陣は魔法を発動する際に現れ、どの魔法にも存在していて、その魔法の難易度によって組み立て方はそれぞれだ。
簡単なものから一段構造。それから二段、三段、四段、五段と上がっていく。ただ、例外として、ディヴァインウォリアーが授かる魔法は魔方陣がない。それは、普通ならこの世に存在しない魔法であり、神直々に体にその魔方陣が刻み込まれるから。
『絶対防御』という魔法を俺は使えるけど、魔方陣は知らない。その正体を知っているのは神とこの体だけ。
この床に書かれている魔法陣は五段構造。魔法の中で最も難しいと言われる五段構造の魔方陣が部屋に四つも書かれている。
四つ書いていてもなお、この部屋にはまだ余裕がある。
「もうお昼か。・・・なら、今日はあそこに行くか」
久しぶりに後輩とも話したし、今日は懐かしい人と話したい気分だ。
ということで、俺は四つの魔方陣のうちの一番近い左下の魔方陣の真ん中に立つ。そして魔力を注ぐ。
すると、魔方陣は光出し、俺を光の壁で包む。
そして、次に目を開けると、先ほどの部屋の中から一変。
木で壁や床が出来ていて、四畳くらいしかない部屋の大きさ。ベッドも成人男性一人がギリギリ寝れるかどうか。
床に書かれている魔法陣が部屋のギリギリと言えば、この部屋がどれだけ小さくて、元の部屋どれだけ大きいか分かるだろう。
でも、俺はこの部屋に懐かしさを感じ、ずっと居たいと思ってしまっている。
部屋の扉を開け、目の前に広がる光景に無意識に笑みが浮かんだ。
「もう一杯!」
「なぁ、俺と一杯行こうぜぇ?楽しませてやるからよぉ」
「おい!これは俺の依頼だぞ!」
「いーや、先に取ったのは俺だ!」
絶えることを知らない会話に、ナンパや喧嘩、そしてこのバカ騒ぎ感。忘れられないあの日の日々。
冒険者ギルド。初めの方はこの雰囲気に慣れなかったが、何年も居座れば前世に住んでいた実家のような安心感になる。
・・・トレイア家もこの世界での実家だが、あの当時は気を抜くと命を持っていかれるから、毎日が戦場気分だった。
俺が今居るところは二階。バカ騒ぎしている奴らを見下ろしている。
そして何人かが俺の視線に気づいて、上を向いた。すると、俺の姿を見て目を丸くする者やすぐに武器を抜けるように構える者も居る。
完全ではないが、そこらの人には見えないくらいには気配を消している。だから、今、俺に気付いた奴らはこのギルドの中でも最上位の冒険者だ。
それに俺の遊び心が無意識に反応して、腰あたりに手をまわして、非常時にのために携帯している小型の刀の刀身を少し見せた。
その刀はロタナスの名工が打ち、いつも手入れしていて、遠目からでも光り輝く銀の刃が見えただろう。
すると、目を丸くしていた者たちは笑みを浮かべ、構えをとった者たちは更に警戒を浮かべた。これだけ正反対な反応を見るのはとても面白い。
俺は笑いながら階段を下り、一階へ行く。
そして、一階に足を着けると、バカ騒ぎしていた奴らも俺の方に視線を向ける。
「ま、まさか!?」
酒を飲んでいた一人が、酒がほぼ満帆に入ったジョッキを地面に落としてそう言った。それを境に、次々にジョッキが地面に落ち、床に大量の酒が流れる。
いつもなら「もったいない」とか言って、床を舐めだす変態も居るが、今はそんな変態も同じようにジョッキが地面に落ちている。
この状況に先ほどまで俺を警戒していた者たちが困惑している。
俺はもういいかと思って、皆に片手をあげた。
「久しぶりだな、お前ら」
「「「「「兄貴ッ!!」」」」」
こいつらとは約一年ぶりの再会だった。




