13話 公爵家でも俺の前では土下座をする
家の中へ入ると、数分の話し合いの末、子供同士は庭へ遊びに行き、何かを感じ取ったセレティアが参上してセアとアスロメア家当主の奥方と女子会をしている。
こうなると、俺はアスロメア家当主と必然的に一緒になる。
「じゃあ、私たちは奥の部屋で世間話でもしましょうか」
「は、い。そうしましょうか」
奥の部屋は小さくて滅多に使わないが、掃除はちゃんとされている。
この国の立場では侯爵家だが、世界的に見たらディヴァインウォリアーというだけで小さな国の国王くらいの力がある。だから、基本的に皆がうちに来て、俺が向こうに出向くことはあまりない。
そのため、客を迎え入れる一階は毎日掃除している。
女子会をしている客間の奥に小さな扉がある。
俺は扉を開けて、アスロメア家当主に先に入ってもらう。
「先に座っていて下さい。コーヒーと紅茶、どちらを飲みますか?チョコレートも少しだけ···ッ!いや、何でもないです」
「では、紅茶をお願いします」
そう言って部屋にアスロメア家当主が入ると、開けている扉を閉めた。
振り返ると、さっきたまにしか見せない結構マジの殺気を出していたセレティアがうんうんと頷いている。
マジな殺気だったから、無意識に右手が少しピクッとなった。条件反射というやつだ。
えーと、カップと紅茶ポットってどこにあったっけ?いつもはセヴァがこの役割なのだが、セヴァは少年の指導に行っている。
セアたちのテーブルに紅茶ポットがあるけど、借りるのはダメだよな〜。
クソッ、こんなことになるなら、日頃からセヴァの行動を見ておくべきだった。
はぁ、まぁ、紅茶が無くても許してくれるでしょ。あの人は。
俺はそう思って、アスロメア家当主が待っている奥の部屋に手ぶらで入った。
すると、俺の足元に頭があった。
「すいませんでしたぁ!本日の口調は嫁と息子の前でもあり、公爵家としての威厳のための口調であり、決して本心で言った言葉ではございません!!」
「…ほう、本心で言った言葉ではないか。なら、良い縁というのは嘘だったのか?」
「そういうことじゃないです!言っていることは本心ですが、口調を公爵家用に作っていただけなんです!!許してください、先輩!!」
呼吸すらせずに、早口言葉のようなに噛まずに言うアスロメア家当主。
この光景はとても懐かしく感じる。
「…ハハッ、社交界では驚いたぞヴァリアント。こんなことを言っては何だが、あのアスロメア家がまだ公爵家だったとはな」
「あれは隠居してした親父が勝手にやったことだということで、陛下からお許しをいただいたんです」
「お前は優秀な人間になったからな。陛下はこれからのアスロメア家の未来に掛けたんだろう。まぁ、座って話そう」
俺がそう言うと、ヴァリアントは一瞬で左のソファに座った。
扉に対して横にソファとテーブルがある。右のソファに座っても、左のソファに座っても、距離的には変わらないが、左のソファーの方が古びている。ただ、その古さは気にならない程度ではある。出来る後輩だ。
「いや、もう、先輩には感謝してます。先輩のおかげで、今こうして家族にも恵まれ、こうやって先輩と話せているわけですから」
「人生の転機とは分からないものだな。俺もお前も」
「はい。俺は先輩と会った学園が転機でしたね」
「あぁ、俺も学園だ。お前と会ったことは転機でも何でもなかったけどな」
アスロメア家当主「アスロメア・ヴァリアント」と会ったのは、俺が覚醒して学園でブイブイ言わせてた時にヴァリアントが入学してきた。
入学当時のヴァリアントは、定型的な悪役貴族だった。
デブで公爵家の権力を使って可愛い女子を捕まえて、飽きたらまた別の女子を捕まえる。こんなことを十歳の子供がしていい行為ではない。
しかも、それが同級生だけじゃなくて高学年にもするとなれば、黙っちゃいないのが当時の学園をほぼ牛耳っていた我が姉のセレティアだ。
『私の友達がアスロメア家のデブに脅されてるらしいのよ。だから、あんたが殺してきて?』
『…何で俺?姉さんの友達なんだから、姉さんが殺すべきじゃ?』
『私、本当にああいう奴無理なの。デブでキモくて傲慢で、何でも自分の思い通りになると思ってるバカ。目の入るだけで気分が悪くなる』
この頃の俺は、前世の記憶があってもなお、なぜか普通に殺すを言っていた。環境に慣れるのは恐ろしい。
そして、前半はともかく、最後の方はセレティアもじゃないか?と思ったのは秘密だ。
『…分かったけど、報酬は?俺の特訓の時間を割いて行くんだ。それなりに価値のある報酬じゃないと』
『私とデート《殺し合い》でいいでしょ?いい思い出《特訓》になるわよ』
『うん。もういいです。行ってきます』
そんな会話を十二歳と十五歳の子供がしているのがこの世界。本当に怖い世界だ。
しかも、セレティアの殺すは、本当に殺すわけではないが、瀕死の状態には持っていく。俺は一応常識は持っていたから、殺すと言っても骨が折れるギリギリを狙っている。
そして、授業が終わってすぐに学園の一年生が居る教室に来て、片っ端から探す。この時、セレティアにどこに居るか聞いとけばよかったと後悔していた。
まず、最初に行くのは学年の最も優秀な者が集まるS組。
居ないだろうと思って教室の扉を開けると、すごい光景があった。
『オイッ!テラを呼んでこい!』
教室の真ん中に、二人の女子生徒が並んで四つん這いの姿勢をしていて、その上に座るデブでキモくて傲慢そうな奴が座っていた。
こりゃ、すげぇ。
この光景を見て、素直にこの言葉が出た。
セラとはおそらく姉さんの友達だろう。
『チッ、動くなよ!』
そう言って女子生徒の尻を叩くデブでキモくて傲慢そうな奴。
女子生徒は教室の扉側に向きって四つん這いになっており、俺は顔が見えた。
その時、この光景を俺の正義の心は許しておけなかった。
『おい、デブでキモくて傲慢そうな奴。まず立て』
突然の俺の言葉に、教室内では怯える者や笑いを堪える者も居た。
『はぁ!?俺を誰だと思ってんだ!?公爵家アスロメア家次期当主ヴァリアント様だぞ!というか、お前誰だ!』
『元々は、あいつからのお願いだったけど、今はそんなことよりロタナスの剣としてロタナスの害悪を排除する』
俺はヴァリアントを無視して、そう言葉を続けた。
『あいつからのお願い?あぁ、テラか。ハハッ、そうか。助けを求めたのかあいつ』
そう言うと、ヴァリアントは立ち上がり、俺の肩に手を乗せた。
『可哀想だな、お前。テラのせいで、お前の家もテラの家も無くなるんだからな』
身長差があり、ヴァリアントは俺を笑いながら見上げ、俺は鋭い目つきで見下す。
そして、笑いながら教室を出ようとするヴァリアントを俺はまず、その蹴りやすいように出ている腹を軽く蹴った。
そう。軽く蹴った。だが、その蹴りには感情が乗っていたのか、教室の壁を破壊して、外へ出ていってしまった。
幸いにもここは一階。落ちるのを心配する必要がない。ただ、骨は逝ったっぽいな。まぁ、こんなことをしているのだから、報いをいつか受けることは覚悟していただろう。
『あ、あの、先輩。ありがとうございました。でも、先輩の家が…』
『大丈夫。うちはロタナスで最も陛下から信頼されている。それに、今回の件はこの学園で一番怖い人から頼まれたからな』
俺はヴァリアントに尻を叩かれた女子生徒にそう言って、ヴァリアントが転がっている所へ行く。
壁は見事にヴァリアントの全身の穴が出来ている。ここまで綺麗な穴が出来ると、これは直すよりそのままの方がいいな。
そんなことを思いながら穴を通り、起き上がろうとしているヴァリアントと目が合った。
『ヒッ!す、すみませんでしたぁ!まさか、あなたがあのカラン・トレイアとは思わず!』
ヴァリアントは土下座をしている。
にしても意外だ。あんな奴がこんな簡単に頭を下げるとは。それに、痛がっているが
『もうこんなことはしないと約束出来るか?出来ないなら、もうちょっと遊んでもいいぞ』
『出来ますッ!出来ますッ!もうあんなことしません!謝ってきまぁーすッ!』
そう言ったヴァリアントは、腹を抑えながら走って行った。
これが俺とヴァリアントの出会い。実に最悪な出会い方だ。そして、これからはなぜか仲の良い後輩になるのだった。




