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過去からの贈り物①

祈りの塔からようやく離れることができた二人は森の中をあてもなく走り続けていた。

「ねえ追ってきていないようよ」


マルーシャが後ろを振り向きながらランドに叫んだ。

「そのようだな。あいつもこの森の恐ろしさは知っていると見えるな」


「でも、あの場所にいたということは、彼らはこの森の中でも迷っていないってことでしょう。いったい何者なの?」


「あいつは光の剣を持っているからな。この輪の剣の場所は光の剣と共鳴していて探り当てたんだろう。それにあいつも俺たちと同じだからな」


「えっ? 光の剣? なんの話しをしているの? それに何が同じなの」

ランドはマルーシャの問いかけには返事をしなかった。しばらく沈黙が続いてハッと気が付くと川の音が前方の方で聞こえて来ていることに気がついた。  


周囲を見渡すと、いつのまにかペルトウ平原に抜ける道にでてペルトウ平原の方角に向って走っていた。


「マルーシャ、この辺は方角からして墓の近くだ…ダノンお前覚えていたようだな。道にでるとはさすがだ」


ランドがそう言うとまるでその通りだと言おうとしているかのようにダノンがヒヒーンと鳴き声をあげた。


「ダノン、さっきも私を助けてくれたわね。ありがとう。そうだわ、リアはどうしたかしら?」


マルーシャはさっきの場所からかなり離れて道なき森の中をやみくもに駆けてきていたことに気がついて後ろを振り向いた。


「リア!」

マルーシャが振り向くとリアはダノンの後をついてきていた。

「よかったわ、ダノンあなたのおかげよ、ありがとう」

マルーシャはダンンの髪をそっとなでた。そして、ランドをいぶかしげに見つめるとランドに聞き返した。


「ランド、まさかとは思うけど、さっきの場所がどの辺りでこの道にでるにはどう走ったらいいのかわかってたの?」


マルーシャがランドの方をみると、ランドは剣を持った手で、手綱を持ち空いた手で方位磁石をのぞいていた。


「いや、わかっていたのはダノンの方だろうな。さすがにこの森の中じゃ俺の方向感覚なんか当てにならないさ。さっきの塔へ行ったのは初めてだが地図によると、あそこから墓地はそう離れていなさそうだったからな。川にでたら道をそれて暫くいけば辿りつけるはずだ」


「そんな適当に走ってたどり着けるの? どの道を通ったってこのシアフィスの森の中じゃあ景色は同じでしょ。川にかかってある橋や景色は少しつづ違うように見えるけど」


「よく周りに意識を集中してみろ、何も感じないか?」

ランドの言葉でマルーシャは目を閉じ心を落ち着かせ、木々のさえずる音に耳を澄ませた。


「なんだかへんな感じがするわ。そうこの先の方から、なんて表現したらいいのかわからないけど、なぜか懐かしいような…」


「キューラの都の人々の墓の周りは普通の雑草と木々の中に埋もれている墓だ、さっきのような建物はないし行ったところで何の感動もない場所だ。むしろ亡霊をさらに呼び込む場所だから敵は近寄らないだろうが、今の俺達ならこのまますぐシアフィスの森を抜けるより安全といえば安全だろうが…どうする?」


「…行くわ、このチャンスを逃したら今度いつこられるかもわからないし、もうさっきの人達とは鉢合わせしないんでしょう。私行ってみたいのよ。キューラの都の人々が眠る場所に、いいえ行かなきゃ行けない気がする」


「わかった、明るいうちに墓に向かおう。あそこには昔の剣の墓もあるからそこでこいつの鞘も見つけないとならないしな。それよりマルーシャ首は大丈夫か?」


ランドは白い布をポケットから取り出しマルーシャに手渡しながら言った。


「えっ? あら血がでてるのね。少しかすっただけよ。でも一応傷口を押さえておくわ。それにしてもそこに剣のお墓なんて場所あるの?」


マルーシャはランドに言われるまで、自分が首から血を流していることに気が付かなかった。

マルーシャはランドから受け取った布を首にあてながら振り向き目の前のランドの顔を見ながら聞き返した。


「ああ、昔の人は剣にも魂が宿っていると信じられていたようだな。使わなくなった剣は墓に葬るならわしがあったようだな。この剣の鞘も実は昔そこでみつけたものなんだ。この剣は俺の家に昔からあるものなんだが、もともとこの剣には鞘がなかったんだ。ずっと使われずに譲り受けてからもそのまま木箱にしまったままだったんだが、戦いが始まってからなんとなく気になって使おう思ったんだが、鞘がどれもあわなくてな、一つだけ、昔偶然ここで見つけて勝手に使っていた剣の鞘がピッタリあってずっとそれを使っていたんだが。詳しいことはここでは言えないが、この二つの剣はお婆に言わせれば、こいつもそうだが、ラールノダ時代の繁栄と崩壊の鍵を握る光の剣と対になっている輪の剣ってものらしい、さっきのあいつはその光の剣の一つを既に手にしているから、こいつはあいつに奪われるわけにはいかなかったんだよ」


「光の剣? ラールノダの繁栄と崩壊? それどういうこと? ねえランドはどこでそんな事を知ったの?」


「マルーシャ、いつか時期が来れば、お前も全ての真実を知る時が来るはずだ」

「何を言っているのかわからないわ。あの人は何者なの?」

「…」

マルーシャはランドがどう答えていいのか考えあぐねている様子に小さくため息をつくと、ランドに向って付け足した。


「ねえランド、あなたはさっきの人の正体を知っているんじゃないの? もしかしてお母様を殺した刺客はあの人達の仲間なんじゃないの? お母様が宝玉を持っていたとか言っていたじゃない。それにあなたが何者かに狙われてサミュが怪我をしたあの時もあの人達の仕業なんじゃないの? ねえあなたとあの人はどういう関係なの?」

「…」

ランドは何も答えなかったがマルーシャはかまわず話続けた。


「ランド、サミュが怪我をした時の事覚えてる? あなた私に言ったわよね、しなければいけないことがあるって、それがあの人と関係があるの?」


マルーシャの言葉にランド何も答えようとしなかった。それをみてマルーシャは視線を周囲の景色に移して黙り込んでしまった。


「マルーシャあそこの川辺で少し休もう。ダノンもリアものどが渇いてるようだ。お前の首の傷も洗わないとな」


そう言うとランドはダノンの手綱をすぐそばを流れていた川の方に引き、川岸までくるとダノンからおり、剣を地面に置きマルーシャをおろした。


後ろにリアもついてきていた。二頭は川に近づくと、水を飲みだした。ランドはマルーシャから布を受け取ると、川の水に浸し血を洗い流し、もう一度マルーシャの首の傷にあてて傷口の血の後をふき取りアルーシャにもう暫く押さえているようにうながした。


「そういや、前にもこんなことあったな。あの時は夜だったが」

ランドは川の流れに視線を移しながら言った。


「そうね、あれからもう随分たつわね」

マルーシャは暫く首に布をあてていたが、傷が浅かったらしく血が治まったようなので布をはずしランドに返しながらランドの横に立った。


「マルーシャ…」

ランドは何かを言いかけたが口を閉ざした。そんなランドに向ってマルーシャはランドの瞳を暫くじっと見つめてから、大きなため息をつくとくるりと向きを変えた。


「あああっ! もういいわ。もう無理に聞かないわ。いつか私に話せる時がきたら話してちょうだい。その時まで待つわ。でも、これだけは教えて、全てラールノダ復活に繋がっているの?」


マルーシャはうすうす感づいているようだ。だがあえて無理やり聞き出そうとしない。そういう性格だ。そんなマルーシャの為にもいつか、ラールノダをこの手で復活させなくては、悲しみだけを残して今もさ迷い続けているこの霊達の為にも…ランドは周りに彷徨う霊の存在を感じながら心の中でつぶやくと、マルーシャの背中を見つめながら話はじめた。


「マルーシャ…以前、お前がラールノダがあった時代のような世界を作りたいと言っていたことを覚えているか? 俺も同じ気持ちだ。そのためにこの剣が必要だったんだ。俺もまだ知らないことだらけで詳しいことは今は言えないが、いよいよ時が動きだしたようだ。あいつはこの剣も手に入れようとしている。だがあいつに渡すわけにはいかないんだ。あいつはこれから本格的に俺の命とお前も狙ってくるだろう。あいつの真の目的はラールシアとフィスノダの両方を手に入れることだからな」


「ラールシアとフィスノダを手に入れる? そんなこと不可能じゃないの?」

「マルーシャ…」


ランドはマルーシャに真実を打ち明けるべきか迷ったが今口にすべき時ではない気がして言いかけた言葉を飲み込んだ。


「今言えることは、あいつは恐らく、ラールシアやフィスノダ以外の第三国ともつながりを持っているおそれがある。あいつがこの国の滅亡を狙っている以上、お前の命も確実に狙ってくるだろう。城に戻ったらお前の身は厳戒態勢で警護するように国王陛下に願い出るつもりだ。だからお前は今までのように一人で城を抜け出すようなことを絶対するなよ。たとえ俺の身に何が起ころうともだ。いいな!」


マルーシャは大きく首を横に振りながら振り向きランドの顔を見上げた。

「ランド…私の命とランドの命は二人で一人分なの! ランドの身に何かあったら私は私でなくなる。そんなこと今さら言わなくても前からわかってることでしょ。私の代わりに王になれる人はいくらでもいるけど、私にとってランドの代わりになる人なんて一人もいないのよ。ランドがどう言おうと、あなたがそばにいてくれないんだったら、私は女王にならない。ランドと私は一心同体なのよ。片方のどちらかがなくなっても駄目なの。だから…この旅が終ったらなるべくランドの負担にならないように気をつけるわ。王女らしくなるように頑張ってみる。だから…いなくなるようなこと考えないで。ランドの心が私を突き放しても、ずっと待ってるから、だから…待つなって言わないで。あなたがいなくなるかも知れないなんて言わないで…」


「マルーシャ…そうだな、俺は絶対に死なない。いつか二人でラールノダを復活させて、このさ迷う魂達を解き放ってやろう。マルーシャ、これを持っていてくれ。これは俺の家に代々伝わる指輪で俺の母親の形見でもあるんだが」


ランドはポケットの中から大切そうに小さな袋を取り出し、袋を開け中から指輪を取り出しそれをマルーシャに渡した。マルーシャはその指輪を驚いたような顔で眺めながらつぶやいた。


「不思議ね、これよくみると私のもっているのとよく似ているのね。でも…そんな大切なものを本当に私が持っていてもいいの?」


ランドは返事のかわりに黙って頷いた。するとマルーシャはそれを右手の薬指にはめると、自分の首につけていた指輪の通ったネックレスをはずし、指輪だけ抜き取りランドに手渡した。


「じゃあ代わりにこれをランドが持ってて」

「これはスーリア王妃様からいただいたものなんだろう、片時も外すことがなかったじゃないか」

ランドは手にしている指輪をマルーシャにつき返そうとした時マルーシャが付け足した。


「そうよ、昔お母様からいただいたものなの。これはお母様のお父様から受け継いだものなんですって、その裏にも小さいけれど昨日骨董屋のおじさんにもらったものと同じ紋様があるわ。ランドが持っていたこの指輪にもあるのね。もしかしたらこの二つの指輪ラールノダ時代から存在していたものかもしれないわね。おじさんの言ったことが本当なら、この指輪もラールノダゆかりのものかもしれないわ。それは私が指にするには大きすぎたからずっとネックレスに通してずっと持っていたの。今は私の分身みたいなものだわ。だからこの旅が終ったら、今のように接することができないのなら。私の代わりにこれを付けていてほしいの。お願い」


ランドは暫くその指輪を手の平に乗せていたがぎゅっと握り返すと、その指輪を右手の薬指にはめた。

「分かった。これは預かっておくよ」


マルーシャは突然ランドに飛びついた。そして暫くランドの鼓動の音を聞いていた。ランドはあえてマルーシャを払いのけなかった。


「ランド、きっと全てがうまくいくわ。光はいつもここにあるもの」

マルーシャはそう言いながらランドにさらにきつくしがみついた。

「ああそうだな。俺達の光はここにある」


ランドはアルーシャをきつく抱きしめ返しながら言った。暫くそのままでいた二人の間に突然ダノンとリアが近づき二人の顔をなめるとヒヒーンと声をだした。


「そうね、あなた達もいるものね。頼りにしてるわよ」

マルーシャはランドから離れると、二頭の馬のたてがみを撫でてやった。

それを見ていたランドは伸びをした。


「さあそろそろ墓参りに行くか。暗くなってきてからじゃあ怖いだろう」

「そうね、たとえご先祖様でも夜の墓地だけは避けたいわ」

マルーシャは大げさに身震いした。二人はそれからそれぞれの馬に乗り一路ラールノダ時代の墓地に向かった。





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