過去からの贈り物②
二人が暫く馬を走らせていると、ランドは見覚えのある景色が見えて来た。
するとランドは馬を止め、後ろからついてきていたマルーシャに向かって振り向きながら叫んだ。
「マルーシャそろそろだからここからは馬をおりるぞ。そうしないと馬から振り落とされてしまうからな」
「ランド、もう着いたの? 全然見えないじゃない? どうして馬からおりないと振り落とされてしまうの?」
ランドが先に馬からおりていたのを馬上から見ながら聞き返したマルーシャだったが、ランドはなぜか周囲をしきりに気にしている様子だった。
「死者に対しての礼儀だよ。ここで眠る人達は馬上から見下ろされるのがいやなんじゃないのか」
「ランドは前来た時、振り落とされたの?」
「・・・」
マルーシャの問いには何も答えなかったが図星のようだった。マルーシャはランドが馬から落ちる姿を想像しながら一人クスクス笑い出した。
「変な笑いしてると先に行くぞ」
「あっ待って」
マルーシャは慌ててリアからおり手綱を持ちながらランドの横に駆け寄った。二人は並んで雑草が生い茂る道なき道を進んで行くと、木々の隙間から二人の目の前に周囲を木々やツタが覆い隠しているようだったが、かなり広い草原のような場所が見えて来た。
その場所は周囲の雑草が多い茂る場所とは違い、一面様々な花が咲き乱れ、ところどころに様々な形をした彫刻が施された石の像が置かれていて、その下には平らな石に名前らしき文字が刻まれているのが見えて来た。
長い間人の訪れることのなかった場所のはずなのに、草木も茂っていなし、まったく澱んでいないなんて
「ここが墓地なの? 素敵な場所ね。想像していたのとまったく違ったわ。長い間人の訪れることのなかった場所のはずなのに、草木も茂っていなし、まったく澱んでいないなんて…でもなんだかみんな寂しそう…ここで眠りについた人々が天国から時折おりてきて、この場所で唄を歌ったりしているみたいだわ。でもこんなに綺麗な場所にいても、人恋しくなるのかもしれないわね…ここには生きた人達が訪れることがないんですもの…人であった記憶が懐かしくなるのかもしれないわね。だからこの森に入って道から反れた人達をみるとうれしくなってついいたずらをしてしまうのね。みんな人恋しいのよね」
「マルーシャ…お前、何か見えるのか?」
墓地の中の墓石を一つ一つ手で触れながら、まるで会話しているかのように楽しそうに歩いてまわっているマルーシャに聞いた。
「いいえ、なんとなく感じるだけよ。会いに来てくれてうれしいって。ふふふっ。私もこれてうれしいわ。でもごめんなさい。私達はここの存在をいつの間にか忘れてしまっていたのよ。いつになるかわわからないけれど、いつの日にか。争いのない世の中になったら、もっと大勢の仲間を連れてお墓参りにまた来るわね」
マルーシャはそう言いながら時間をかけて多くの墓を一つ一つ順番に立ち止まりながら何かに語りかけるようにして歩いてまわった。
どれだけの時間が過ぎただろう。ようやく端の墓まで行ったマルーシャはふいに振り返りランドがどこにいるのか捜そうとしたその時、マルーシャの耳に何者かの声が聞こえてきた。それは今までの声とは違う声ではっきり言葉が伝わってきた。
(よく来た我が子孫達よ。我はラールノダ王国最後の王だ。ずっとお前達が来るのを待っていた)
頭の中に直接響いてくるその声は耳を塞いでも聞こえてきた。マルーシャは不意に怖くなってランドを捜した。
「ランド! ねえどこにいるの? ランド!」
マルーシャは墓地を走り抜け入り口まで戻ってきた。周辺をキョロキョロしながらランドの姿を捜していると、入り口から右側の端にほとんどツタでおおわれているが何か人工的に作られたかのような背丈ほどのレンガ造りの建物が目に入ってきた。
よく見ると、扉らしきものが開いているのが見えた。近づいて中を覗きこんでみると、中は明るく隙間から光がさしこんでいた。そして思ったより中は広く、地下に空間があるようで階段が下に続いていた。入ってすぐの部屋にもたくさんの剣が無造作に置かれていた。
中にはさびて使い物にならないような物もあたったが、中には剣や鞘に素晴らし装飾が施されたものもあった。手入れをすれば十分今でも使えそうなものが多く目に付いた。
ランドの姿は見えなかったが、何かを探しているかのように剣の山の中を掻き分けるような音が階段の下から響いていた。
「ランド! 中にいるんでしょう! さっきから呼んでいるのにどうして返事してくれないの?」
「ああ、ここだ。もう少し待ってろ!」
「ねえ、それどころじゃないのよ。声が聞こえるのよ」
マルーシャはそう言いかけてふと自分の横に何か白い影がいるのに気が付いた。
「でっでた~!」
マル―シャはそう叫ぶとあわてて階段を駆けおりた。階段をおりると、そこにも部屋があり山積みの剣があった。
ランドはその剣の山の前に腰をおろすと一つ一つ自分の剣にあう剣の鞘を探しているようだった。
マルーシャはランドに駆け寄るとランドの背中のマントを掴んで力任せにひっぱった。
「マルーシャ、いい加減にしろよ」
「あっあれあれ…」
言葉にならない声を出してランドのマントをひっぱってくるマルーシャにランドは険しい口調でマルーシャを睨み付けた。
「邪魔だから上で散歩でもしてればいいだろうが、敵なんてきやしねえよ。俺は剣にあう鞘がないと旅の途中移動しにくいんだよ。鞘だけ作ってもらうのにも時間がかかるし、とりあえず収まるのを探さないと」
「何言ってるのよ。そっそこよ、あなたには見えないの? そこに白いおひげのおじいさんが立ってるじゃない。あれ何?」
マルーシャはランドの服を掴みながら右手でランドの横でこっちを見ている老人を指差した。
「あああれか、ここの墓の墓守の爺さんのようだな。今日は馬で直接乗り入れたりしなかったから今回は何も悪さをしないだろう。前に来た時も馬からおりれば何もしなかったから安心しろ。ただおの霊だ」
「霊? えっ幽霊ってこと、おっ可笑しいでしょ。どうしてそう冷静なのよ」
「はあ? ここは墓地なんだぞ、幽霊の一体や二体いて当然だろう」
冷静にいうランドにマル―シャはパニック寸前になっていたがランドの態度に幾分か落ち着いてきた。しかし、何か仕切りに話しかけてくるその幽霊をまだ警戒してランドにまた話かけた。
「でっでも、何かしゃべっているじゃない。それにさっき向こうで声が聞こえてきたのよ」
マルーシャの言葉にランドは老人の影に視線を向けたが何も聞こえないようだった。
だがマルーシャにはその老人が話す声が耳に聞こえてきていた。
「何も聞こえないぞ。お前には聞こえるのか? なんて言ってるんだ」
「だってだって、こんなにはっきり聞こえるじゃない。本当にランドには聞こえないの?」
「死者の声なんか聞こえるわけないだろう。で、なんて聞こえるんだ」
「探している剣の鞘ならあっちにいいのがあるって。国王様が会いたがっているから一緒に来いって言っているわ」
マルーシャがそう言うと老人はにっこり笑って手招きしているように見えた。
「本当にそう言ってるのか?」
「ええそう聞こえるわ。それにさっき上で、別の声を聞いたわ。ずっと来るのを待っていたって、ラールノダ最後の国王様だって…ねえどうするの? 地獄かどこかへ引きずり込まれたりしないかしら?」
マルーシャは目の前に幽霊が見えている現実が信じられないと言わんばかりに震えながらランドの服に顔を押し付けながらランドに話した。
「お前なあ…ここにいる幽霊ってことは俺達の遠いご先祖様かもしれないんだろう。悪さなんてしないんじゃないのか。それにここにいるってことはラールノダ国時代の幽霊ってことになるだろうがお前ラールノダ語わかるのか?」
「わかんないわよ、でもなんとなく何を言っているのか理解できるのよ」
マルーシャはおそるおそる顔を上げて老人の幽霊に向かって頷いた。
「どうした?」
「あのね、この赤い宝玉の部分を耳にあてるとランドにも聞こえるって」
マルーシャは自分の首にかけていた赤の宝玉のついた砂時計を外しランドに渡した。
ランドはその砂時計の宝玉の部分を耳に当ててみた。
(久しぶりじゃな。お主は前にも来た奴じゃな。その剣の本当の鞘は国王様のそばにある。二人を長い間待っておられた。わしについてくるがよい)
ランドは信じれないといった様子で耳から離したりつけたりしてみたがやはりこの石を通して聞こえてくるようだった。
だがどうしてマルーシャは何もなしでも聞こえるんだ。そう心の中で思っているとまた声が聞こえてきた。
(わしはそなた達の魂にじかに語りかけておるから言葉は関係ないのだ。その娘は赤の力を体内にすでに持っておる。赤の力は見る力、聞く力、すなわち時を司る力。ちなみにお主の持つ緑の力は、それを活かす力、行う力、すなわち全てを導く力。お前達二人がくるのをずっと待っていたのだ。その方位磁石も砂時計も無事持つべき持ち主にたどり着いたようだな)
ランドはその声を聞いて驚いた顔で老人の方に向き直った。隣にいるマル―シャも同様に驚いた顔をして目の前のなぞの老人をマジマジと見入った。
「すごい…じゃあ本当に会えるの? ラールノダ最後の国王様に、素敵…まさか…こんなことが起こるなんて」
マル―シャは怖い気持ちが一気に消え興奮気味に叫んだ。
それに比べてランドはまだ信じられないという態度でじっと目の前の老人に視線を向けていた。
(骨董屋の店主が言っていた老人はこの老人だったようだな、死してなお生きている人間に影響させるほどの力があるとはいったい何者なんだ)
ランドは心の中でそう考えながらもこの老人が生きている人間でないことはわかっているだけに、不思議な感覚に見舞われていた。まだ警戒を完全に解いていないランドに対して、マル―シャは既に興味深々で前のめりになって目の前に見えている幽霊の老人に目が釘付けになっていた。
すると老人はランドの心の声が聞こえているかのように何度も頷いて二人に手招きをして出口にのぼって行くのが見えた。
「一人だと怖いけれどランドが一緒なら安心だわ。行ってみましょうよ。まだお昼前だし!」
マルーシャはそう言うなりさっきまでの震えがうそだったかのように生き生きとしながらランドの腕に自分の腕をまわしながらランドの腕をひっぱった。
ランドはマルーシャに引っ張られながら二人揃って老人の霊の後について外に出た。




