過去からの贈り物③
二人が地上に出ると、老人は二人を待っていて、スーッとまた進みだした。二人は老人の後を歩いて行くと墓地を突っ切り再び森の中へと入って行った。
しかし不思議なことにここに到着した時は墓地全体をぐるりと木で覆われてどこにも道など通じていないように思っていたがなぜかその老人の霊が歩くと新しい道が現れた。
暫く行くと、再び視界が開けたかと思うと、今朝いた場所とよく似た建物が建てられている場所に到着した。
そこもまた石がビッシリとひきつめられ草一つ生えていなかった。ただ今朝の塔と違うのは、建物の形がお城の形をしていることだった。
ただ、その建物は木々とほぼ同じような高さで、まるで建物が地面に埋まってしまっているかのように地上に見えているのは屋根の部分だけのような建物があった。
そして建物の前には石碑が建てられ、文字が連なって刻まれていた。二人にはその文字がラールノダ文字である事に気づいたが何が書かれているのかは読み取れなかった。
「ねえここって歴代の国王様のお墓かしら?」
マルーシャはランドにしがみ付いたまま建物を見入りながら言った。
「そうかもな。だが…こんなものがまだ崩れずに存在していたとは…墓地の近くにあるのに前来た時はまったく気づかなかった」
ランドもまた頭が混乱していた。こんな場所がまだ存在し、誰の目にも触れられずにいたのが不思議でならなかった。ランドは以前散々シアフィスの森の中を探索して、わざと道を外れたりしながらようやく見つけたのがあの墓地だけだった。普段こういった現象は信じないランドも今回だけは自分でも何かに導かれているような不思議な感覚を覚えた。
(光の子らよ、この石碑に聖なる赤と緑の光をかざし右手で触れるが良い)
二人がその場で呆然と立ち尽くしていると、二人の耳元に声が響いた。ランドはマルーシャに赤の石を返すと、二人は同時に言われるままに赤と緑の宝玉を石碑にかざし、互いの右手をその石碑に触れると、その下から地下通路が現れた。
「ランド、この中に入れって事かしら? ねえどうするの? こんな暗くて薄気味悪そうなとこに入るの?」
マルーシャがランドの服を引っ張りながらランドの顔をうかがって言うとランドは手をかざしただけで開いたその仕掛けの方が気になるようにしていたが正気を取り戻し二ヤリとした表情をみせマルーシャに言った。
「入った方がよさそうだな。ここの地下も発光液が塗られているんじゃないのか? わりと明るいぞ、何百年も昔に立てられたはずの建築物のはずなのに…すごい技術だ」
ランドはそう言うなりマルーシャの腕を払いのけ、狭い通路の地下へと続く階段を先におり始めた。それを見たマルーシャもあわてて後に続いた。下までおりると、意外にも中は広く端が見えないほどだった。その空間の中には石で作られた数多くの棺が安置されていた。
(よくきた光の子らよ)
二人が一番手前にあった棺の前までくると突然その棺が光だし、光の中から王冠をかぶった国王らしき人物の姿が現れた。そしてその光はその室内の天井をひと回りすると、 二人の真上で止まりまた声が聞こえてきた。
ランドにもその不思議な声は直接聞こえてくるようだ。二人が驚いてその姿を見ていると、その国王らしき霊から声が聞こえてきた。
(ここはラールノダ王家の一族が眠る場所である。我はラールノダ国王ゼルジオラス。今を生きる光の子らよ…ここにある鞘にお前が持つ剣を収めるがよい。この鞘は真の輪の剣の鞘である。そなたはその剣の正当な持ち主にして、光の剣の継承者である。忘れるでないぞ。光の剣は今も天と地の狭間で眠りについている。光と闇が再び交わりし時、再び悲劇が巻き起こる。光の子らよ…余の砕け散った宝の破片を一つにできるのはそなた達しかおらぬ。希望の光、しかと託したぞ)
そう言うと国王の姿が消え、部屋は急に薄暗くなったかと思うと、目の前の祭壇の上に剣の鞘が置かれているのが目に入ってきた。ランドはそれを掴むと自分の剣を差し込んでみた。すると不思議なことにピッタリと納まった。その新しい鞘のついた剣を今朝手に入れたもう一つの輪の剣の横に取り付けると、ランドの体が急に二つに引き裂かれるほどの衝撃がはしった。それはまるで二つの剣が共鳴し合っているかのようだった。
「ランド大丈夫?」
マルーシャはその場で固まってまったく動かないランドの腕を揺すりながらランドの名前を叫んだ。暫くしてランドは薄れかけた意識の中でマルーシャの声を聞き取り意識を取り戻した。
「マルーシャ…ありがとう、もう大丈夫だ」
ランドは左手で二つの剣を手に握りしめ、剣の存在を確認しながら周りに意識を集中させた。すると頭上から地響きのような音が響いてきた。
ランドはハッとして足元をみると、水がどこからともなく流れだしてきていた。ランドはあわててマルーシャの手を掴むと、来た階段をかけ登った。二人が地上に出たと同時に石碑が動きだし元に戻り、入り口が閉まってしまった。
マルーシャはへたへたとその場に座り込んでしまった。ランドも無言のまま墓を背にして座り込んだ。そしてどれだけの時間が過ぎたのかマルーシャがランドに静かに話しかけた。
「ランド、今のどういうことだと思う? 夢じゃないよね。死してなお待ち続けている宝って何かしら?」
マルーシャの言葉にランドもようやく正気になり、真っ直ぐに何かを見据えるかのような眼差しで遠くの方に視線を移した。
「この俺の剣には計り知れない苦悩が刻み込まれていたようだ。今まで鞘がなかったことでその思いが剣へ流れ込むことはなかったんだろう」
「ランドのその剣もラールノダ復活に関係しているの? 祈りの唄にも剣って言葉がでてくるわよね? ねえランド、私思ったんだけど、もしかしたらあの唄を作った人も何かゼルジオラス国王様と関係があるんじゃないかしら? ラールノダが復活すれば本当にラールシアとフィスノダの人々を光へと導いてくれるのかしら? 」
「さあな…ゼルジオラス国王が言っていた光の宝剣のこともラールノダの伝説も今はわからないことだらけだ。だが一つだけわかっていることがある。近い将来の祈りの塔の所であった奴とは決着をつけないといけない日が来るってことだ。あいつがこの宝剣を奪いにくることは明らかだ」
ランドは最後まであえて言わなかったがマルーシャにはわかった。マルーシャは立ち上がるとランドの座っている真ん前に体を動かし、あぐらをかいて足の上に両手を置いていたランドの手を握るとしゃがみ込み、じっとランドの目を見詰め返した。
そしてゆっくりランドの首に腕を絡ませ、マルーシャはそのままの姿勢で語りかけた。
「でもランド…あなたは一人じゃないわ。全てがラールノダ復活に繋がっているのだとしたら、ほら祈りの唄にあるじゃない。
(我は見たり 己に課せられし運命の壁に立ち向かおうとする若者たちを
困難な状況下でもなお友と肩を組んで笑う若者達を
今こそ達上がるのだ…)
って、あれはアルやルカ、私や軍の仲間達のことじゃないの? ランドがこのまま全部一人で背負い込んでしまったらもしかしたら、あの人に負けてしまうかもしれない。でも、あなたのそばにはたくさんの仲間がいるのよ。忘れないでランド、あなたは一人じゃないわ。一人で戦っちゃいけないってご先祖様達が教えてくれているじゃない。言葉も文字も捨てて生きる道を選んだ私達のご先祖様達がなぜ、あの唄を子供達に語り継いだのか? 私ずっと考えていたのよ。ご先祖様達はラールノダに絶望して別々の国を作ったんじゃないって思うの。私達は今度こそ、同じ過ちを犯しちゃいけないのよ。一人が全ての力を持たず、仲間同士で協力しあってこそ光の時代がくる。ねえ約束して、一人で背負い込まないって。お願い…私にも手伝わせてランド。アルやルカにも話せば協力してくれるわ。あなたは一人じゃない仲間がいるのよ」
ランドは改めて自分にはあってジイールにはない宝物を抱きしめずにはいられなかった。
ランドはマルーシャを改めてきつく抱きしめた。
「わかった…約束する」
その様子を墓のちょうどてっぺんに腰かけて微笑みながら見詰める二人の老人の姿があった。
老人達は顔を向き合わせ微笑みながらやさしげに頷きあっていた。
(王様、これで我々もようやくみなのところへ行けそうですな)
(ああそうだな。ようやく光の子らの元に希望の光が渡ったことだしの。彼らなら余の願いも叶えてくれるかもしれぬ。後は天で見守ろうではないか。この子らが作り出すこの国の未来を)
(そうですね)
(ではまいろうか。そちには長い間つき合わせてしまったな)
(いいえ、そのおかげでいろんなものを見ることが出来ました)
そして最後に、ゼルジオラス王がマルーシャに向かって何かを囁き、片手を振って微笑むと、突然眩しい光となり姿が見えなくなってしまった。マルーシャは頷くと手を振った。
「今、何か聞こえなかったか?」
ランドはマルーシャを離すと、いつものランドに戻っていた。
そして立ち上がると空を見上げた。マルーシャも立ち上がり光った方角に微笑みながらもう一度ランドの腕にしがみ付いた。
「たいしたことじゃないわ」
マルーシャはランドにはそれ以上言わなかったが、マルーシャにはこう聞こえていた。
(その若者の腕をけっして放してはならぬぞ)
二人の未来を照らすかのように一筋の光が頭上から差し込んでいた。




