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ドンバ港②

二人は宿をでると人が多く行きかう道を歩き出した。このドンバはラールシアでも港町にしてはかなり大きな町であった。異国からさまざまな物が運びこまれ、建物自体も独創的な雰囲気をかもしだしていた。


マルーシャは公式訪問でもまだ来たことがなかったせいもあり、このさまざまな商品が路上にまで並べられている夜店の雰囲気はとても新鮮だった。


ランドは周りの視線をかなり警戒していたが、マルーシャはお構いなしにあっちこっちと動き回るものだから次第にランドの表情が険しくなってきた。


「ねえランド、早く何か食べましょうよ。私あの棒にパンのようなものをグルグル巻きつけたのを食べてみたいわ」


「いい加減にしないと宿に戻るぞ! 大きな声でしゃべるなと言ってるだろうが」


「もう!、いい加減にしてほしいのはこっちよ。さっきから不機嫌な顔してばかりじゃない。お祭りなのよ。楽しんだっていいじゃない。私達も夜流ししに行きましょうよ。みんな持ってるあの船どこで売ってるのかしら?」


マルーシャは周囲を警戒するどころか、フードをはずし、キョロキョロ目を輝かせながら歩いていた。マルーシャはすれ違う人達が手にしている紙で折られた小さな船のような形をしたものが気になって仕方がなかった。


そんなマルーシャにランドの表情はさらに険しくなり、マルーシャの前に回りこむと、強引にフードを被せ、マルーシャの腕を掴むと、宿がある方向に向きを変え歩き出した。


「痛いわ。手を離してちょうだい。あなた気にしすぎなのよ。ここではいろんな人が歩いているじゃない。私が何者なのかなんていちいちみんな気にしていないわ。見てなさい! ねえそこのおじさん! 僕の顔誰か有名な人に似てると思うかい?」


マルーシャはランドに手をひっぱられながらちょうど通りかかった店の前で、骨董品を並べながら威勢よくかけ声をあげている白髪混じりの少し小太りな感じの店の店主に、空いている方の手で自分のフードを取り、片側の額だけかきあげ話しかけた。


 「いらっしゃい! わしに聞いているのかい? そうだなあ…いろんな人間をみてるが、あんたのような男前の顔を見るのは久しぶりだねえ。どうだい何か買ってかないかい、昔のもんだがいいのがたくさんあるよ」


店の店主はマルーシャの顔をチラリと見てからランドの方にも視線を向けてから作業の手を休め、二人の顔をまじまじと眺めながら言った。その言葉にマルーシャはすっかり気分をよくして、ランドの手を空いている手で振りほどくと、その店の店主の前に向き直ると、笑顔で話しかけた。


「やっぱり! おじさんもそう思う? おじさん商売上手だね。ねえねえおじさんの店いろんな国の物を売っているみたいだけど、おじさんはここの生まれの人?」


マルーシャは目の前に置かれたつぼや変わった形の置物や織物などいろんな物が並べられている店の品物を眺めながら聞き返した。


「どうだい、気に入りそうなものありそうかい? この店の物は骨董品ばかりだがいいのがたくさんあるよ。わしは生まれも育ちもずっとここだが、いろんな国に買い付けに行くからね。ここにあるのはバルジ、フィスノダ、ゲルベ、ギロダなんかの物もあるよ。その格好からして旅の人かい? どうだい、土産に一つ骨董品を買って行かないかい? そうだ夜流しにきたんだったら、これなんかどうだい?」


店の店主は多くの並べられているものの中から小さな船の形をした陶器の置物を手に取りマルーシャの目の前に差し出した。マルーシャがそれを手に取り眺めていると店主がその陶器を指差しながらさらに話しを続けた。


「そいつはここらで昔つくられていた古いものなんですがね。大きい声じゃあいえねえんですがね。最近の満月の夜流しはわしは好きじゃねえんですよ。いくら安上がりだからって紙の船に願い事を書いて海に流すってのはわしはどうも好きになれねえんですよ。翌朝港は紙くずだらけで海の神様も嘆いていなさるってもんだ。それに比べてそいつはその船の真ん中に穴が空いててね、海に浮かべる前に底の穴から月を見て願いをかけると願いが叶うらしいって言われているんですよ。最近じゃあ長年の戦争で夜流しが簡素化されて紙にかわっちまってて、それ自体作る職人もほとんどいなくなっちまったけどね。そいつは海に浮かべるとすぐ沈んじまうが、昔の人は海の中の神のところに届くようにあえて海の底に沈むように作ったらしいんだよ、それは海の底に沈むと形が崩れて海の一部になるらしいんですよ。値は少しはるがどうだい?」


「すごーい。海の神様。ねえねえ、これ買っていいでしょ」

マルーシャはすっかりその船を気に入ってしまい、目をキラキラ輝かせながら険しい表情をしてマルーシャを睨んでいるランドに向ってその船を差し出した。


ランドは大きな溜息をつきながらその船をマルーシャから受け取ると値段を確認し、懐から硬貨を数枚取り出すと店主に差し出した。店主はその硬貨を受け取ると、ランドにも話しかけた。


「ありがとうございます。ところであんた達は祭を見にこのここに来なさったのかい? それともこれから何処かの国に行きなさるのかい?」


店主は受け取った硬貨を数えながらたずねた。店主の問いかけに何も答えず、頭をさげてマルーシャの腕をもう一度掴んでその場を去ろうとしているランドに、マルーシャはランドの手を振り払うと、笑顔で店主に向ってしゃべりはじめた。


「もう、そう急がなくてもいいじゃない」

早くその場を去りたいランドに対して、マルーシャはなぜか店の店主ともう少し話しをしたい衝動にかられて、その場を動こうとしなかった。


「いいかげんにしろ」

ランドがマルーシャの耳元で小声で言ったがマルーシャはランドが強引に引っ張ろうとする瞬間スッと地面にしゃがみ込んで、店の前に並べられている骨董品を珍しそうに眺めた。


「僕達ね、ラミドの都からきたんだけど、明日はシアフィスの森へ探検をしに行こうかと思ってるんだ」

マルーシャがそう答えると、店の店主は少し驚いた顔をしたがすぐ笑顔になって言った。


「シアフィスの森の探検だって、度胸あるねえ、わしも若い頃よく入っていったもんだが、若いってのはいいねえ」


「おじさんもあの森の探索に行ったの? 何か見つけた?」


「そうだな見つけたのは一つだけだな。そういやあ、それえがきっかけで骨董屋をやろうと思ったんだったよ。懐かしいねえ」


「じゃあおじさんはいろんな国とか行くの?」

「もちろんだよ。世界に色んなものがあるからね。バルデの都には少し前までよく行ってたなあ。ここに並べてある半分はバルデの都で買い付けたもんだよ。いい品ばかりだからよく売れるんだよ。まっ、フィスノダとは長い間戦争してたけどな、民間人同士は関係ねえし、生きる為だ、いがみ合ってちゃあ生きていけねえからな。あっちはかなりいろんなもんが不足してたからね、食料やらいろんなもんを運んで代わりに家にある骨董品と交換してもらう商売に行っていたってわけだ。物々交換ってやつだな。ここからだと、世間には知られていない極秘船だが、バルジ行きの船でバルジに渡ればそこから山を越えればフィスノダの都は山越えすればすぐだからな。山越えは危険だが、戦場を通らずに行けたからね。よく行っていたもんだ。危険な商売だったがいい骨董品が手に入って大もうけだ」


「おじさん商売上手なんだあ。じゃあ、いろんな国をみてきたのなら、おじさんはどの国が一番いいなって思った?」


マルーシャの質問に店主はしばらく考えてから答えた。

「やはり、この国かなあ。わしは今まで商売がらいろんな国に行ったが、気候も景色も好きだがわしはこの国が好きな理由の一番はこの国の王女様だね」


「えっ、おじさんは王女様のどこがいいと思うんだい?」

マルーシャは自分の名前がでてきたものだから内心ドキッとしながら聞き返した。ランドはよりいっそう険しい顔になり、マルーシャの腕をひっぱって店から離れようとしたがマルーシャは立ち上がろうとせず、店主を見上げた。店の店主はすぐ後ろに置いてあった椅子に腰掛けて葉巻を一つくわえながら話はじめた。


「よく聞いてくれた。わしがこの国の王女様を特に気に入っているのは、フィスノダで聞いた話なんだが、戦争が終って帰国する時に王女様がラールノダ国があった時代の世界を目指したいって言ったって話を聞いたからなんだよ。それを聞いてな、わしゃあーうれしくなっちまってな。王族なんてわしらみたいな人間とは考えることも違うんだろうって思っていたんだけど、そうじゃなかったんだよ。わしのように骨董品を扱ってるとな、時々あの時代のお宝にであえることがあるんだよ。そりゃあすばらしいもんだ、何百年たってても色あせない技術、なんで滅んじまったのかね。今となっちゃあ、キューラの都があったらしい場所にはあの不気味な森が広がってるし。遺跡を探そうにも一歩脇道にそれでもしたら生きて戻れる確証もないとくりゃあ、誰も怖がって探索するって者もいやしない。まっ兄ちゃん達みたいな変り者はたまにあの森に入ってるって聞くけどね。本当キューラの都があったのかは今は夢物語だ。そりゃあすばらしいって言い伝えがあるぐらいだからあったんだろうけど。まっ、わしもラールノダの復活を願っている一人ってわけだ。わしらみたいな貧乏人の夢と同じ夢を王女様も持っていなさるってなんだかうれしいじゃないか。キューラ城なんてもうない、わざわざ復活させる理由もないっていう者も多いがね」


「そんなことない!」

マルーシャはおもわず大きな声を上げると、立ち上がり店の店主に向かって言った。


「キューラ城は必ずまだある。いつか争いがない世界になったらきっとキューラ城は現れるはずだよ」

マルーシャが言い終わると店主は持っていた葉巻を消してマルーシャに近づくと手を握り大きく頭をさげた。


「ありがとう。兄ちゃんもラールノダの伝説を信じているんだな…いやあーうれしいね。久しぶりだよ、この話をして笑わなかった奴にあったのは。よし、兄ちゃんにわしの宝物を見せてやろう。ちょっと待ってな」


そう言うと店の店主は店の奥に入っていってしまった。






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