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ランドの葛藤①

地下食堂では貴族たちを招いた宴の警備を終えた兵士達がテーブルに並べられた豪華な料理や酒を飲みながら宴会をはじめていた。


マルーシャは急いで自分の部屋に戻りいつもの服に着替えてから遅れて地下食堂についた。地下食堂をぐるっと見渡しランド達を捜した。ランド達は地下食堂の真ん中辺りに座っていた。


マルーシャはランドを見つけ声をかけたのだが、何も返事が返ってこず、いつもとはあきらかに様子がおかしかった。テーブルにはかなり度数が高そうなキールの酒の空の瓶がもう何本も転がっていた。


「ランドどうしたのよ、こんなにお酒飲んだりして」

マルーシャはランドの肩を揺らしながら話しかけたが、まったく反応せず酒ばかりあおっていた。


「おい、もうやめておけ! お前飲みすぎだぞ!」

見かねたアルが無理やりランドの腕から酒とグラスを奪った。


「よけいなことするんじゃねえ!」

ランドはアルからまた酒を奪いかえすと直接飲みだした。

マル―シャはその様子に隣でランドのことなど気にするでもなく豪華な料理を食べ続けているルカに問いかけた。


「ねえルカ、ランド何かあったの? 城に戻るまでは普通だったじゃない」


「ああ…大広間での宴にランドの親父さんが遅れて現れてな、ちょうどその時俺達は城の中全体の巡回の最中でな、偶然鉢合わせしちまったんだよ。でっ城の廊下でいつもの喧嘩をやらかしたってわけだ」


「鉢合わせって…確かお父様とは仲が悪かったわよね。ほぼ絶縁状態じゃなかったかしら」


「まあ、似た者親子っていうやつ、ランドの親父さんもあいつ以上にすごいからな。俺、今でも少しビビるもんな。まっ例のごとく今回も一方的にあいつがキレてただけみたいだったけどな…今回はサミュのことがあったからな」

ルカはわれ関せずといった様子で食べる手を緩めることなく口に食べ物を入れながらマル―シャに話した。


「サミュ? どうしてサミュがランドのお父様との喧嘩にでてくるの?」


「それは…まあなんだ…、とにかく親父さんと話した直後からあいつぶち切れちまってよ、親父さんをぶん殴っちまったってわけだ。もう宴が終了近くだったから騒ぎが大きくならないうちに先にこいつをここに連れてきて仕事に戻ったんだけどよ、終わってきてみたらこの有様ってわけだ、あいつにしたら珍しいことだよな。何をイラついているんだか……おいアルもほっとけよ、今のそいつは何いっても聞かねえよ」


肉を口に放り込みながらルカが言った。マルーシャもランドが気になったが今はそっとしておいたほうがよさそうだとルカの隣の空いている席の方に腰掛けた。


アルも諦めてマルーシャの向かいの席についた。


「ランド…親父さんを許したわけじゃなかったんだな」

席についたアルにルカが話しかけた。


「ああ、あいつの怒る気持ちもわからないわけじゃないが…あれはやりすぎだ、戦争が終ってからのあいつは何かおかしいしな。最近特に何を考えているのかボオーッとしてること多いし」


心配そうに酒をあおるランドをちらりと見ながらアルが言うとマル―シャがアルにまた聞き返した。


「ねえアル、ランドがどうしてランドのお父様とサミュのことで喧嘩しなきゃいけないの?」

「昔、あいつが家出した原因だよ」


「おい! 勝手にしゃべったりしたらあいつまた切れるぞ」

ルカが話を止めようとしたが、アルはチラリとランドに視線を移してから目の前にあった酒を一気に飲み干して話し出した。


「マルーシャも知っておいた方がいい、あいつの暴走を止められるのはマルーシャぐらいだ。あいつは何か隠しているのは間違いないだろうけど、俺達に話さないところをみたらまだ話せる段階じゃないんだろう。俺達はあいつを信じて待つしかないんだ。だがサミュは…みんなでなんとかしてやらないとな」


「ねえ何のこと? 確かにランドの様子はこっちに戻ってきてから少しおかしいなとは思っていたけど、時々いなくなるし…まあそれはいいとして、サミュと家出がどんな関係があるの? ランドは家出の原因は些細なことだってしか教えてくれなかったわ」


アルは荒れているランドをもう一度みながら話し出した。

「…あいつの母親が九歳の時亡くなったのは知ってるよな。だが生前から親父さんとうまくいっていなかったらしいんだ。その原因が親父さんの浮気らしい。親父さんはランドの母親が亡くなってすぐ、別の女の人を屋敷につれてきたんだよ。それも小さな子連れでな、それがどうやら親父さんの実の子だったらしいんだ」


「えっ! じゃあランドには母親の違う兄弟がいるってこと? そんな話初耳よ。えっでもちょっと待ってそれって…」


「そう、隠し子がいたってことだよ。それをかなり後になって偶然知ったランドが親父さんと大げんかしてあの家出事件ってわけだ。旅からランドが屋敷に戻った時には相手の人は既に出ていっていなかったらしいが、ランドも親父さんに頭をはさげたがその事には何も触れず、それっきり親父さんを避けるようになって、親父さんと面と向かって話すことがなくなっていったみたいだよ」


「そういうこと。今夜ばったりあってまた衝突しちまったってわけだ」

「ねえ? どうして今になってそんな昔のことでランドがああなるのよ?」

「サミュだよ」

「だからどうしてサミュがここにでてくるのよ?」


「本当に知らないのか? つまり、親父さんの隠し子がサミュなんだよ」


「えーっ! その話本当なの? ランドもサミュも二人が兄弟だったなんて一言も言ったことなかったじゃない」


「そうだろうな、あいつはサミュのことを弟だとは認めないって、ガンとして他人を装っていたからな。だけど、サミュがあいつをかばって怪我をしてからあいつの態度が一変したんだよ。あいつが今夜久々に会った親父さんにサミュのことを話したら、誰のことだか知らないってとぼけたんだよ。サミュの母親が亡くなった時も親父さんは知らん顔だったみたいだったしな。あの時もサミュがそれを人づてに聞いて一人になったサミュに、ちょうど国からの通達でどんな身分でも兵士になれば給金と勉強が同時に受けられるっていう募集があることをサミュに伝えて、サミュがそれに応募して最年少で入れるように手配してやったみたいなんだ。まだ年齢が若かったサミュなら、訓練兵として軍に入っても、成績優秀なら兵士以外の進路も可能だからってな。ランドの奴なりに弟だと心のどこかで認めていたんだろうな。なのに、親父さんからはサミュに何の援助もなかったようだな。それどころか、自分の息子が重傷だって知らされても顔色一つ変えずに、息子は目の前にいるお前だけだろうって言い切ったもんだから、あいつ…目の前にいた親父さんをぶん殴って、あの状態ってわけ」


アルとグランからはじめてランドとサミュの関係を聞いたマルーシャはあまりの驚きで思わず持っていたフォークを床に落としてしまった。


「おっ驚いたわ…ランドとサミュが兄弟? 本当に? 全然知らなかったわ…でもだからなのね…サミュがランドをかばって意識を失った時あんなに取り乱したランド初めてみたもの」


マルーシャは衝撃的な真相に暫く呆然としながらランドを見つめた。


「あいつは不器用だからな、許せなかったんだよ。自分のもう一人の息子が兄をかばって重傷だっていうのに…平然としらを切った親父さんの態度がな。それと同時に自分自身もな。どうしていいのかわからないんだよ」


「そっ、こんな時は飲みまくるか食べまくるかして怒りを紛らわすしかないんだよ…ほっといてやれよ」

ルカはそう言いながらまた食べはじめた。


「そう…そうだったの」

マルーシャは切ない思いでランドを見詰めた。

その時「パリーン!」とグラスが砕ける音が響いた。ざわついていた地下食堂が一瞬静まりかえり、音のした方に注目した。


ランドが持っていたグラスを握り潰してしまったようなのだ。ランドの左手は見る見る真っ赤に染まっていった。ランドはどこかを睨みつけるかのように険しい顔つきをしながらもどこか焦点が定まっていないようだった。


マルーシャは急いで立ち上がると調理場に行き、大きな水桶に水を灌ぐとそれを持って戻ってくるとランドに向かって思いっきり水をかけた。


「マルーシャ…」


「やっと正気になった? まったく、ほどほどっていう言葉を知らないの?」

正気を取り戻したランドに、マルーシャは無言で今度は血だらけの左手に水をかけてから丁寧にガラスの破片を取り除き、その場にあった白いフキンで止血した。


「ランド、今夜のこと聞いたわ」

「ちっ…おしゃべりどもめ」

「らしくないわよ。そんなになるまで飲んで…敵が攻めてきたらどうする気なの?」

マル―シャはランドの手に自分の手を添えてランドの目をじっと見つめながら言った。

「・・・」

ランドはマルーシャの問に何も答えず手を払いのけると食堂から出て行ってしまった。


「ほっといてやれよ」

ルカは後を追いかけようとしていたマルーシャの肩をつかみ引きとめたがマルーシャは黙って首を振りランドの後を追いかけて地下食堂を出て行った。


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