新たなる戦いの序章②
先に馬でモビレの砦に向かったナウルとサムは無我夢中で馬を走らせていた。
「早く、モビレの砦に知らせに行かないとサミュの命が…」
ナウルとサムは年は二人ともサミュより一歳年上だが同じ時期に軍に入隊していた為にサミュはこの二人とも仲が良かった。
やがて急ぐ二人の目の前にモビレの砦が見えて来た。2人が砦の前につくと、閉ざされていた砦の跳ね橋の前で叫んだ。
「開門! 開門! 我々はラールシア軍のアルーシャス王女殿下の護衛の者だ。開門願います!」
ナウルが叫ぶと、たいまつを持った若い兵士が砦の跳ね橋の監視塔から顔をだした。
「お前達の隊の指揮官の名前は? どんな用件だ!」
「俺の名はナウル。我らの指揮官はランシェルドティーゼルン殿だ。王女様と共にラールシアに帰還の途中ここから北の方角で仲間の一人が何者かに襲撃され意識不明の重傷なんだ」
ナウルが叫ぶと、監視塔から顔を出していた兵士の一人が叫んだ。
「ナウルだと? もしかしてナウル・ブルベイか?俺だ、キームだ。どうしたんだ?」
「サムか? 大変だ!サミュが何者かにやられたんだ。矢に毒がしこまれていて意識不明なんだ。今こっちに向かっている医師を呼んでくれ」
「わっわかった」
キームと名乗った若い兵士はすぐ姿を消し、間を置かず砦の跳ね橋がおろされ、中から軍人と白衣を身にまとった男性が砦の中から駆け出してきた。
「私はラグルだ。マルーシャス王女様はご無事なのか?」
「王女様はご無事です。今負傷した者に付き添ってこちらに向かっております」
「わかった、おい、けが人を運ぶ馬車を用意しろ、ナウルとか申したな、お前はこの医師と馬車を先導して道案内をしろ。もう一人のお前は中に入って詳しい状況を説明しろ」
ラグルはテキパキと指示し、モビレの砦は慌ただしくなってきた。
暫くしてナウルは来た道を馬で逆走し、マルーシャ達と合流した。ナウルはマルーシャ達の姿をみつけると馬から飛びおりサミュに付き添っているマルーシャに近づいた。
「マルーシャス様モビレの砦にいる医師を連れてきました。この馬車に今乗っております。早くサミュを乗せてモビレの砦に向かいましょう」
ナウルの後ろについてきていた馬車もマルーシャ達の姿を発見すると手前で止まり、中から医師がでてきた。医師はまずマルーシャに近づき挨拶をした。
「王女様、わたくしは医師のアバと申します。けが人の容態は?」
「この毒矢が肩に刺さってしまったのよ、たまたま持っていた毒の中和液は飲ませたと言っていたわ。でも意識が戻らないのよ」
そう言うとアルから受け取った矢と空の中和液の容器を医師に手渡した。アバはその矢の先に鼻をつけると持ってきた布に矢と容器を慎重に包むとサミュの肩に視線を移し状況を確認しながら話だした。
「おそらくこの毒の成分はタキムですな? この毒は猛毒です。急いで砦に運びましょう。この毒の中和液がタキムに効くかどうかはここでは分かりませんが命をながらえるのには役に立っているようですね。まず止血が先決です。さっ、けが人を馬車にお運びください。夜道はまだ危険です。王女様も御一緒にお乗りくださいませ」
「わかったわ。みんなそっとサミュを馬車へ運んでちょうだい。それからナウルはこのままみんなのところまで戻って私たちが無事モビレの砦に馬車で向かったと伝えてちょうだい。アルは私と一緒に来て、残りのみんなは後からゆっくりきなさい。道はわかるわね」
「はい!」
ナウルはまた再び馬に乗り駆け出した。マルーシャは馬車に乗り込むと、アルと共にモビレの砦に向かった。
その頃ランドはまだ意識が混濁していた。再三のルカの呼びかけにも何も反応を示さなかった。
「おいランド! いい加減にしろ!」
ルカはいきなりランドの顔を拳でぶん殴った。
ランドは地面に叩きつけられ、口唇から血が滴りだした。ランドは口元の血を手で拭いながらようやく瞳に生気が戻った。
「ランド、やっと正気に戻ったか。しっかりしろ! 今サミュはマルーシャとアル達がモビレの砦に運んでいるところだ」
「ああ、すまない」
「そう自分を責めるな、サミュはまだ死んじゃいない」
唇をかみ締めながら拳を握り締め、小刻みに震えているランドにルカは首をかしげた。仲間の死を何度も目の当たりにしてきているランドがこんなに同様しているのは始めてだったからだ。
それは自分の身代わりで負傷したからなのかとも思ったが、なぜかそれだけではなさそうだと直感したルカだったがあえて何も聞かなかった。その時ナウルが戻ってきた。
「ランシェルド様! ルカリオ様、サミュは無事モビレの砦からの馬車でマル―シャス様とアルセンド様が同行されて向かいました。医師が付き添っていますので大丈夫だと思います」
ナウルの言葉を聞いて安堵のため息をついたランドはいつものランドに戻っていた。
「よし、俺達も急いでモビレの砦に向かうぞ。今日はそこで休もう」
きびきびと指示をだして身支度を始めたランドの後ろ姿を眺めながらルカは胸騒ぎを覚えて一人つぶやいた。
「もう戦いは終わったはずじゃなかったのか? あいつは何を隠しているんだ」




