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新たなる戦いの序章③

その日の夜遅く、モビレの砦ではまだサミュの止血手術が行われていた。後から到着したランドに事の真相を聞いたラグルに、ランドは敵は恐らくフツ王に雇われていたギロダ人の元兵士達が身を潜めていたところへ我々が通りかかったので襲ってきたのだろうと説明した。


ラグルはそれで納得したがマルーシャを含めアルもルカもランドが嘘を言っているということはしゃべり方ですぐわかった。だが今は何も言わなかった。ただサミュの無事を祈った。


夜明け近くになってようやく医師アバがサミュが運び込まれた部屋からでてきた。一同は医師にかけ寄りサミュの容態を聞こうとしたが、まずマルーシャス王女様にご説明が先だと言って、マルーシャとランドの2人だけを隣の部屋に通し、扉を閉めて話はじめた。


「彼の止血はなんとか成功いたしました。止血処理は想像したよりスムーズに終わり出血も最小限で済みました。それはなんと申しましても、この中和液をすぐ飲んでいたのが幸いしたのでしょう。この容器に少し残っていた残りの液を調べましたが複雑な薬草が混ざっていてわたくしの知識では分かりませんでした。あの矢に塗られていた毒はタキムともうしまして、フィスノダ国の高地に生息すると言われている貴重な草の一種です。調合の仕方によっては薬としても使われるそうですが、何かを混ぜると猛毒になると言われている恐ろしい草です。その調合方法はあまり知られていないのですが、あまりの猛毒で体に入るとすぐ命を落とすと聞きおよんでいますが、今のところこの中和液は効果を発揮しているようです。意識が戻れば命は大丈夫だと思いますが…しかし意識が戻っても体が動くようになるかどうか…それにいたしましても、この中和液はどこで手に入れられたのですか? この中和液を調合した人物ならば、もしかしたら彼を動けるように出来るかもしれませんが…」


「それは…ランナという人にもらったものです」

ランドはランナの事はいうつもりはなかったがごまかしきれないと思い直し、ランドがいつも呼んでいた呼び名をアバに言った。するとアバは意外な反応をみせた。


「ランナともうされたか? そのお方はもしかしてランナフィア・リルハーン女史のことではございませんか?」


「確かそんな名前でしたが、なぜ彼女の名をご存知なのですか?」

ランドは驚いたように聞き返すとアバが真剣な顔つきになって話出した。


「私ども医師仲間の間ではもう長い間彼女の噂は聞かなくなっておりましたが、リルハーン女史はまだご健在でしたか。あの方は薬種の調合においても医術においてもこの国はおろか、この世界中で彼女に治せない病はないとまでいわれたほどの伝説の天才薬師です。彼女の配合ならば納得です。彼女ならばもしかしたら彼のことも救えるかもしれません。どちらにしても意識が戻らないことにはどうしようもありませんが…」


医師の説明でランドの態度は微妙に変わったようだったが、ランドはすぐ隠してしまいランドが何を考えているのか図りきれなかった。


「わかりました。それであなたのみたところ、彼の傷口の具合はどうなのですか? 馬車での移動には差し支えありませんか?」


「そうですね…傷自体はそんなに深くありませんので、馬車でゆっくり行けば大丈夫でしょう。ここよりはラールシア本国の方が治療もできると思いますし」


「わかりました。では、彼もラミド城からマルーシャス王女様の護衛官が到着次第、馬車を一台お借りして一緒につれて帰ります」


ランドはそれだけ言うと、薬師に頭を下げて部屋を出て行ってしまった。ランドはそのままサミュの眠る部屋に向かった。部屋には誰もおらず、部屋の真ん中にベッドと椅子だけがポツリと置かれているだけで他には何もなかった。 


ベッドの上には青ざめ、血の気のないサミュが横たわっていた。ランドは椅子に腰かけながら眠っているサミュの様子をじっと見詰めた。


「お前…どうして俺なんかをかばった! 俺はお前に何もしてやっていねえじゃねえか。なのにいつも笑って…」


ランドはサミュを見詰めながら傷を負った肩とは反対側の手を力強く握り叫んだ。


「ばかやろーっ! 目を覚ませ! こんな俺のためになんか死ぬんじゃねえっ!」

その時、かすかにサミュの指先が動いた。ハッとしてサミュの顔を見ると、サミュが目を覚ましていた。サミュはランドがいるのに気がつくと、弱弱しく微笑んでみせた。ランドは握っていた手を離しサミュが見える位置まで顔を近づけた。


「ランシェルド様…ここは天国じゃないですよね…僕生きているんですよね」

「当たり前だろうが…お前が死んでいいわけないだろうが…」

ランドの言葉にサミュは視線を天井に向け、遠くを見つめるかのようなまなざしで話はじめた。


「ランシェルド様…僕は幼い頃からずっと思っていました。僕は生まれてきてはいけなかったんじゃないかと…だから…いつかランシェルド様の為にこの命をかけることができたら僕が生まれた罪も消えるんじゃないかと…」


「ばかやろうーっ!」

突然ランドは部屋の外にも響くような声でサミュを怒鳴りつけた。

ランドは握りしめた拳を震わせながら驚いているサミュを睨みつけた。


「お前が生まれてこなけりゃよかったなんて誰がそんな事を言ったんだ! お前はお前にしか出来ないことをする為に生まれてきたんだろうが! 俺の命の犠牲になる為に生まれてきたんじゃねえ!」


ランドはそれだけ言うとサミュから目をそらし後ろを向いて立ち上がった。サミュはそんなランドの後ろ姿を見詰めながら弱弱しく小さな声で言った。


「でも…ランシェエルド様はラールシアにとっては大切な人…僕の命なんかよりよっぽど…ランシェルド様がご無事で本当によかったです…」


「ばかやろう…お前がいなくなっちまったら俺の血のつながった人間があのくそ親父一人になっちまうだろうが…早く帰るぞラールシアに…」


「はい…」

今度は搾り出すような声で言ったランドに、サミュの目から一滴の涙が流れた。

「お前の意識が戻ったことをみんなにも知らせてやらないとな。サミュ…ありがとうな」


ランドはサミュに背を向けながらそう言って部屋を後にした。部屋の外ではマルーシャをはじめ、仲間がたくさんつめかけていた。


扉を開けたランドが心配そうに見守る仲間達にサミュの意識が戻ったことを告げた。喜びの歓喜の中いっせいに狭い部屋に仲間達が押し寄せサミュを囲んで皆泣き笑いを繰り返した。


ランドは静かに部屋を離れ一人でどこかに行こうとしていた。心配になったマルーシャがランドを呼び止めようとした時、アルがマルーシャの肩を叩き首を横に振った。


「今はうまく感情をコントロールしきれない自分を誰にも見られたくないんじゃないかな。ほっといてやればあいつは自分でけりをつけるさ、もう少し待ってやろう」


アルがそっとマルーシャに言った。マルーシャも頷くと、じっとランドの後ろ姿を見送り、姿が見えなくなるとくるりと向きをかえ、笑顔を作るとサミュのいる部屋に入って行った。


「さあみんな! それくらいにしておきなさい。サミュは今まで死神と戦ってやっと戻ってきたばかりなんですからね。あんまり疲れさせちゃいけないわ。さあ、みんな早く部屋からでなさい。そばにいるのは一人で十分よ」


そう言うと兵士達を部屋から追い出し、マルーシャは部屋の内側から扉を閉めた。そしてサミュの横たわっているべッドの横にある椅子に腰かけると笑顔で話しかけた。


「サミュよく戻ってきてくれたわ。あのまま意識が戻らなかったらどうしようかと思ったわよ」

「僕夢を見たんです。ランシェルド様が僕を呼んでいるんです。だから僕急いで行かなきゃって声のするほうに走っていったら目が覚めたんです。でも…なんだが体が動かないみたいなんです」


「当たり前よ、猛毒が体に入ったんですもの。でも安心なさい。時間はかかるかもしれないけれど、あなたの体は必ずよくなるわ。私が暫くここにいてあげるから安心してもう少し眠りなさい」


「マルーシャス様、僕、幸せです。僕のことをあんなにも心配してくれる仲間達がいるなんて…死ななくてよかったです」


「よく頑張ったわねサミュ。本当にありがとう。ランドの命を救ってくれて…」

マルーシャの言葉にサミュがにっこり笑ってみせ、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。

マルーシャはサミュが寝息を立てているのを確認し、安心して小さく安堵のため息をついた。そして椅子から立ち上がり窓の外を見詰めた。


外は夜中からポツリポツリとふりはじめていた雨音が激しくなってきていた。ふと外にランドがいるのに気づいた。ランドは身じろぎもせず激しくなっていく雨雲を睨みつけるかのように天をあおぎながらじっと動かなかった。そんなランドをただマルーシャは部屋の中から見守ることしかできなかった。ランドはふりしきる豪雨の中、心の中で叫んでいた。


(ジイール! いつかお前とは必ずけりをつけてやる! お前の思い通りにさせてたまるか!)

「ウオーッ!」

ランドは自分の決意を奮い立たせるかのようにカッと天を仰ぎ、握りしめた拳に力を込めて拳を強く天に向かって振り上げ絶叫した。

雨はいよいよ激しさを増していった。



ようやく第一章が終了いたしました。

次回から第二章【長期休暇】編がスタートします。

戦争が終わりラールシアに戻ったマル―シャ、戦争終結に伴い葬礼の儀が終わると、兵士たちに長期休暇が与えられることとなります。この長期休暇マル―シャの身に果たして何が起こるのか?

二章からも読んでいただけると幸いです。

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