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二人の王女②

ランドが去ったのを見送ると、マルーシャはおもむろに大きく伸びをしながらその場に座り込んだ。


「あーなんだかどっと疲れがでてきちゃった感じだわ。ねえあなた達も座ったらどう? こちら側なら雪も積もっていないし、立ったままじゃ疲れるでしょ?」


警戒しながらまだ粗末な武器を手放そうとしない男達に向かってマルーシャが笑顔で言った。すると後ろにいたサミュがいつもの満面の笑顔でマルーシャのそばに近づいた。


「じゃあマルーシャス様が座るなら僕もここに座ってもいいですか? 実は僕も本当は座りたかったんです」


「ええ構わないわよ。サミュもそうしなさいよ。ずっと立ちっぱなしだもの疲れちゃったわよね」

マルーシャがそう言うとサミュはさりげなくマルーシャと男達の間に腰をおろした。


それを見たアルやルカもさりげなくマルーシャを取り囲むような場所にそれぞれ腰をおろした。その時風が吹きバルデ城の掘りの谷底からゴォーという音が響いた。それと共に冷たい冷気が城門から吹き込んできた。マルーシャは思わず身震いしながら両手をくんで城門の外に見えるバルデの都に視線を移した。


「やっぱりここらはの朝は冷え込むわねえ…でも見て、太陽の光が降り積もった雪に反射してすごくきれいね。明け方また雪が降ったみたいね。ラドルジアじゃ見られない景色よね」

「そうですね。まるで宝石をちりばめたようですね」


二人がいつもの調子で笑顔で話しているのをただだまって聞いていたバルデの都の男達だったが、二人の笑顔で少しずつ警戒心がとけたのか、一人また一人と武器を放り投げ、いつしかどこからか持ってきた焚き火用の木をマルーシャの近くに積み上げ火をつけ暖をつくりマルーシャの周りに腰かけ話しかけてきた。


「それにしても、わしにはあんた様がどう見ても王女様には見えないんですけんど、どこかわしらの王女様と笑った感じが似ていなさる気がします。やはりあんた様は王女様で間違いないようですな」


「あら、ようやくわかったの。ねえ聞いた? 聞いた? アル、ルカ王女に見えるって」

「ああ聞いた聞いた。確かに変わってるもんなマルーシャス王女様は」

「ルカ! 変わってるってどういう意味よ」


ルカがわざといつも言わない正式名で言ったのを聞いたマルーシャはルカを笑いながらこづいた。

そんな二人のやりとりをアルは笑いながらもマルーシャの行動を感服しながら見守っていた。

さっきまで敵として睨んでいた男達が今は全員笑ってマルーシャのそばに腰掛けてリラックスしているようだったからだ。


「そういえば、どうしてあなた方はさっきまで姿を隠していたの?」

マルーシャはさらりと男達にたずねた。するとさっきまでなら警戒しておそらく答えてくれなかったであろう男達がすんなりと話始めた。


「ああ、そのことならわしら王女様の護衛兵の五人衆の方々から使用人達とわしらバルデの都の人間に王様やギロダからの雇われ兵達には内緒で、もうすぐラールシア軍が攻めてきそうだから夜中になったらみつからないように隠れているようにって教えてくれたんですよ。俺達だって命はおしいですからね。見張りをしている振りをしながら戦闘が始まった時、それぞれ隠れられそうな場所に隠れていたんですよ。あっだけんど王女様の命は別ですよ。あのお方はこんなわしらにも優しくしてくださるんです。王様の目を盗んではご自分でいろんな薬草を探してきてくださり、病気になった者の看病を寝ずにしてくださったり、わしらにとったら神様みたいなお方だ」


「そうなの……そんな王女様がいるならこの国も安心ね」

「でも私達が城にくるってどうしてわかったのかしら?」

マルーシャが首をかしげていると一人の男が話しだした。


「わし知っているだ。あんた方ここに来る前にルアボ村で休憩しなさったでしょう。ジル様があそこで見たとロム様に話しているのを聞いただ」


「見られていたのかしら? でもあそこは今は廃村になっているんでしょう? なぜそんな場所にいたのかしら」


「それはこの前はフツ王様の兄君のジャラル様の王妃様のイレイア様がお亡くなりになったとされている命日で、命日の日の朝早く王女様が五人衆の方々と一緒に城をこっそり抜け出されるのをお見かけしただ。きっとルアボ村に行かれなさったんだよ…王女様は王様には内緒でいつもかならず命日の日にはお亡くなりになられた場所にお参りにいきなさるんだ。ジャラル様もイレイア様も暗殺されて以来、未だに王家のお墓に墓標すら作られていないありさま、お二人がハンカチがどうのっていってたようだから何か落し物を探しにもう一度ルアボ村に戻った時、あんた方を見たんだと思いますよ」

「ハンカチ…」


その時ルアボ村の林の中で拾った金の刺繍入りのハンカチのことを思い出した。

「ねえ、あなた達このハンカチに見覚えないかしら?」


マルーシャはルアボ村の林の中で拾った金の刺繍入りのハンカチを取り出し見せた。


「ああ、それはノアーヌ王女様の持ち物に間違いねえだ。王女様はここ数年貧しいわしらのためにご自分の宝石を処分なさってわしらの為にいろんなものを商人達から買っては配ってくだされていたんだけんど、わしら申しわけなくてご自分の宝石を手放すのはやめてくだされって言ったことがあるんですだ。そしたら、ご自分には宝物が一つあるからって言われて、金色のダルジーの花が織り込まれたそのハンカチをみせてくだされたことがありますから間違いねえだ。なんでもとても大切な人からのプレゼントだそうで、これがあるから他は何もいらないからって、見せてくれたことがあったから間違いないですよ」


「そう…これはノアーヌ王女様のものだったのね」

マルーシャは暫く無言になり考え込んでから独り言のようにしゃべり出した。


「大丈夫かしら…私はここを動かないって言ったけど、やっぱりあの口下手のランド一人に行かせたのが心配だわ。ノアーヌ王女様の命を保障するって言ってもすんなりと彼の言葉を信用して地下牢からでてきてくれるかしら……ランドは短気だから護衛兵の人達に誤解をまねいて一戦交えるなんてことにならないといいんだけれど…」


マルーシャはランドが入って行った塔の方に視線を向けながらわざと大きな声で言うと、グースがマルーシャに向かって言った。


「あなた様は悪い人間じゃなさそうですね。王女様には見えませんが、どうやら本当のラールシアの王女様に間違いなさそうですし、あなた様のことを信じましょう。なんとかノアーヌ王女様があんな暗い地下牢から早くでられるように取り計らってくださいませ」


グースがマルーシャの顔を真剣な表情でみながら言った。すると男達もガヤガヤとしゃべりだし一人の男が代表で話し出した。


「グースさんの言う通りだ。あんたはいい人みたいだしな。もうここにはいなくていいから行ってくだされ。王女様が追い詰められて自害でもなされたらわしらの未来は消えてしまう」


バルデの都の男達はマルーシャの底抜けの明るさと、人あたりのいいしゃべり方ですっかりマルーシャを信用し始めていた。


「みなさん、私の言葉を信用してくれてありがとう」

マルーシャは立ち上がると大きく頭を下げた。バルデの都の男達はマルーシャの態度に困惑しながら顔を見合わせていた。するとグースが立ち上がりマルーシャに頭をあげるように促すと言った。


「やっやめてくだされ、仮にも王女様がわしらみたいなもんに頭を下げるなんてこと…あなた様は変わった王女様ですのう」


グースの言葉に他の男達も皆頷きあいどっと笑い出した。それを見てマルーシャも笑いながらアルとルカとサミュに向かって言った。


「じゃあ、私は皆様のご好意で釈放になったことだし、私はあの口下手で短気な部下をみてくるわね。アルは私について来て、ルカとサミュの二人は今度は私の身代わりなんだからここで大人しく待っていなさい。それから…そこのあなた、地下牢へ案内してくださるかしら?」


そう言うと近くにいたバルデの都の男の一人に案内役を頼んだ。立ち上がったアルと案内役の先導で三人は地下牢のある塔に走りだした。ちょうど建物の中に入る瞬間にマルーシャがふいに立ち止まり、残っているルカとサミュに向って一言叫んだ。


「いいことサミュ! ルカが私の悪口を言わないようにきちんと見張っているのよ。ルカ! 私がいないからって、私の悪口なんか言ったら承知しないわよ」

「ああーわかったわかった」


ルカはその場に座りながら右手だけ上に上げ笑いながら答えた。



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